テューバ
テューバって、重いのです。
んなこた知ってますって?
そうですよね。知ってますよね。なんてったって立って吹けないんだもの。
昔々その昔、テューバのソフトケースに入って遊んでいた事があります。さすがに運ばれはしなかったけれど。女子一人、入れるぐらい大きい。
内緒で入ったので、あの…しぃ、でお願いします。
ちなみにハードケースは棺桶って呼んで……あ、はい。もうこの辺で。チャック!
こほん。
テューバは低音楽器です。金管の中で一番大きくて、一番太い。奏者の顔も見えない。
小さい人が吹いているのを見た事がない。
だいたい中学生で出会うと思うのですが、やっぱりひょろひょろの中1男子には、なかなか。体格の良い女子があてがわれる事も多いのでは。
でも私が知っているテューバは男性が多くて、学生時代は廊下にテューバが三本も四本も連なって並んで吹いているのです。
まるで、テューバ村。テューバ村の近くにはユーフォも居て、テューバ村の前を通ると、その廊下全体、空気が低音でブルブル震えています。
木管はテューバ村の近くでは練習しません。
自分の音が聞こえないので。
また、テューバ奏者は必ず車の免許を取らなければなりません。
学生時代はまだ学校に置きっ放しで良いかもしれませんが、奏者として働くようになると、自分で運ばなくてはいけないのです。
あの棺桶みたいなやつを運ぼうと思うとですね、車を選ぶのです。
しかも、一本だけで使う時ならいいのですが
二本持って行かなければならない時もあるので、テューバ奏者の車はだいたいボルボクラスのデカさが必要です。
例によって楽器自体も大きいから高いですし、車も高いし……テューバ奏者の数が少ないのも納得です。
どうしよう。面白エピソードしか出てこない。何か、何か真面目なエピソードは……このままではテューバ奏者に怒られてしまう。
テューバだけでなく金管は管が長いので、通称ツバと呼ばれる水滴を演奏の合間をぬって外に出す作業が必要なのですね。
そのツバもテューバは大きい分、大量で、吹奏楽を吹く時はゾウさんか、ってぐらい大量にダバァと出るらしく、金管楽器の方は必ずツバ拭き用の雑巾を持ち歩いていると思うのですが、雑巾、一枚で足りるの? と近くの金管楽器は思っているそうです。
……大丈夫だよ。
はい、すみません。気が優しく大人しいテューバ奏者の方に怒られてしまいました。
テューバは吹奏楽でもオーケストラでも低音でほとんどロングトーンか小節の頭をブン、ブンと吹いている地味な楽器と思われるかもしれませんが、実は、音楽に沿ってとても歌っています。
吹いているのはロングトーンかもしれません。ブン、ブンかもしれません。
でもそのロングトーン、ブン、ブンに色をつけながら吹いています。
演奏会の時よく見てみると、ゆったりと揺れていたり、ブン、ブンと吹きながら眉が上げ下げしていると見たら、ああ、歌ってるな、と思って注目して頂けたらと思います。
テューバこそ、一番歌心を必要とし、そして理解を求められる楽器だと思います。
そんな楽器に選ばれた人は。
体格が大きくて、気が優しく大らかな人達。
あまりはっちゃけもしないけれど、ラッパ隊のはっちゃけを隅の方で静かににこにこしながら見ています。
じゃあ、あまり喋らない方達かというとそうでもありません。心に秘めているテューバ愛は計り知れない程。常に支えている人達なので、他楽器それぞれの楽器の特徴を掴んでいてよく勉強しています。知識も深い。
知らない事も丁寧に教えてくれる、やはり優しい方達です。
アデュー




