<試食ファゴット:音也の場合①>
次の話が俺みたいな奴で悪かったな。
行くところ行くところで「女の敵」だなんて言われるけど、敵対するつもりはさらさらない。
むしろ仲良くしたいだけなのにさ。
そりゃあ、複数の女の子と仲良くして短期間で彼女らを渡り歩くのは、行儀のいいことじゃないけど。
そんな俺にとって、老若男女が入り混じる楽団は、格好の狩猟場だ。
「今回、ファゴットでエキストラ出演してくれる音也くんを紹介する」
「こんにちは、音也です。この近くで大学院生やってます。ファゴットは大学からです。時間は沢山あるんで、皆さんと飲みに行ったりもしたいです。演奏会までの限られた期間ですが、よろしくお願いします」
パチパチと歓迎の拍手が鳴り、部屋中の顔がこちらを向く。
全方位を見回して軽く会釈しながら、各パートをさり気なくチェックした。
(上から…フルートの元気そうな子と、ユーフォのクールな子と…まぁトランペットのお嬢さんぽい子もありかな。フルートは指輪付きだから相手いるのか。んじゃ、ユーフォからっと)
「こんにちは。まだ基礎合奏の楽譜コピー出来てなくて。見せてもらっていい?」
「はい…どうぞ」
「ありがとう。ええと…名前は?」
「アイ」
「アイちゃんかー、ありがとう。年同じくらいだよね、席も隣だし色々教えてね」
まずは新参者という立場を活用して、接点を増やす。
同時に、短期間で色んな種類を収穫できるよう、広範囲の種蒔きも怠らない。どうするかというと…
「ファゴットのエキストラの人、凄い上手くない?」
「だよねだよね!音也くんって言ったっけ?」
そう、楽団なんだから音楽で魅了すればいいだけのこと。
俺にとって、楽器を吹く理由は単純に気持ち良いからってのもあるけど、同時に自分を魅力的にしてくれる大事な相棒だ。
魅力的な音や音楽を奏でると、人の気持ちは動く。奏者に対する好感度も上がる。
まだまだ1人には絞りたくないので、飽きたら次の楽団へ。だからエキストラという立場はとても便利だ。




