2.3
セトハウサ軍の作戦準備は徹底的に秘匿されてた。
大尉はかつての部下と戦線での戦闘経験がある部隊をあてがわれた。かつて馬車に乗ってたどった道を、今度はトラックや装甲車がエンジン音を響かせながら進んでいた。
眼帯をしているのがみえれば、遠目からでもそれが誰であるか分かった。
エンツシャード大尉だった。彼の左目は失明こそ免れたものの明るいか暗いかを判別できる程度の代物になり果てていた。眼帯をしていない時、そこに写るものは曇りガラスを通して見るより曇って見えた。
「ところで、連邦の連中自身はあのトレスとかいう女に関して情報は持っているのだろうか?」大尉は呟くように部下に言った。
「少なくとも我が軍においては、彼女の父親であるクーンハイト・レペンスについてルガ帝国時代の軍人で負傷を理由に退役、さらに退役時は少尉だったことまでは突き止めました。ただ彼の娘であるトレス・レペンスについては名前以上の事は、残念ながら我が国の諜報能力では具体的な情報は何も……。それと、現在も存命であるということは確認が取れております」
「となると、あるいは連邦も情報として把握していない可能性があるかもな」そこで大尉はため息をついて続けた。
「それよりもだ、どう思う?」
「何がです?」
「あの女を生かしておくことについてだ」大尉は語るように言った。
「と、おっしゃいますと?」
「あの能力がトリックでもペテンでもないとしたら、非常に危険なことだと思わないか?」
「ええ、まあ、触れることなく物を動かすことができるというのは……いいえ、ちょっと自分には想像ができません」
部下は首を振った。
「言いたいことはこうだ。あの能力をもし人為的に再現できるとしたら、銃弾や砲弾の飛ぶ方向を途中で変えたり、塹壕に隠れる敵兵を遠くから締めあげることだってできるようになるだろう。これならば、私の言わんとすることが分かるだろう?」
「そうですね。そうなれば脅威となりうるかもしれません」それでも部下は少し怪訝そうな様子だった。
「実際、連邦がどこまで把握しているかは知らんが、我がセトハウサにとって重大なことだ。それに、あの一端で我々は恨みを買っていると考えるのは容易。連邦の連中が上手いこと吹き込めば喜んで自軍に協力するだろう。それでいて、あの能力ゆえに我々が生け捕りにして連れて帰るというのは困難と考える。だとすれば……」
大尉は含ませるように意味深長な口調だった。
「それは……始末する。と、おっしゃるのですか?」
部下は思いもよならい言葉に目をしばたたかせた。
「少なくとも、そうすればこの戦争においても、あるいはこれから先、連邦とはアドバンテージを同等に保つことができるはずだ」
「ですが、民間人を攻撃するというのは国際的な非難を……」
「我々はあくまで駐屯している連邦軍の部隊を攻撃するのだ」大尉は不敵な笑みを一瞬見せると部下の言葉をさえぎるように言った。
「問題は無い」




