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逆2乗法則の力を持つ女  作者: 菅原やくも


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36/58

5.5

 シスタルービ駅には四つの長大なホームがあり、その向こう側には大きな操車場があった。見た目だけで言えば、山中の都市にしては少し大げさな気配があった。もっとも鉱山の街でもあるからして、近隣から労働者が通うことを考慮に入れれば納得のいくものではあった。

 今のところ構内にいる乗客の姿はまばらであった。ホームに留まっている列車も、ボズロジデニア共和国の首都へ向かう当駅発の急行が一編成だけだった。マルティグラとレペンスは、混乱している改札を素知らぬ顔で通り抜けて列車に乗り込んだ。窓口を閉鎖されていたため、切符は車内で車掌から購入した。

 マルティグラは切符を買うとき、それとなく車掌に訪ねた。

「あの、窓口のあの騒ぎは何でしょう?」

「さあ、私もよくわかりません」

 さすがの鉄道職員も何がなにやらといった様子だった。

「そうですか」マルティグラは窓から駅舎の改札の方に視線を向けた。

「ですがお客様、当列車は予定通り出発の予定ですので。ご安心を」それだけ付け加えて言った車掌は、次の車両に向かって歩いて行った

 列車は定刻より数分遅れたものの、そのほかは何事もなく出発した。列車が動き出すとマルティグラはこれからの方針について考えを巡らした。もっとも、徒歩あるいは車でも手配して連邦国境を直接越えるという手も考えないことはなかった。しかし、つい先ほどの正体不明 _おそらくは共和国の、もしかすると隣国セトハウサの部隊とも考えられる_ の集団の接触を受けた以上、さらなる待ち伏せや脅威があると考えるのが自然な流れだった。それに加え、共和国との本格的な紛争に発展する場合はなるべくノートラール国に抜けて、連邦へ戻るのがいいだろうというところだった。

 四人用コーパトメントにはマルティグラとレペンスの二人だけだった。互いななめに向き合うでかたち座っていた。レペンスはどうにも慣れないといったふうで、落ち着かないような様子だった。

「どうかしましたか?」

「いや、あれだな……」

「もしかして鉄道に乗るのは初めてですか?」

「まあ、初めてではないが滅多に乗るものでもない」

「大丈夫ですよ。私は慣れてますので」

「そうか」

 レペンスは話題を変えた。

「それで、これからどこへ向かおうというのだ。それ以前に、何が起きていたんだね?」

「まあ詳細はわかりませんが、懸念していたことが実際に起きたというだけです」

「どんなことなんだ?」

「国境沿いの領有地問題です」彼は淡々と説明を続けた。「鉱山資源をめぐるゴタゴタですよ。シスタルービ一帯にある鉱山ではボーキサイトが産出しますが、これはアルミニウムの原材料です。工業用軽合金として使うには誰もが欲しがる代物で、事実、ここ数年で民間や軍を問わず需要は高まってます。特に航空機には欠かせないでしょうね」

「その領有問題は、よくあることなのか?」

「領有地の揉め事はどこの国境沿いでもよくあることです。紛争に発展する事案は近年では比較的少ないですが、とくにオワム大陸の植民地では、」

「わかった。もう教鞭は結構だ」

「そうですか。ともかく、一番の問題は国境が封鎖されることなんです。そうなれば越境は容易じゃないですから」

「だからといって、なんで共和国に向かうのだね?」

「ノートラール国を経由するためです。そこなら、比較的中立的な外交姿勢と経済協定を結んでいるおかげで、連邦との一部都市間はパスポートなしで行き来できますから」

「先行き不透明な国境を超えようとするより、確実な方を取るわけか」

「そういうことです。多少時間がかかりますが」マルティグラはさらに付け加えた。「それとあの謎の集団です。どこの部隊かわかりませんが」

「街中で、私達に脅しをかけてきた連中のことか?」

「ええ、まだ仲間がいるとも考えられます。もし、国境近くで待ち伏せされていてはたまったものではありません。まさか共和国方面に向かうとは、そこまで考えてはないでしょう。それに二度目は強硬手段をとる可能性もありますし、相手の一歩でも二歩でも先を行く必要があります」

「そういうものか?」

「まあ、周りからは慎重すぎるといわれることもありますけどね」

「まあ、それならそれで結構だ」

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