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逆2乗法則の力を持つ女  作者: 菅原やくも


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7.6

 午前の間、マルティグラとレペンスは宿舎の部屋で各々の荷物を整頓していた。そして、少し早めの昼食にしようと二人が宿舎の食堂へ向かっている時だった。そこへウルバノ大尉が姿をみせた。自身が言っていたとおり昼までに戻ってきたのだった。

「野暮用は済ませましたか?」マルティグラは声をかけた。

「まあね。だいぶ駆け足で行って帰ってきた」大尉はどこか得意げな様子で言った。「これを見てくれ」

 そして上着のポケットから二枚の紙切れを差し出した。

「なんです? これは」マルティグラは受け取りながら聞いた。

「大陸横断特急の乗車券さ」

「なるほど、どうりで朝早くから出ていたわけですね」だが、マルティグラは一つ疑問を感じていた。「それにしても、たしかに飛行機は首都まで飛べないと、今朝はレグロ中尉から聞きました。フィエル君はいつ知ったんです?」

「ああ、まあ夜中に技師たちの仕事を少し手伝っただけのことさ。いずれにせよ修理も長引きそうだし、鉄道に乗り換えた方がいいと思っただけのことよ」

 それを聞いてマルティグラは苦笑した。

「相変わらず、フィエル君は仕事熱心ですね」

「まさか、仕事熱心なフリをしているだけどよ。それにしても席に空きがあるかどうかは、ちょっとした賭けだった」大尉は肩をすくめた。「まあ、あいにく二等席だがな、一応コンパートメントだ」

「充分ではありあませんか。です、が二人分だけですか?」乗車券を確認しながらマルティグラ言った。

「別に俺の分はいいんだよ」

 その時、ちょうどレグロ中尉も三人のところにやってきて、会話に加わった。

「フィエル君はちょうど戻ってきたとこかい?」

「そうだ中尉、いきなりでなんだが、この基地にある単発機を借りることはできるか?」中尉の方を向いた大尉は言った。

「単発?ここは大きな基地だから問題ないと思うけど、どうして?」

「いや、俺はだな、ちょいと先に首都へ行こうという寸法なわけだ。首都まで行けるなら練習機でかまわん」

「それはどういうことです? フィエル君」

「まあまあ、お二人さんはさっきの乗車券を持って列車でゆっくり来ればいいさ」

「何を考えているのです?」マルティグラはさらに訊いた。

「なに、大したことじゃないさ。それに俺もそれなりに忙しいからね。それに久方ぶりに局長の顔を見たくなった」

 マルティグラにはその言葉が冗談半分だと分かったが、ウルバノ大尉が何を企んでいるかまでは分りかねた。

「じゃあ機体の方は今からあたってみた方がいいかな?」中尉は聞き返した。

「迷惑じゃなければ、よろしく頼む」

「了解」中尉はそう言って再びその場を後にした。

 レペンスはマルティグラの手にしている乗車券を覗き込んだ。

「列車か。少なくても飛行機のように落ちる心配は無いな」彼女はぼやくように言った。

「そうですね。流石にあれは、飛行機が嫌いになりそうです。席は二等でもコンパートメントですから、多少はくつろげそうですね」

「いずれにせよ移動時間は短く済ませたいものだ」

「気持ちはわかりま。さすがの私も疲れましたよ。はじめから飛行船にしておけばよかったですね」

「後悔先に立たずとはこのことだな」

 大尉はその二人のやり取りを黙って聞いていたが、口をはさんだ。

「おいおい、あんまりな言い様じゃないか。せめて乗車券を買ってきたことへの礼一つくらい言ってくれよ」

「ええ、感謝してますよフィエル君」


 それから彼らは午後は昼食も手短に済ますと、駐機場へ向かった。マルティグラとレペンスはついでだから見送りをしようということで、大尉について行った。

 格納庫の出たところには、滑走路の方へ機首を向けた機体が一機すでに準備されていた。旧式の複葉で木製機体だった。とても戦線では使える代物ではないが、新米パイロットの訓練には十分用をなすようだった。「いいね、以前乗ったことのある機体だ。首都までなら余裕だ」そう言って機体の各部を見て回った。

 それから整備兵が二人駆け寄てくるとエンジンを始動させた。

「いよいよ出発としようか。それじゃお二人さん、俺はお先に」とウルバノ大尉はそう言って、訓練用の複葉機に乗り込んだ。

 大尉はコックピット内の各部のチェックと、操縦桿の手ごたえ、フラップの動きを確認した。そうして防風ゴーグルをつけると地上員に合図をした。

「お気をつけて!」マルティグラが声をかけると大尉は拳の親指を立ててみせて答えた。地上要員が機体に近寄って素早く車止めをどけた。機体はゆっくり動き出し、滑走路の方へ向かった。それから機体は滑走路で加速すると飛び上がった。大きな円を描く様に上昇していった。西へ進路をとると次第に遠ざかり、薄雲のなかへ進んでいくと視界から見えなくなった。

「それでは我々も駅へ向かうとしましょうか」

 二人はレグロ中尉の運転する車に乗り、クステグの駅へ向かった。

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