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逆2乗法則の力を持つ女  作者: 菅原やくも


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17/58

2.5

 セトハウサ軍の砲兵たちが放った砲弾は、村の中心部にも飛来した。レペンス家の屋敷がある所も例外ではなかった。幸運なことにも最初に吹き飛ばされたのは納屋だった。

 着弾した轟音にクーンハイトと妻ヴィエラは飛び起きた。

「なんだ!? 何事だ」

 窓から村の方を見ると既に火の手が上がり、煌々と炎の明かりで建物のシルエットが確認できた。

「なんて連中だ! 今度は村を焼き払いに来たか」

 クーンハイトはセトハウサの軍隊が侵攻してきたと即座に悟った。だが、直後に再び轟音が聞こえたかと思うとクーハイトは意識を失った。


 駐屯地は戦場と化した。榴弾によって地面にはすり鉢状の大穴が開き、破片はそこらじゅうに飛び散った。混乱極まる中、さらに現れたのは戦車だった。暗闇の中で突如姿をみせると砲塔から流れるように閃光が飛んだ。セトハウサ軍戦車の砲塔には八ミリ口径の機銃が二機、備え付けられていた。連続的に機銃は掃射され、オレンジ色の曳光弾が刺すように飛んでいた。いまだ体勢を構えられないでいる連邦軍兵士が次々と倒れた。機銃二機だけで薄い装甲の戦車ではあったが対戦車兵器が無ければ対抗できなかった。

 あちこちで怒号や叫び声が上がっていた。

「戦車だ!」「クソったれ!」「衛生兵はどこだ!」

「応戦しろ! 敵はどこから来て……」

「伏せろ! 機銃掃射だ!」

 対する連邦軍も戦車は動かせる状態ではあった。セトハウサ軍と同じく砲塔に機銃を備え、弾薬は約六〇〇〇発発射可能であった。ただ速力で勝るセトハウサ軍戦車にはかなわなかった。兵士は戦車に乗り込む前に機銃によって身体を引き裂かれていた。戦車兵は車両の下にもぐって身をひそめるのが精一杯だった。幾人かの兵士はなんとか乗り込んで応戦を試みたが、最終的には練度で勝るセトハウサの戦車に撃破されるものもあった。

 急襲された連邦軍は腰砕けであった。指揮も取れていな状態であった。兵士や装備の数でははるかに優位であったのだが……。もっともここへ派遣されたのはセトハウサに対するけん制が目的の部隊で、迎撃体制や訓練が不十分であることも一つの事実であった。さらに言えば、こんな夜中に攻撃されたのではまともに戦う方が無理な話だった。


 そして混迷極める村の中心部をさけて川沿いに進む人影があった。大尉が直接率いる小隊であった。

 レペンス家の屋敷に近づくと、暗がりの中であったが当時のことを思い出していた。あの時と変わらぬか。そう思いなが屋敷の正面に向かった。しかし屋敷はほぼ瓦礫と化していた。

「しまった! 砲撃がまぐれ当たりしたようだ」

「待ってください。あそこに人が」

 ちょうど照明弾によって照らされた中で、瓦礫の中に人の上半身が確認できた。それはクーンハイトだった。大尉は負傷して息も絶えそうな彼と対峙することになった。

「貴様は、あの時の……」近づくエンツシャード大尉をみとめたクーンハイトは残った気力を振り絞るようにして言った。「今度は村を焼く気か!」

「まさか、展開している連邦軍の部隊が標的だ」

「戯言だな」

「こちらには時間が無いのだ。お前の娘はどこだ?」

「なぜ? そんなことを訊く?」

「父親なら、あの能力のことは分かっていたのではないか?」

「それが……どうしたいうのだ」

「お前が賢ければ、あの能力の使い道の一つや二つ、予想がつくだろう?」

「ああ、言いたいことは分かる。それで、娘をさらいに来たんだろう」

「いいや、違うね」

 大尉の返事にクーンハイトは眉をひそめた。

「お前さんの娘が生きていたら、これから戦場はえらいことになる。それは阻止した方がいい」大尉はつけ加えるように言った。

「そういうことか……どのみち、ここには居ない」

「なんだと。どういう意味だ?」

 しかし、彼はがっくりとうなだれるとそこで息絶えた。

 大尉が知るはずもないが、トレス・レペンスはすでにトレギシェ村にはいなかった。彼女は伯父のゲヴィーセン・ベローダのもとに移り住むことにしたのだった。それは駐屯地攻撃の何か月も前のことだった。

 それから家の中を見に行った部下が戻ってきた。

「あの小娘はいなかったんだな?」大尉は戻ってきた部下に問い直した。

「ええ、そのようです。少なくとも瓦礫の下以外は。逃げたのなら別ですが」

「だとしたら逃げ足は速いもんだ」大尉は軽く舌打ちをした。

「大尉殿、そろそろ時間が……下がりましょう」

「こっちにツキが無かったのか、むこうにツキがあったのか……仕方ない、戻るぞ」

 小隊は足早にその場を去った。

 大尉が秘密裏に目論んでいた目的は果たすことはならなかったが、セトハウサ軍部は完勝といえる結果に作戦成功だと喜んだ。そして大尉にとっても軍人生命を絶たれずに済むことになった。

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