1.3
夕暮れだった。丘陵地帯のくねくねと曲がった道を進む者たちの姿があった。それは兵士達であった。
「止まれ!」
トゥルー・エンツシャード大尉は部隊全体に命じると乗っていた馬から降りた。後ろには三台の馬車と銃を抱えた兵士たち、それから荷物を担いでいるロバが数頭、列を成していた。さらに後方には自転車に乗っている兵士もいた。
「ここで野営する。準備にかかってくれ」大尉は部下の一人に命じた。「それと、あの先にある集落の名称は分かるか?」
視界のひらけた先、大尉が指を差したところには村か、それとも小さな町であろうか。建物が立ち並んでいるのが分かった。
「おそらくは……」部下は素早く地図を広げて道を手でなぞりながら探した。「大尉殿、ここです。トレギシェ村です」
「我々はだいぶ国境に近づいていたんだな」
最新の情報ではここらさらに北側に現段階での暫定的な国境があるはずであった。
「かつては、エスペランザ地方は我がセトハウサの統治していた土地です」部下は思い出すような口調で言った。「今のところはルガ……いえ、パラムレブ連邦は政治的混乱状態にあり、はっきりと定まらない状態ではあります。それに連邦軍の防衛線はここから百キロ以上は北になります」
「分かっている。それに今は国境など所詮は地図の上の線にしか過ぎない。それとこの村はなかなか大きな村だな。ここ一帯がセトハウサ領であることを再認識させることにしようじゃないか」
「明日向かいますか?」
「ああ、それから訓練も兼ねて夜間偵察といこう。今夜、斥候を何人か出して村の様子を見てくるんだ。それから水や食料が徴用可能かどうかも探るとしよう」
「承知しました!」
彼らはセトハウサ国軍の一介の部隊でしかなかった。だが、現在も戦闘が続く地域の合間に点在する村や町に出向き、どちらの国の配下にあるかを知らせるための任務を任されていたのだった。なにせ国境の接する部分は広大である。戦争状態とは言え、まったく戦闘とは縁のないような状況の場所もたくさんあった。そうした集落に出向き、紳士的な態度で持って “連邦政府は貴方達を見捨てたのです” という内容の言葉を掛ければほとんどの人達は協力的な態度を見せたのだった。ある種のセトハウサ政府の戦略であった。こうしておけば、連邦軍が巻き返しを図ったとしても住民との間で対立を起こし、自国に有利になるだろうと考えたのであった。
大尉も、このトレギシェ村もこれまでと同様に上手くいくであろうと考えていた。




