<シニア専門チューバ:銀杏の場合②>
「でさ、銀杏は何でそんな曲のセンスが老人なの?」
「なっ…⁈」
帰り道、歌子は前触れもなく問いかけて来た。小柄だから、背負ってるホルンケース(通称:亀ケース)が、ランドセルより大きく見える。
「だってさ、ちょっと続き過ぎだよ。銀杏が選曲委員になってから、時代劇→大河ドラマ→時代劇の繰り返し。さすがに飽きない?」
「飽きないよ。まだ徳川全部やってないし」
「それはマニアック過ぎ」
「そうかなあ…」
首を傾げる銀杏に、歌子は軽く溜息を落とした。
「そんなに時代劇詳しいのって、誰かの影響?」
聞かれて銀杏は自然と立ち止まった。
横に並んでいた歌子が遅れて止まり、銀杏を振り向く。そこへポツリと
「おばあちゃん。かな」
とだけ答えた。
「銀杏、おばあちゃんの話ほとんどしないけど、遠くに住んでらっしゃるの?」
「ううん。近いんだけど、施設に居るからあんま会えなくて」
「そっか…」
歌子は介護の仕事をしてるから、多少は不便な状況が分かるのだろう。あまり深くは聞いて来なかったけど、だから話しやすかった。
「あんまり体調良くないからさ、外出日多くないんだよね。自由に外行けるの1年とか半年に1回なのに、いっつも無理して演奏会に合わせてくれるの」
言いながら少し声が震えてきた。
「だからさ。職権濫用かなって少し思うけど…せめて貴重なその1日、おばあちゃんの好きな曲聴かせてあげたいなって…」
それ以上は言えなかった。
歌子も聞いて来なかった。
駅に入る所で別れ際、歌子は優しく笑って
「練習がんばろね」
それだけ言った。ありがたかった。




