終わりに見つけた守るべきもの
シリアス展開です!ご注意を〜
・暴言があります
・途中からグロシーンがございます
・適切でないと感じる表現があるかもしれません
以上の項目が大丈夫な方のみどうぞ!
そんな日々を送り続けて数年。
私とルフォアは明後日から王都に向けて出発し、そこにあるストラ学院へ通う。何故歳の違う私とルフォアが同じ学園に通うのかというと、ストラ学院には2つの院がある。
1つは領主などに帝王学や経済学を教える貴族院。これは、貴族位を賜った本物の貴族しか入ることのできない院である。それ故に、勉学や生活態度に対して厳しい。しかし、貴族院は小学校に入る年齢、つまりは6歳から入ることが出来る。
もう1つは、一般市民でも入ることの出来る実力主義を掲げる騎士院。ここは名の通り、騎士を育てる場所である。そのため、年齢制限がある。入ることが出来るのは10歳を超えた読み書きができる者。
一般市民から当主になれる望みの薄い者など、騎士になりたいという志さえあれば簡単なペーパーテストと教員との模擬戦闘テストで入ることの出来る院だ。
ここは、一般市民などの作法の分からないものまで入ることもあって、貴族院よりも数十倍規律が厳しい。勿論、主に仕えるために帝王学から雑学まで、1〜100まで学ぶ。
勉強と身体を動かすのが好きなキチガイが入るところと言っても過言ではないね。割と真面目に。勉強とか模擬戦闘の厳しさが相まって、一般市民でも入ってもいいってなってるけどそんなやつマジキチとしか思えないくらい少ないんだそう。行きたくねぇな〜まじで
さて、ここで、疑問に思った方がいた事だろう。何故、貴族院は6歳から入ることが出来るのにルフォアを通わせなかったのか。それは、単にグラディナ家現当主が重度の親バカで、万が一王都に向かう途中で盗賊に襲われでもしたら、万が一無事に王都まで辿り着いたとしても、学院でケガをしてしまうのではないか、万が一、万が一…
と、心配しまくった結果、軍を付ければいいじゃないか!とかいうおかしな方向に話を持っていきかけたので、そこまで心配するなら私が騎士院に入れる歳になるまで待ってから一緒に入学させればいいということを私の父親が提案したのだ。どんだけ親バカだよ。
こんなことを考えながら、その日の私は深い深い眠りについた。…決して忘れることのない、悪夢をその日、私は見た。
〜〜〜
「うわぁぁぁああああ!」
「助けてくれぇ!」
「きゃああ…ごふっ…」
私は真夜中、そんな声で目を覚ました。最初はメイドやバトラーが酒盛りでもしているのかと思ったが、どうやらそうじゃないらしい。さっきのは確かに、悲鳴と…誰かの、断末魔だ。
私は急いで動きやすい私服に袖を通し、2本の剣を帯に差し込み、部屋を飛び出た。廊下を駆ける私が向かう場所は、我が父である当主がいる部屋。加減を考えずに走っていた私は、直ぐに部屋の前に辿り着いた。目の前に立ちはだかる扉を私は無作法にも勢いよく開け放った。
「父上!ご無事ですか!?何がおこったのです!」
「カーティス!良かった、無事だったのだな!私もレインも無事だ!レインは先に裏通路から逃がした!だが、何者かがこの屋敷を襲ったらしい!主様達が危ないかもしれん!」
「襲撃!?そんなっ…!事前の動きは何も!」
「落ち着け!私もお前も親子である以前に騎士なのだ!騎士の勤めを果たせ!グラディナ様の屋敷へ行くぞ!」
「…っはい!」
それは酷い光景だった。人の死体、焼ける家、血の臭い、燃えたあとの灰がそこら中に飛び交っている。吐き気がした。実際、吐きそうになったのだろう。父がこちらを心配そうに見ているのに気づいた。けれど、先ほど父が言ったように、親子である前に私達は騎士同士なのだ。心配をかけるわけにはいかない。「大丈夫です!」と一声かけ、私は父の目を見つめ返した。
すると、父は少しほっとしたような表情を浮かべるが、次の瞬間には騎士然とした引き締まった表情で、「遅れるなよ!」と告げ、前を向いた。その背中が、今までのどの父より格好よく見えたのはきっと、私の心が不安を感じていたからなのだろう。だから、動じない父を見て安心感を覚えたのだ。
「グラディナ様!ご無事ですか!?」
「おおっ…!来てくれたか!ラビア!私達は無事だ!しかし…もう、ここも長くは持たないだろう。」
「くっ…!ならばせめて、貴方様だけでも…」
父がそう言った瞬間だった。一際大きい爆発音がして、その音に気を取られた一瞬。部屋の扉が蹴破られ、敵が部屋の中に侵入して来た。
服装、装備、どれも統一されていない。けれど、それにしては手際が鮮やか過ぎる。きっと、何処からか送られてきた盗賊に見せかけた訓練を積んだ傭兵や兵なのだろう。
「よぉ、こんばんは!いい夜だなぁ?」
「っ…もうこんなところまで!グラディナ様、後ろへ!」
「おん?お前は…ああ、グラディナ家に使えてるリエーレ家の現当主か!職務中って感じだなぁ、おい」
「それ以上こちら側に来てみろ!叩き切るぞ!」
「別に俺達はお前に用はないんだぜぇ?あんたの仕える主様さえ渡してくれりゃあな?」
「ほざいていろ!」
「はぁ、話の分からねぇやつだなぁ、お前も。お前の主を出せばお前とそこのガキ共の命は保証してやるって言ってんだよ。わかんねぇの?」
脚がすくむ。動かない。この場の誰よりも強い私こそ父のように前に出て敵を牽制し、一掃しなければならないというのに。稽古と実践ではこうも違うのか。私があいつらに負ける要素など何一つない。全ての面で、私はあいつらを上回っている。けれど、負けるビジョンしか思い浮かばない。負ける、負ける、負けるっ…!殺されるっ…!
私の思考が殺されるというビジョンに完全に怯えた時。グラディナ家現当主が私とルフォアを抱きしめた。そして、耳元で囁いたのだ。「生き残れ」と。何を言われているのか理解出来なかった。けれど、数秒をかけてゆっくりとその言葉を噛み締めていく。そうしていくうちに、私は気づいた。「時間を稼ぐから、お前達だけでも逃げろ」と言われているのだと。
理解した瞬間、私は心の奥底で喜んだ。ここから逃げられる!やった!と。けれど、私は心の支柱であった父を見捨てるのが嫌で、父を振り返る。
その時、だった。
先ほどまで目の前で敵の前に勇敢に立ちはだかり、私達を守ってくれていた背中が、視界から消えた。脳での理解が追いつかなかった。ただ感じたのは、父が地面に倒れた音。父の鮮血が私の顔に飛び散ったこと。敵が血のついた剣を振るった音。それによって父の血がそこら中に飛び散った音。
何が起こったのだろう。理解出来ない。理解したくない。だって、父が…死んで、しまうなんて
そこからの記憶は曖昧だ。
朧気に思い出せるのは、グラディナ家当主が私に何かを囁いたこと。そして、私達を裏の通路へ押入れたこと。そこから、私がルフォアを抱き抱えながら制限無しで今いる場所まで突っ走ってきたこと。
鮮明に覚えているのは、バトラー、メイドの死体やそこから発せられる臭い。そして、悲鳴や断末魔。父の、最後。
そこまで思い出した私は吐き出してしまった。辛い辛い辛い辛い辛い辛い。何故?親が死んだから?人の死を間近で見たから?敵が見えなくなったことからの安心感?
全部。全部だ。安心したのも、悲しいのも、全部全部、本当の気持ちだ。何が何だか分からなかった。この気持ちをどう形容していいのか分からない。自分が分からない。自分が今どんな顔をしているのかも、どんな状態なのかも、何もわからない。理解出来ない。
その中で、ただ1つだけ明確なことがあった。屋敷の方を呆然と見つめる、自分より1つ歳の幼いこの子だけは。父に、グラディナ家当主に託されたこの小さな命だけは、守り抜かなくては。
ようやっと物語の初めに立ちました。
"楽ではない"生活を送っていた主人公に訪れた突然の変化。その後に待っていたのは"何よりも辛い"結末。
守るべきものが残っているだけマシなのでしょうか。それともいっそ、自分も守るべきものも消えてしまったほうが幸せだったのでしょうか。