1.4
トレギシェ村の住人達はエスペランザ地方の他の村や町と違い、パ連邦に対して信頼感を抱いていた。それには元帝国軍人のクーンハイトの姿勢にもよるところがあった。国境紛争での足の負傷がきっかけで退役となった彼は、その身体にも関わらず、村のための労働を惜しまなかった。また、村役場の運営にも助言をしたりと真摯な態度が村民に受け入れられていたのだった。そして、住民たちの間で私たちは連邦国民だという意識も強かった。
だから大尉が村を訪れた時、どことなく警戒の色を含んだ視線を向けられていると感じたのは無理もないことだった。
トレギシェ村の村長リーブは突然訪れたセトハウサ国軍の兵士たちに頭を抱えた。
「ですから、村長。現在この地域は実質的にセトハウサの影響下にあるのです」
大尉は先ほどから同じ様な説明を繰り返していた。
「そう、言ってもらってもねぇ。なんせ、私たちは連邦の国民ですし、ここはパラムレブ連邦だと……」
「いや、だから、戦線ははるか北に移動しているのです。ここはセトハウサの配下に……」
その時、「村長! 大変です!」と言いながら村の駐在が役場にやってきた。「村のはずれに兵隊さん達がいると、しかもそれがセトハ……」
「それは私の部隊のことか?」また、面倒なことになりそうだと、大尉は思わず舌打ちをしながら答えた。「私はセトハウサ軍の部隊を指揮しているエンツシャード大尉だ」
「セトハウサ軍?!」駐在は驚いた様子で言った。「何事ですか? ここはパラムレブ連邦の村ですよ。道に迷われましたか?」
「どうして、そうなるんだ!」大尉は思わず怒鳴った。「今、我が国とパ連邦は戦争をしているんだぞ。それならこちらの言いたいことが分かるだろ!」
「そりゃ、そうだけど、ここはパラムレブ連邦の……」
なんだ、この村の住人は……わざとやっているのか? それとも、ここ周辺ではまったく戦闘が行なわれいなかったから自覚が無いのか? どちらにしても、こんなことでは埒が明かんではないか。大尉はそう思いながら大きくため息をついた。
そのとき駐在は村長に囁くように言った。
「村長、これはレペンスさんとこに相談しに行った方がいいですよ」
「そうだなぁ。これじゃ埒が明かんですからねぇ」
それはこっちのセリフだ。そう思いながらも大尉は「ええと、その人はどんな人なのです?」と尋ねた。
「レペンスさんとこは軍人さんですよ」
それを聞いて大尉は思わず胸をなでおろすような思いがした。話が分かる奴がいる。これまで村長との出口の見えない堂々巡りをしていた大尉は少し感覚がおかしくなっていた。しかし軍人! それなら多少はこちらの話が通じるはずだ。