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男はどこへ消えたのか

作者: 葵陽

※この作品はフィクションであり、専門用語は創作です。信じないで!


「恭子はお見合い結婚したそうです。」「さて、一番年上は何歳でしょう。」「ブーケトスもそんな感じ。」「いっしょに食事をするだけの簡単なお仕事です。」「マグロ係」「七つまでは神のうち」「店長、シフト変更してください。」「たぬきとどくだみ」「むじなとあしたば」「不思議な道具なんかより、あのあおいねこちゃんがほしいと思ったことはないか。」「職業:家政婦」「人見知りだっていいじゃない」「メンズPコート/税込13,200円」の続きです。


お読みいただければ幸いと存じます

かんなぎとは、神の「こえ」をきく御役目の名称である。

「こえをきく」とはいうものの、神託を授かる方法は巫によってさまざまだ。実際に「声」として聞こえる者もあれば、巫や依り代といわれる人間に神が憑依し、口伝する場合もある。特殊な例を言えばラジオなどの機械や絵画などの芸術作品に憑依する、巫を介さない方法もあるという。


千波家の随一、千波潮ちばうしおの巫はいわゆる「自動筆記」によるものである。依り代の「右手」にのみ神が憑依する、と考えれば分かり易いかもしれない。潮の右手に憑依し、紙に神託を書き記す。

見る人には潮がただ、紙と筆を用いて字を書いているだけに思えるだろうが出来上がった文章はおよそ現代人が容易に読める内容ではない。筆跡も潮のものとはかけ離れており、書いているはずの潮自身が全く読めないのだからまさに神の御業というわけだ。ちなみに潮は本来右利きであるのだが、千波家入りした七歳より右手の使用を控えさせられているゆえに現在はほぼ左手でのみ生活している。

 



有馬家次男、壮一郎は潮の離れ家に招かれていた。本来ならば親戚筋にあたるとはいえ、片田舎の巫である有馬家の者が千波家の有力者たる潮と相対することはない、会ったとしても声をかけることすら憚られる関係である。


「ほら、お饅頭だよ。おあがりなさい。」

八畳の和室。潮が上座、壮一郎が下座に座っている。

壮一郎の姉である初乃は同じ有馬家ではあるが現在は名目上「壮一郎の世話係」として千波家に入らせてもらっているゆえに、いくら潮の厚意として招かれたとしても同じ空間に出席することはタブーである。今は部屋の外、廊下に控えていた。

ちなみに潮の護衛、松戸右京まつどうきょうも同じ外に控えているが先程から、ずっと初乃に話しかけている。

従者は本来静かに控えているべきであるが、右京にそれを要求するのは無駄と心得よ。


「それとも、洋菓子の方が良かったかな。今朝までちゃあんとチョコレートとモンブランがあったはずなのだが、外で君の姉に話しかけているバカが食べてしまってね。今、左京さきょうがホットケーキを焼いてくれているんだ。この離れ家には御勝手があってね。」


潮が、一方的に話をしている。滑稽な光景である。


壮一郎は身分違いというものをあまり理解できていないが千波家の人間に対して口を開いてはいけないと散々、有馬家の爺たちに言われていた。それに加えて壮一郎は長兄の一佐かずさほどではないが、人見知りである。それゆえに口を噤んだまま、畳を眺めていた。

話しかけられても無言でいるのは、それ以上の無礼とは思うのだが。

人見知りの上に、信頼する姉が傍にいないという壮一郎の心理状態を考えると、それも無理もない話だ。



潮は右手に饅頭を持ったまま依然と話さない壮一郎に一言断り、御勝手へ向かった。


「ホットケーキが出来ました、潮さま。」

「左京、私は子供に好かれないようだ。壮一郎くん、全然話してくれないよ。これ嫌われているよ。」

「潮さま、身分というものの壁があることを理解してください。

人類が全て右京のように馬鹿とは限りません。

壮一郎君は、とても賢い子です。」

「私が気持ち悪い、というわけではないよね。」

「それは右手が勝手に動くから、という意味で御座いますか。彼は、十歳の幼子なのに潮さまと自分の身分が違うことを理解しているのです。」


「さあ、みんなでホットケーキを食べましょう」と左京は盆を持ち上げた。



左京と潮が部屋の前に戻ると、廊下に座っているはずの右京が居らず初乃だけが座っていた。


「初乃さん、ば、ここにいた男は何処へ?」

潮が訊ねた。

初乃は答えようか否か、迷ってオロオロとしていたがすぐに口を開く。


「あの、先ほど潮さまが立たれたあと弟が厠に行きたいと申しまして。それで私が伴って行こうとしたのですが、右京さんが「男の厠なら男の俺が連れて行こう!」と仰られまして。」


「それは、何分前のことですか。」

そう訊ねたのは、左京だった。



「じ、十五分も前だったかと。」


定期更新、17作目。


お読みいただけてうれしく思います。

楽しんでいただけたら、幸いです。

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