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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

abnormal -異常な男-

作者: 湖城マコト
掲載日:2017/10/16

 僕は異常者だ。

 自称ではなく他人からの評価なので、正真正銘の異常者と言っていいだろう。

 僕は、この世界に生きる他の人間のように生活することが出来ない。

 彼らの行いこそが僕には異常に思え、とてもじゃないが、それに習うなんてことは考えられないのだ。


 性分を矯正きょうせいして正常の枠にはめ込めば、生きるのは随分ずいぶんと楽になるだろう。

 だけど、多数派だからといって、自分自身を正常側に寄せることだけは絶対にしたくない。

 例え周りから奇異きいの目で見られようとも、僕は異常者のままでいい。

 

 可能ならこの世界で生きる全ての人に僕のようになってほしいけど、今更それは不可能だろう。

 僕のような人間が異常者と呼ばれるようになった時点で、この世界は、人間という生物は、もう手遅れだ。


「死ねえ!」

「止め――」


 道端で上半身裸の男が、襤褸切ぼろきれをまとった若い女の頭を、何度も大きな石で殴りつけていた。

 

 5回目の一撃で女性の悲鳴は絶え、体に僅かな痙攣けいれんを残すのみとなった。


「素直にやらせねえからこうなる」


 人一人を殺めた後だというのに、男に悪びれる様子は無い。

 発言から察するに、女性を犯そうとした末に、衝動的に殺したのだろう。

 

「おい。どこかにやらせてくれる女はいねえのか!」


 声を荒げながら、男は女体を求めて瓦礫がれきだらけの街へと消えていった。

 警察機構などすでに存在せず、完全なる無法地帯となったこの街に、男をとがめる者など誰もいない。


「おい。そいつは俺んだ!」

「知るかよ!」

「手を離せよじじい!」


 やせ細った老人から、二人組の若者が僅かな食料を力づくで奪い取った。なおもすがって来る老人の頭を何度も蹴り飛ばし、老人の首があらぬ方向を向く。


「糞爺め」


 若者達は老人の死に胸を痛めるわけでもなく、足を掴んだまま息絶えた老人の手を振り解くのに四苦八苦し、苛立ちを募らせていた。


「切っちまおうぜ」

「それがいい」


 一人が分厚いなたのようなもの取り出し、老人のしかばねの手首へと当てた。

 こんな光景は珍しくもない。


 最終戦争で世界は滅んだ。

 生き延びた僅かな人類は、自分という個を守るために、人として最も重要なモラルを破棄はきしてしまった。


 人殺しなど日常にちじょう茶飯事さはんじ

 当初こそモラルを順守していた人達も、異常な日常に身を置くことで、次第に毒されていた。

 

 世界は狂い、人々はそれに順応した。

 これまでの世界では異常とされてきた行動や思想が、今の世界では正常とされている。

 狂った世界においては、それまでの価値観では正常だとされていた人間こそが異常者なのだ。


 人殺しは許されない。

 そんな古い時代の価値観を、僕は守り続けている。

 この手を血で染めたことは無いし、可能な限り人助けもしてきた。

 異常者に見られようとも、例えモラルを貫くために命を落とすことになろうとも、僕は考えを改めるつもりはない。


 異常者上等だ。

 狂った世界に、僕は異物として存在し続けよう。

 人間であることの証明として。


「……お腹が空いたな」


 今日は食料の買い出しで街にやってきていた。

 人殺しだらけの街を長時間うろつくのは気が引ける。

 手早く買い物を済ませて帰るとしよう。


「おじさん。食料を頼むよ」


 馴染みの露天商に、通貨の代わりとして出回っている鉱石を手渡す。

 

「毎度あり。代金分の肉だ」

「どうもありがとう」


 三日分の食料となる肉を購入し、僕は人肉屋を後にした。




 了

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― 新着の感想 ―
[良い点] 読ませていただきました。 文章表現と物語の雰囲気が合い、本能的でスラスラと読めました。破壊された世界の日常が暴力的で弱肉強食、好きな世界観でした。狂った世界で生きようとする異常者が個人的に…
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