1.2
トレス・レペンスの能力は、彼女自身の周囲にあるものに力を加えて、動かしたりすることができる――世間一般でよくいわれる念力――ということだった。一言でいえば彼女が扱えるのはそれだけだった。それ以外に予知だとか天の声が聞こえるというようなことはなかった。
ただ、牧師アフェットやヴィゲーセンのアドバイスで、両親はこのことは大っぴらには言わないでいた。またトレスにも念力を人前で見せつけるようなことはしないよう言いつけていた。
トレス自身も初等教育学校での生活も終わりごろになると、自分の能力をそれなりに使いこなすようになっていた。むろん、他の人とは違う能力であることは自覚していたし、不要に人前で使わないよう気を付けるようにしていた。
これにはヴィゲーセンの協力のおかげもあった。彼は時間を見つけてはトレギシェ村を訪れては、トレスといっしょに様々なテストをした。等間隔に並べた本を倒させたり、様々な重さの石を動かさせたり、といったことだった。ゲヴィーセンはそれらの結果を詳細に記録するようにしていた。トレスの両親クーンハイトとヴィエラはその様子を不思議そうに見ていたが、彼はいつも「これは科学的手法だよ」と呟いていた。
それから、トレス自身が念力を上手く使いこなせるよう、手探りではあったが辛抱強く練習に付き合ったのだった。
そんなある日、クーンハイトは兄ゲヴィーセンに尋ねた。
「それで、どうだい?兄さんの中で何か念力についての結論は出たかい?」
「その明確なものまでは、ちょっとね……」彼は顎をさすりながら答えた。「でも、はっきり分かったこともある。たとえばこの力の有効範囲。どうも逆二乗則に従うといっても問題なさそうだ。離れれば離れるほど力の影響は弱まる」
それから彼は何やら数値や表が書きこまれたノートを見せながら続けた。「それとエネルギーの保存則にも則っているようにみえるね」
「その、それはどういうことですの?」
ちょうど部屋に入ってきたヴィエラが聞いた。まったく話の意味を分かっていない様子だった。
「つまりですね……姪っ子トレスちゃんは、未知の方法でものを動かすことが出来るが、まあ念力というやつですね。その力の大きさは人間の持つ力以上でも以下でもないということです。それから範囲は彼女の極限られた周辺だけということ。一言でいえば物理法則における力学を逸脱、というか覆すようなことはしていないというわけだ」
それでも二人はその話を難しそうな顔で聞いていた。
ちょうどその時、「ただいまー!」と学校から戻ったトレスの声が聞こえた。「あれ、ゲヴィーセン伯父さんも来てたの?」
「久しぶりだね、トレス。調子はどうだい? 学校は?」
「上々! この前のテスト満点だったんだから」
「そりゃすごいな」
「うん」
トレスはそれから自分の部屋に戻ると、別のカバンを手にして再び玄関に向かった。
「これから友だちと図書館行ってくるから」
そう言うとトレスはまた出かけて行った。
「いい子だ。活発で普通の女の子だよ」
ゲヴィーセンはおだやかな様子で言った。
「念力が使える以外はなぁ」
父クーンハイトはぼそりとつぶやくように答えた。
「まあ、深刻に考えてもしょうがないと思うよ……。それにトレスは僕らが思う以上にしっかりしてる。きっと大丈夫だ」