1.8
クーンハイトの屋敷に衛生兵が到着すると、その場で大尉の怪我の状態について診察を始めた。
「あの小娘がペンを投げた瞬間を見たか?」大尉は痛みを堪え、今だ状況が飲み込めないといった様子で部下に言った。「私ははっきりと見たぞ。明らかに逸れた方向から私に向かって向きを変えた!」
「大尉殿、少しじっとしていてください。ペンが眼球を突きぬけて脳に到達したら死にますよ」
衛生兵は厳しい口調で言った。
「大尉、で、ですが、そのようなことが……」部下も一部始終を見ていたはずだが、どうにも懐疑的に思っているようだった。
「分からんぞ。少なくともこの怪我は本物だ。あるいは、なにかトリックがあるに違いない」
まだ大尉の顔からは血が滴っていた。
「それにしても……」衛生兵はぼそりと言った「ペンは剣よりも強し……ですかね」
「皮肉を言ってる場合か!それに意味合いが違う」
「はっ、申し訳ありません」
「それより、大尉の怪我の程度は?」部下は衛生兵に尋ねた。
「見ればわかるでしょう?まあ大尉殿は見えないかもしれませんが。この場で局部麻酔をかけてからペンを抜き取るしかありません」きっぱりと答えると持ってきたバッグから道具を出し始めた。
「ここでか?」
「動かす方が危険です。少なくとも刺さったペンは抜き取らなければなりません!」
「麻酔まで必要か?」
「麻酔なしがいいですか? 痛いですよ、きっと」
それから衛生兵はその場にいた全員に――もちろんリーブ村長やクーンハイトも含めて――お湯の準備!タオルを持ってこい!などときびきびとした様子で指示を出した。この衛生兵、かつては外科医を目指していただけあって手際よく処置を進めていった。
「ですが、大尉殿。左目の視力は諦める必要がありますね」処置を終えて包帯も巻き終えると衛生兵は言った。
「そんなもんは想像するに難くない」
そのときだった。戸外から遠くで何か破裂するような音が聞こえた。彼らが分からないはずがなかった。銃声だった。
「おい、今の聞こえたか?」
「ええ、銃声かと……」
「小娘の追跡に行かせたのは誰だ?」
「確か……」この混乱のさなかのこと、部下はすぐには分からなかった。
「片方は新米兵だったと思いますよ」
道具を片付けながら衛生兵が答えた。
「まったく、発砲の許可は出していなかったよな?」大尉は呆れ顔で言った。
「おそらく威嚇射撃ではないでしょうか?」
しかし、大尉は大きくため息をついた。
「我々の目的は偵察と現地民の協力を仰ぐことだ。むやみに……」
そこで部屋の隅で様子を伺っていたクーンハイトが口を挟んだ。
「協力を仰ぐだって?!撃たなくても小銃を持っているだけで十分だ。やってることは武力制圧だよ」
「貴様に言われたくはない」
「さて、怪我の処置は終わっただろう。さっさと家から出て行ってくれ」
クーンハイトは言い放った。
「ああ、分かった」大尉は応えた。「こちらも、これ以上の面倒はごめんだね」
それから屋敷の外に出ると「追跡に出した兵士を呼び戻せ」と部下に言った。




