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1章14話 為政者の自覚

 時は少し遡る。

 ミランダがアサムと共に去勢馬に跨がって走り去った後。オルフィーナ達生徒4人は、馬車の傍らで口論していた。

 今すぐナーナスに引き返すべきだと主張する上級生のアメリアと、今すぐ後を追ってお手伝いすべきだと主張するオルフィーナ。そして、ここに留まって状況を見極めるべきだというクリストフ。三者の主張は、真っ向からぶつかり、平行線を辿っている。

「あなた達は、どうしてそんなに聞き分けがないのですか! 導師の命令に従うことが、どうしてそんなに不満なのです?」

「だって、わたし達にも何か手伝えることがあるかも知れないじゃないですか! このままだと、困ってる人がいっぱいでるんでしょ!」

「オリィ、君のその主張は僕も正しいと思う。だが、僕らはまだ未熟だ。導師について行っても足手纏いになるのが関の山だろう。何をすべきか、まず見極めることこそが今やるべきことだと、僕は考える」

「こんなに遠いところでのんびりしてたら、間に合わなくなっちゃうよ! それに、わたし達だって依頼を受けた魔道士なんだよ!」

「いいえ、クリスの言うとおりです、オリィ。あなた達は外の世界を何も知らない、未熟な雛鳥と変わりません。枝から枝に飛び移る術を学んで一人前の気分でいるようなものです。鳶から身を守る術も持たずに、のこのこと親鳥の後について巣から離れるつもりですか!」

「雛鳥だって虫を食べられるじゃないですか!」

「……君は何を言ってるんだオリィ。ですがアメリア先輩、このまま僕達だけ安全なところに逃げ出すのは僕も納得できません。オリィが言ったとおり、僕達も組合の魔道士の端くれです。タルダットの無力な住人よりは、力がある自覚もあります」

「……っクリス、貴方までそんなことを……!」

 激しい口論の輪から外れ、シフォンは一人、狼狽えていた。三人それぞれの言い分は解る。誰一人、間違ったことは言っていない。だからこそ、どの意見が妥当か、判断がつかない。

 心情的には親友であるオルフィーナの味方をしたいが、あまりに近視眼的だ。修練の成果を試したい気持ち、わたし達だってやれるんだと言う自信は、シフォンにも勿論ある。だが、アメリアの言うとおり、自分達には圧倒的に経験が足りない。戦闘経験などまったく無いし、血塗れのアサムを見ているだけで、背筋が寒くなり、胃の中がひっくり返りそうだった。もし魔物に襲われたら、どうして良いか分からない。

 クリストフも、その事は十分に解っているのだろう。冷静に努めるその姿勢は、流石クリストフだと思った。でも、自信家の彼にしては幾分消極的にも思える。きっとオルフィーナも、同じように感じているのだろう。

 皆の主張を、整理し、統合し。

「じゃ……じゃあ、危なそうだったらすぐに引き返すということで、様子を見ながらもう少し近づいてみませんか……?」

 おずおずと出した提案に、オルフィーナとクリストフは即座に同意した。

「さっすがシフォン! うん、そうしよう! そうしましょう!」

「確かにオリィが言うとおり、ここでは何かあっても間に合わないかもしれないな。慎重な姿勢を忘れなければ善い。シフォン、僕も君の案に賛成だ」

 だが予想通り、アメリアは渋い顔をする。折衷案として撤退を取り入れてはいるものの、実質的にはクリストフよりも更にオルフィーナ寄りの提案なのだ。しかもそこに、下級生が三人とも同意してしまったのだから、無理もない。

「まったくもう、あなた達ときたら……。街に近づくことは、この私が許しません。いいですか? 本当に危険な事態とは、得てして突然やってくるものなのです! 危なそうだと思った時にはもう手遅れかも知れません」

「アメリア先輩はそれでいいんですか!? それじゃわたし達、何のためにここまで来たのか分かりません!」

「事態は変わったのです、オリィ。ベラルカ様も仰っていたでしょう。ただでさえ今回の任務は、本来はあなた達初級魔道士には過ぎたものだったのですよ。それが今や、不測の事態により危険性はずっと増しています。決して、あなた達を連れて行くことはできません」

「わ、わたし達はそうかも知れないですけど……。でも、アメリア先輩は、上級のすごい(・・・)魔道士なんでしょ!?」

 思わぬオルフィーナの反論に、アメリアは小さく呻き声を上げた。この真っ直ぐ純真な瞳で見つめられた上でのこの台詞は――恐ろしい殺し文句だ。ミランダ導師が感化された理由が解った。

「ミランダ導師(せんせい)が言ってました! アメリア先輩は、今のミルズフィアで一番優秀だって! 五年生で上級の資格を取れた生徒は十年ぶりだって!」

 更に追い討ちが掛かる。ああもう、何て――何でこんなに愛らしいのだろうか、この後輩は。もっと、憎らしい娘だったら良かったのに。

「つまり、私だけでも導師を手伝いに行くべきだと、そう言うのですか?」

「はい! アメリア先輩だったらきっと、いっぱいお手伝いできると思います!」

 そうなのだ。オルフィーナの行動原理の奥底には常に、誰かの――それも、顔も知らぬ誰かのためにという想いがある。とても、とても幼稚で青臭い。だからこそ、誰がこの純真な天然娘を憎めるものか。

 翻って、アメリアは自らを省みた。ミランダ導師からは、アメリア自身に対しても、決して危険は冒さないようにと厳しく釘を刺されていた。アメリアは、今でこそ一生徒であるが、学院を出れば王位継承権すら持っている、大貴族、大商人の令嬢である。魔道士としての実力はさて置いて、学院、引いては組合、協会としても、彼女に万が一のことがあれば、国に申し訳が立たないのだ。

 ――私は、何のために魔道士を志したのか。

 淑女の嗜み。商人としての教養。協会との人脈づくり。少なからず政治的な思惑が絡む中、三女であるという出自もあって、侯爵家(いえ)の勝手な意向で送り出されたのではなかったか。自分に魔術の才能があったのは、偶然の巡り合わせに過ぎない。

 ――なんて、薄っぺらい。

 アメリアは、その事実に気づいて愕然とした。ミルズフィアにいることは、私の意志ではなかったと言うのか。

 否。それだけではなかった筈だ。魔道の探求に興味を覚え、気がつけば上級魔道士と呼ばれるようになっていた。組合の一員として仕事をする事には、確かに誇りも感じていた。指導者、為政者としての知識も学んで、今や導師とでも張り合えるという矜持もある。自分がローズバーグであることさえ考えなければ。

 ――いいえ、ローズバーグであるからこそ!

 我が親は、領民を捨てて命大事に逃げ出すことを善しとするような、そんな独善的な領主なのか。

 断じて否。

 ローズバーグの矜持とは、そんなちっぽけな筈がない。今にも助けを求める領民達を置いて逃げるなど、領主の、ローズバーグ侯爵の娘が見せるべき振る舞いではない。

「貴女の言うとおりですね、オリィ。目が曇っていたのは私の方だったようです。私はミルズフィアの生徒になって以来、出来るだけ貴族であることを忘れようとしていました。特別扱いが我慢ならなかったのです。でも、今ばかりは貴族としての名誉と責任を思い出すべき時であると気づきました。タルダットは我が父、我がローズバーグ家の領地。ならば領民を護るのは、領主の娘たる私の役割です」

 決然とした、凛々しさすら覚えるアメリアの宣言を目の当たりにして、三人の下級生は揃って顔を紅潮させた。それほどに、迷いを吹っ切った今のアメリアの立ち姿は美しかった。

「但し、あなた達を連れて行くかどうかは、また別の問題です」

 冷や水を浴びせるような一言で、そんな三人の興奮は瞬く間に醒める。苦い顔をするクリストフを、失望を露わにするオルフィーナを、困った顔をするシフォンを順番に眺め、不意にアメリアは表情を和らげた。

「でも、やんちゃなあなた達のことです。私が目を離している間に、何をしでかすか、分かったものではありません。……あら。これは困りましたね。私はこれから、領民を救うためにタルダットに向かわねばなりませんのに。どうしたものでしょうね?」

 芝居がかった科白を曰い、悪戯っぽく微笑んで小首を傾げるアメリアを見て、オルフィーナは友達二人と顔を見合わせた。

「えっと、わたし達がアメリア先輩の、目の届くところにいればいいと思います」

 三人を代表して、オルフィーナが答える。

「勝手なことをしないと約束できますか?」

「はい、しません! 先輩について行きます!」

「危険を伴う行動になります。その覚悟はありますか?」

「あります!」「当然です」「が、頑張ります!」

 アメリアの問い掛けに、三者三様、自らの言葉で決意を伝える下級生達。その覚悟を見て取って、アメリアは大きく頷いた。

「宜しい。それでこそ、誇りあるミルズフィアの魔道士です。さあ、参りましょう。領民達はきっと、救いの手を待ちわびています」

 為政者の自覚を瞳に宿し、アメリアは一歩を踏み出した。

 そこにはもう、箱入りの令嬢の姿はどこにも残っていなかった。




 馬車をタルダットに近づけるにつれて、街の混乱ぶりが分かってきた。北の丘一帯に白い魔物が蛆虫のように(たか)り。それを見て叫び声を上げながら、住民達が我先にと逃げ出し始めている。既にタルダットの東門は、押し寄せる人波で混み合っていた。

 アメリアは即座に馬車を降りる判断を下すと、御者にナーナスで待機するように指示を出し、街道を引き返させた。この近くに待機などさせようものなら、これ幸いにと逃げようとする人々に略奪されてしまうことだろう。それに御者も協会の使用人とは言え、一般人だ。危険に晒すわけには行かない。

「落ち着きなさい! 列に並んで街から離れるのです! 怪我をするから押し合わないで!」

 泡を食って逃げ出す領民にすれ違い様に声を掛けながら、アメリアは先頭を切って混雑する門に飛び込んだ。逆流する人波を掻き分け、肩をぶつけながら、街の大通りに辿り着く。オルフィーナ達三人も、先輩が切り開いた道を一列になって小走りで駆けていく。そんな四人を、不意に二人組の男が呼び止めた。

「おい、お嬢さん方どこに行く! 今この街は危険なんだ! 見て判らないのか!」

 槍を掲げ、革鎧を身に着けた、兵士と思しき男達だ。タルダットの守備隊であると判断し、アメリアはついと顎を上げた。鷹揚たる貴族の立ち振る舞いだ。

「あなた達は守備隊ですね。状況を報告なさい」

 親子ほど年下な小娘の尊大な振る舞いに、最初は顔をしかめた二人であったが、アメリアが魔道士であることに気づいたのか、言葉遣いを改めた。

「北の丘に、大量の魔物が発生しているんです。どんどん数が増えていて……それに気づいた住民達が逃げ出そうとしてこの有り様です、えー……ご貴族様」

 彼女が醸し出す雰囲気に感じるところがあったのだろう、兵士は最後にそう付け加えると、ぎこちなく一礼した。

 アメリアは、満足そうに小さく会釈すると北の丘を眺めた。

「まだ魔物は街にはやって来てはいないのですね?」

「はい、ご貴族様。ですが、時間の問題かも知れません。あの丘の天辺から北の門までは、大人の足で駆け下りれば十五分も掛かりません」

 アメリアは納得したように頷くと、街の様子を眺めた。

「ここにいる守備隊はあなた達だけですか?」

「半数は北の門に集合しています。この東側の門にも、後から五十名ほど向かってくる予定です。今、非番の連中をかき集めて編成しておるところです、ご貴族様」

「ありがとう。ひとまず、ここはあなた達に任せて大丈夫そうですね。……もう少し中心に向かいましょう」

 後輩達に声を掛け、早歩きに大通りを進むアメリア。オルフィーナとシフォンは二人の兵士に深々とお辞儀すると、クリストフを伴いその後を追った。

「あまり奥に入りすぎると、ミランダ導師と落ち合うのが難しくなりませんか? 恐らく導師はソーマ人との交渉のために、港に向かったと思います。仮に交渉がうまく運んだ場合、導師が先に引き返してしまわれるのではないでしょうか?」

 迷いなく進むアメリアの背にクリストフが懸念をぶつける。だが、アメリアは足取りを緩める素振りもなく、首を横に振った。

「ミランダ導師のことは、街を出るまでお忘れなさい、クリス。私達の目的は、領民の救済です。貴方もその事に同意してくれたでしょう? 決して、ミランダ導師と同じ目的でここに来たわけではありません。……どうせ後で、こっぴどく叱られるんです。せめて、後悔の無いように行動しましょう」

 冗談めかしたアメリアの返事を聞いて、クリストフとシフォンは顔を見合わせて苦笑した。オルフィーナは一人だけ、全界の終わりが来たような顔をしている。ミランダに叱られることなど、考えてもいなかったという顔だ。

 なだらかな坂道になった大通りを進むと、荷車を押す人々に混じり、十名ほどの守備兵が小走りに東の門に向かうのとすれ違った。領民たちに声を掛けながら進んでいると、やがて少し小高くなった広場のような場所が見えてくる。左手、南側を見ると、視界が開け、港が一望できた。

「あれは高速船……アメリア先輩、ソーマ人の艀船(はしけぶね)が一斉に沖に向かっているようです」

 目聡く沖合に向かう船の群れを見つけ、クリストフがアメリアに声を掛ける。

「ソーマ人達も、事態に気づいたのでしょう。早々に沖に逃げるのは賢い判断です」

 ミランダ導師は間に合ったのかしら、とアメリアは首を傾げた。もしかすると、あの船のどれかに、導師とアサムも同乗しているのかも知れない。

「まだ避難していない人もかなりいるみたいですね」

 街の様子を見渡して、シフォンが怪訝そうな顔をする。確かに、泡を食って逃げ出そうとする人々がいる一方で、頑固に店の前から動かない老人や、ただ不安そうに北の丘を眺めているだけの婦人の姿も目につく。生活の基盤である店や家を簡単に捨てて逃げる判断ができないのだろうと、アメリアは察した。

「避難するように、声を掛けて回りましょう。東門か、船を持っているならば港に誘導しても良いかも知れません」

「はいっ! お仕事ですね!」

 目をキラキラと輝かせて、力いっぱい返事するオルフィーナ。早く役に立ちたくて、うずうずしていたようだ。

 四人は広場を中心に、手分けしてまだ避難を始めない住民達への声掛けを始めた。無論、まだ成人も迎えていないような子どもの言うことに、簡単に耳を傾けてくれるくらいならば、彼らは最初から逃げていただろう。説得するのも一筋縄では行かない。だが、アメリアが領主の娘であることを明かし、更にそのアメリアが損害への補填を二つ返事で宣言すると、頑固だった人々も漸く重い腰を上げてくれた。四人は立ち止まる間も惜しんで近所を駆け回り、四十人近い住民を避難させることに成功した。

 そうして、広場の近くの店や住居を粗方回り終えた頃だった。

 誰かが突然、金切り声を上げた。

 逃げ出そうとしていた人々の中からどよめきが上がり、やがてそこかしこから、絶望的な悲嘆の呻き声が聞こえ始める。

 彼らが穴が開くほどに血走った目を走らせる、その先で。

 脅威が形を持って膨れ上がっていることが、オルフィーナ達にもすぐに分かった。

 遂に白い魔物どもが、丘を下って行軍し始めたのである。




「もう、一刻の猶予もありません。あなた達もお逃げなさい」

 アメリアの指示に、しかしオルフィーナ達下級生は揃って首を横に振った。

「アメリア先輩は最後まで残るおつもりなんでしょう?」

「アメリア先輩を置いてなんて行けません!」

 クリストフとシフォンに食い下がられて、眉尻を下げるアメリア。

「わたし達、アメリア先輩の目の届かないところで何やるか分かりませんよ!」

 精一杯背伸びして凄むオルフィーナの真顔を見つめて、アメリアは思わず状況も忘れて吹き出した。

「先輩を脅すとは不敬に過ぎます。貴女には後でお仕置きが必要ね、オリィ」

「う、ご、ごめんなさい」

 アメリアの冗談を本気にしたか、しゅんと肩をすぼめるオルフィーナ。そんな後輩に優しい眼差しを向けると、アメリアは大きく一つ、深呼吸した。

「あなた達の気持ちはとても嬉しく、また同じミルズフィアの魔道士として、大変誇らしく思います。でも、ここまでです。私には、領民の最後の一人が逃げ終わるまで、殿(しんがり)として街を護る使命があるのです。恐らく、魔物との戦いは避けられないでしょう。これ以上、私の我が儘に付き合わせる訳には参りません。攻性魔術の素養を持たないあなた達三年生では、そう――誤解の無いようにはっきり言わせて下さい――足手纏いなのです」

 苦しげに言葉を絞り出すと、熱くなった首筋を冷ますように、アメリアは髪の毛を両手で掻き上げた。

「……使えます」

 ぽつりと、だがはっきりと呟いたのは、シフォンだった。思いがけぬ反論に、ぎょっとして目を見開くアメリア。

「わたし達は、三人とも攻性魔術を使えます。この半年、導師(せんせい)方には内緒で、習っていない式も練習していました。勿論、実戦の経験はありませんし、怖いですけど……でも、戦えます」

「シフォン、あなた……でも」

 三人の中で一番気弱そうなシフォンの決意に満ちた訴えを聞いて、アメリアの心は大きく揺さぶられていた。

 迷いを見せるアメリアを後押しするように、クリストフが背筋を伸ばす。

「背中くらいはお守りできます。僕らも戦わせて下さい、先輩」

「アメリア先輩も、一人じゃ不安でしょ? 四人の方が絶対に安心です!」

 緊張した場には相応しからぬ、無邪気な笑顔を振りまくと、オルフィーナはアメリアの手を取った。温もりとともにその手が微かに震えているのを感じ、アメリアははっとなる。震えていたのはオルフィーナだけではない。シフォンもクリストフも、そしてアメリア自身も、緊張に震えていることに気づいたからだ。でも、後輩たちは笑っていた。三人とも、強い思いと確かな自信を瞳に漲らせて。

 最後の一押しとばかりに、胸を張るクリストフ。

「大丈夫です、先輩。僭越ながら――僕ら(・・)は天才です」

 堂々と言い放った少年の顔を、今度こそ驚きのこもった眼差しで見つめるアメリア。クリストフが自信家なのは知っている。でも、目上の人間を挑発するようなやり方で、自分の才をひけらかすような子ではない。

「うん! クリスいいこと言う! 今こそ、びっくり会の出番だよねっ!」

 えいえいおー、と一人で掛け声をかけて盛り上がるオルフィーナ。

 アメリアは、そんな後輩たちに囲まれて、未だかつて感じたことのない心の昂ぶりを感じていた。まだ成人も迎えていない、本格的に魔法を習い始めたばかりの子どもたちが。こんな、大人達が逃げ惑う、自らの身の危険をも感じる状況の中で。でも、自分を支えてくれるこの三つの手は、なんて温かくて、心強いんだろう。気がつくとアメリアは、愛おしい後輩たちを、三人まとめて両手に抱え、抱き締めていた。

 突然の抱擁に三人は、顔を真っ赤にして戸惑うばかりだ。

「……ありがとう、皆さん。その勇気と献身に、心からの感謝と賛辞を。

 そして、共に参りましょう。私に、手を貸して下さい」

「はいっ!」

 後輩たちの心地よい温もりを感じながら、アメリアはふと、心の中で呟いた。


 ――ところで、びっくり会って何なのかしら。




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