3.6
夕日はまだ辺りを照らしていたが、気温はわずかに下がったようで夜の近づく気配は肌で感じられた。
すっかり午後も遅くなった奇妙な雰囲気の中のティータイムだった。
「さて、君の要件のことだが、私にどうしろというのだ?」紅茶を一口飲んでからレペンスは訊いた。
「簡潔に言うならば政府への協力です。これは重要なことですよ。内容はともかくとして、ひとまず首都アファルソエソルまで来ていただきたい。そのために私はわざわざここへ訪れたのです」
「君は私を呼ぶための、使いっぱしりにされたわけか?」レペンスは笑いながら返した。
「そうではありませんよ。首都まで貴女の護衛も任されてます」マルティグラは淡々と応じた。
「私に都市での仕事をくれてやろうとことなのか、あるいは研究所でも用意するのか?」
「端的に言えばそういうことでしょう。正直なところ、私にも詳細は分かりかねます。少なくとも政府は貴女の協力を必要としているのです」
「私の生まれ故郷は戦禍の犠牲にしておきながら、しかも今更にして協力してほしい……そういうのか?」
「トレギシェ村ですね。心情は……お察しします」
そのときレペンスは大きくため息をついた。
「残念だが、マルティグラ君。私はここから離れるつもりはない」
「しかしですね、私は貴女を首都へお連れするのが今与えられている任務です。首を縦に振っていただけるまでここを離れるわけにもいきません。それに首都へ行くことは貴女にとって最良の選択肢であるとも考えます」
「どういうことだね?」
「少なくとも貴女の生業については、ここシスタルービでは比較的知られています。そうでなければ私がこうして派遣されることも無かったでしょう」
「要点を言ってくれるかな?」
「ボズロジデニア共和国はもちろん、セトハウサやエテク共和国も同じようになにかしら情報を掴んでいると考えられます。そうだとすれば他にも人が訪ねてくるでしょう。私は最後まで紳士的態度で貴女に接する心構えですが、彼らが同様に友好的態度であるかどうかは……きわめて不明瞭と考えます。なにせ戦争を吹っかけてきた国やそれを支援した国でもあるわけですから」
マルティグラは話ながら、少し脅迫じみているかなと思いつつも相手の出方をうかがった。
「なるほど……目的のためなら手段を選ばない連中だと?」
マルティグラは何も言わずに小さく頷いた。
「いずれにしても、少し考える時間を私にくれてもよかろう?」彼女はいたずらっぽい笑みを少しみせてつづけた。「君が紳士だというなら……」
「分かりました。いいでしょう。ただ時間も無限にあるわけではないということは、頭の片隅に止めておいてください」
「それは分かっている」




