5.8
大尉は空軍基地の出入口で警備兵に身分証を見せるとそのままバイクで中へ進んでいった。何度も来たことがあったし、中尉がいそうな場所は見当がついていた。兵舎のそばを歩いてる人の横を通り過ぎると大尉はブレーキをかけた。
「やっぱりな」
エンジンを止め、振り向いてそういうと相手も大尉に気づいた様子だった。
「フィエル君、久しぶりだね」
サットン・ナ・レグロ中尉であった。中肉中背で、いたって平凡という表現が似合う容姿の彼は、そう見えても爆撃部隊の一小隊を率いる立ち場にあった。
「そっちこそ、元気そうで何よりだ。中尉殿」大尉はくだけた調子で敬礼した。
「こちらこそ大尉とお呼びした方がいいでしょうか?」
「いや、いいよ別に。友人同士じゃないか。それに今は陸軍じゃなくて諜報員だしな」
大尉はそう言ってバイクを道の脇に止めた。
「それで、どんな状況だ?」
「朗報、開発メーカーの技術者を乗せた輸送機が随伴することになったんだ。席に空きがあるみたいで、必要ならそれに便乗させてもらうといいよ」
「俺はぜひともコックピットに乗りたいもんだ。サットンが操縦するんだろ?」
「まあね」
「じゃあ俺は見習い副操縦士といこうか」
「細かいことはとにかく……」サットンは進む方向を示した。「歩きながらでいいかな?」
「もちろんだ」
二人は並んで歩き始めた。
「とにかく、俺も入れて三人分の席が欲しい」
「積み荷は?」
「いや、手荷物くらいなもんだ」
「それなら大丈夫かなぁ。それで出発の予定日はいつ? 明日?」
「そこが問題だな。その ‘乗客’ がちょいと遅れそうなもんでね」
「あんまり時間を引き延ばすのは考えものだよ」
「そこ何とか、そうだ、こういう話はどうだ」フィエルはすこし声のトーンを落とした。「俺の知り合いで金持ちの若者がいるとする。そいつは新しいもの好きで、新型の飛行機がテスト中なのを知って、ぜひがでも乗りたいと言っているんだ。航空機産業はこれから発展するから、場合によっては企業への出資を考えている。今そちらに向かっているから待ってくれ。と、どうだ?」
「どうかな? なくはないような話だけど」
「まあ、冗談だよ」
「はぁ……」中尉は大げさなため息を着いた。時々大尉の調子に付き合いきれなくなるような思いだった。
「大丈夫さ、話をつけるのは俺がやるよ。現在進行中の諜報部の活動に少し間借りしたいだけと言いうつもりだ。あとで責任者に会わせてくれ」
「分かった」
「とにかく実機も見せてくれよ」
「これから向かう先がにあるから」
格納庫はすぐ近くだった。格納庫の中は整備兵たちが忙しそうに働いていた。中尉は大小様々な航空機が並んでいるなかの一つを指した。
「あの双発機ね。全長十八メートル。幅は十六メートルちょっとで、空力に基づいた設計がなされている。他の機と比べてもわかるように細長いデザインでしょ?」
横に並んでいる他の双発機と比べると確かに胴体が細く感じられた。また、塗装につやがあり新しい機体であることを思わせた。
「こりゃ、まるででかい鉛筆みたいな機体だ」
「そう、空飛ぶ鉛筆。みんなもそんな風に言っているんだ。速度重視の結果がこの形になったみたい。乗員と積み荷は全部の前方に乗せる格好」
「空飛ぶ鉛筆……長距離エアレースには持って来いかもな」それから眉をひそめると「ただ、爆撃機に使うには弾倉が狭そうだ」と率直な意見を述べた。




