7.3
空軍基地内は新兵訓練であろうか列を組んで小走りに走っている兵士の集団や、広場では高さ数メートルの足場の上から飛び降りては着地をしている兵士たちがいた。おそらくパラシュート降下兵の着地訓練だろうと思われた。遠くでは飛び立ってゆく戦闘機や輸送機の姿も見えた。大尉はそれらを横目に低速で進むと、以前案内された格納庫の近くまでバイクを走らせた。流石のウルバノ大尉も格納庫に直接バイクで乗り付けるなどという野暮なことはしなかった。軍の車両がまとめて止めてある傍に止めると三人は歩いて向かった。
例の航空機はまだエンジンを動かしてもいなかった。整備兵たちが各部をチェックしたり、燃料やオイルの注入を行っていた。
「フライトには間に合ったみたいだな」
「最終調整中だよ」レグロ中尉は一言答えた。
「そうだ、紹介しておこう」ウルバノ大尉はマルティグラとレペンスの二人を示した。「同僚のファリード・マルティグラと政府の重要人物トレス・レペンスだ。例の ‘乗客’ ってわけだ」
「どうも、サットン・ナ・レグロ中尉であります。この新型機のパイロットです」
「こちらこそ、よろしくお願いします中尉」
彼らのあいさつを横目に、レペンスは物珍しそうに格納庫内の飛行機を見ていた。
「いつ出発できるんだ、中尉」大尉は構わず続けた。
「そうだね……燃料を満タンにしてエンジンを暖気して、早ければ正午までには出発できるかも」
準備がすべて整うと機体は牽引車で滑走路手前まで引っ張り出され、いよいよエンジンを始動した。随伴する輸送機も同じように準備を整え終えると出発の時間となった
四人は機に乗り込んだ。コックピットは二つ席、後ろは機銃手の席――ただし、まだ機銃そのものは搭載されていなかった――コックピットの下段には将来的に爆弾投下手が乗ることになる席もあった。コックピットにはレグロ中尉とウルバノ大尉が、下段にマルティグラとレペンスが乗るかたちとなった。
「飛行中は座席のベルトはちゃんと締めてね」中尉が声をかけてきた。「安全のために!」
「了解だ」
下段は前方がガラス張りとなっており、前方や下方向がよく見えるようになっていた。もっとも爆撃機を想定して設計された飛行機ならばごく標準的な作りであった。
中尉は今一度計器各部に目をやって異常がないか確認した。それから操縦桿やペダルの手ごたえも確かめていた。
「大丈夫そうかい?」大尉が声をかけた。
「うん、いまのとこ異常なし。これまでも何回か飛ばしてるし、大丈夫だよ」
それからしばらくすると、指揮所の信号灯合図が瞬いた。離陸許可が出たのだった。地上要員が素早く駆け寄って車輪止めをどけた。中尉はそれらを確かめると、彼らに出発の合図を手で示した。
要員たちは皆、機体から離れると敬礼した。
「それじゃ離陸だな」
離陸の瞬間、マルティグラとレペンスはやや緊張の面持ちだった。
飛び立ってからは、順調に予定の航路を飛び続けていた。
「何だろうな……」
「どうした?」
「いや……左前方、十時の方向。あれが気になるな」中尉は左前方を指し示した。その先には、ほぼ同じ高度に飛行機の姿が見えていた。
「あれも随伴機じゃないのか?」
「違うよ」
「まさかねぇ」そう言いながらフィエルは双眼鏡を探しにコックピットを離れた。
中尉の目立てでは距離千五百ほどだろうとみていた。すぐにぶつかるような距離ではないが、ぴったりと歩調を合わせている様子は、まったく気持ちの悪いものだった。
「民間人が物珍しがって見てるだけだといいけどな」
大尉が双眼鏡を手にして戻ってきた。
「民間機がこの高度で?」中尉の方は信じらないという表情をした。
その間にも大尉は双眼鏡を外に向けて覗いていた。
「ありゃ、単発機とみえた」
「何か分るかい? 所属表記とか」
「まあ、空軍機には間違いないだろうけど。俺に言われても分らんし、遠すぎる」
「双眼鏡を僕にもかして、見てみよう」
中尉は双眼鏡を手に取ると、それを通して左斜め前方を注視した。しばらく眺めていたが「うーん、所属がわからないな。複座の偵察機のようにみえるけど。それにしても機体色が空軍と違う気がする」といって双眼鏡をウルバノ大尉に返した。
「じゃあ、陸軍航空隊かもな」大尉は冗談を言った。それから真面目な顔に戻ると「なんか腑に落ちんな。一応用心したほうがよさそうだぜ」といった。
そのとき、随伴機から無線が入った。
「こちらステニス。中尉どうぞ」中尉の部下、アノール・ステニスの声だった。
「こちらレグロ、どうぞ」
「そちらからも左前方の機が確認できるか?」
「ああ、いま訊こうと思っていた」
「了解。こちらか無線で呼びかけをしてみましょうか?」
「ああ、いや……」中尉は少し考えた。「とりあえずは様子を見よう。警戒だけは怠らずに」
「了解!」




