七夕の夜に
こんにちは。今年の七夕の願い事は、「本免取れますように」&「単位取れますように」って書きました、葵枝燕です。
今日は七月七日、七夕ですね! というわけで、それっぽい話を書いてみました。
ジャンルは、悩みましたが[その他(その他)]にしました。
それではどうぞ、ご覧ください!
七夕――七月七日の夜。天帝によって引き離された織姫と彦星は、年に一度の逢瀬を果たすのだという。
赤い切子グラスを揺らしながら、七夏はほうっと息を吐いた。
朝から降り続けていた静かな雨は止んでいた。それでも、夜空には重い雲がかかっていて、星なんて一つも見えはしなかった。
愛しい人に逢えるのは、一年の中の一日だけ。そこだけ聞くと、七夕伝説という物語は哀しいものに聞こえるだろう。実際は、それだけではないのだが。お互いに惹かれ合った結果、怠惰になってしまった二人なのだから、逢うことを禁じられ引き離されてしまっても文句は言えまい——と、グラスに口を付けながら、七夏は思うのである。
それと同時に、別のことも考えていた。縁側で一人、酒を飲んでいる自分はどう見えているのだろう——と。そして、去年まではここに、自分以外にもう一人、誰かがいたことに気付かされた。
「ばかね」
自嘲する笑いがこぼれる。わかっていたことだった。その“もう一人”はもう、自分の元には帰ってこないことには、もういい加減に気付いていたはずだった。それでもまだ、どこか諦められない自分がここにいた。
(こんな夜だもの)
もしかしたら、今日くらいは帰ってきてくれるのではないか――そんな期待が胸の内を占めそうになる。それを振り払うように、頭を振った。
重い期待は、ただの荷物だ。それがわかっていた。棄てなければ、前に進めない。
赤い切子グラスに水を注ぐ。そのとき、小さな音を聞いた。七夏の目が、静かに竹垣に向いた。
その竹垣の下の僅かな隙間、そこから出てきたのは、全体的に黒い子猫だった。顔の中心と両手脚が白い。尻尾の先はまだ細く尖っている。生まれてまだ、そんなに日は経っていないようだった。
七夏はそっと立ち上がり、子猫を抱き上げた。どこか懐かしい、そんな思いがした。一緒にいたい、とそう思えていた。
子猫を抱きかかえたまま、七夏は縁側に戻った。膝の上に子猫を載せて、そっとその背を撫でる。
お盆の上に置かれた、赤い切子グラスと、青い切子グラス。青いグラスの持ち主は、もういない。けれど、七夏はそのグラスにも水を注いだ。そして、自分の赤いグラスをカチリと合わせた。
七夕の夜。年に一度の逢瀬を果たす、織姫と彦星。
(そんな風には、とてもなれないけれど――)
七夏は、子猫を撫で続ける。そして静かに感じていた。
(私の願いは、確かに叶ったのね)
重い雲の垂れ込める空。その向こうに七夏は、拡がる星の川を思った。
短編『七夕の夜に』、読んでいただきありがとうございます。
一年前の七夕に愛しい人を喪った女性が、一年後に猫として生まれ変わってきたその人と再会する――みたいなのを想像して書いてみました。あまりこういう設定は書かないので、難しかったです。こんなんでいいのか、と思いつつ自分では結構気に入ってたりします。
個人的には、どうしても切子を入れたいという思いがあって、それで主人公を大人(?)にしてみました。本当は、学園×七夕ものとかも考えていたのですが、こんがらがってきちゃったんでちょっと今回は諦めました。
さて、今作はいかがだったでしょうか。楽しい作品ではないかもしれませんが、楽しんでいただけたなら、作者としては幸せですね。
それでは、今回はこの辺で。
読んでいただきありがとうございました!!