<シニア専門チューバ:銀杏の場合①>
「ええーっ、また時代劇?」
銀杏の提案した曲目に、何人かが露骨に声を上げる。
(だったら、企画委員やればいいじゃん。文句だけ言うんじゃなくてさ…)
口にこそ出さなかったけれど、正直な自分のことだ、バッチリ表情に出ていたのだろう。初老のコンマスがとりなしてくれた。
「うちは客層の年代が幅広いからね、どの世代も聞いたことある曲入れた方が、お客さんのリピート率高いんだよ」
「それはそうですけどぉ」
コンマスに言われては反論もしづらく、それ以上文句は出てこなかった。ただし、到底納得はしていない。何とも気まずい沈黙がフロアに満ちる。
「あの…」
おずおずと手を挙げたのはホルンの歌子だった。
「正式な演奏会の曲目じゃなくて、幕間に若い子向けの持ってくるのはどうでしょう?ほら、合宿の時の金五とか…」
「あー!あのゲーム音楽?」
・いいんじゃない。
・その手があったかー。
・あれ若い子受けしそう。
皆の反応は肯定的だ。
「銀杏ちゃん、どうかな。金五のメンバーもやってたでしょ?企画委員に加えて、その、負担感は」
尋ねてくるコンマスの表情はちょっぴり不安げに見える。でも自分だって別に鬼じゃない。元々やりたかった時代劇が出来れば、その他の部分で争う気はないんだから。
「いいと思います。実験になりますし、お客さんのアンケートで反応が良かったら…まぁ、次の演奏会で選曲の参考にしたり…」
銀杏が歩み寄ったからか、コンマスがホッとした顔を見せる。
「じゃあ、今回の構成は、前半がクラシック・幕間は金五で・後半は時代劇セレクションということで」




