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モモとお父さんとおかーさん

作者: つちふる

 

 モモはおかあさんのことをしりません。

 お母さんはとてもからだよわくて、モモをんですぐにんでしまったからです。

 

 でも、モモはいつもお母さんのこえで起こされます。


『モモ。モモ。そろそろきなさい』

「おはよう、おかーさん」

 モモはそういって、とりかごのなかのオウムにあいさつしました。

 この子の名前なまえは 『おかーさん』。モモのおかあさんのこえまねが、とっても上手じょうずなオウムです。

 モモがおなかにいるときから、おかあさんがたくさんの言葉ことばをおぼえさせていたのでした。

 モモのために。それから、きっと、おとうさんのためにも。

『さあ、あさごはんのしたくをするわよ』

「うん。わたしがつくるんだけどね」

 きがえをすませると、モモはつくえうえとりかごをもってキッチンへといきます。おとうさんはまだきてきません。

 今日きょうあさごはんは、目玉焼めだまやき。

 フライパンをコンロにのせて、冷蔵庫れいぞうこから、たまごをみっつとりだして。

 ふたつのたまごは、おとうさん。モモはひとつでおなかがいっぱい。

 それから、そうそう。

 おかーさんの朝ごはんも用意よういします。かごの中のえさばこに、ヒマワリのたねをたっぷりと。

 目玉焼めだまやきがおいしくできあがるころ、ようやくお父さんがきてます。

「おはよう、おとうさん」

「おはよう、モモ。おかーさんもおはよう」

『おはよう。今朝けさはオムレツよ』

目玉焼めだまやきでしょ」

モモはわらいながら、うまくけたふたつの目玉焼めだまやきをお父さんへ、ちょっとこげたのは自分のところへおきました。

『オムレツ、おいしいでしょう』

「だから、目玉焼めだまやきだってば」

 おかーさんはときどきトンチンカンなことをいいます。

 そんなモモとおかーさんを見て、お父さんは 「お母さんのオムレツはとてもおいしかったんだよ」 と、なつかしそうにほほえみました。

 モモはべたことがないので、すこしガッカリ。

 でも、いつかは自分じぶんつくってみようとおもっています。

 お母さんの、お料理りょうりメモをみながら。

 

 ごはんのあと、お父さんはときどきタバコをすいます。

 そして、そのモクモクけむりがおかーさんのところへとんでいくと、おかーさんはいつも、おかあさんのこえおこるのです。

『タバコはやめるっていったでしょっ』

 お父さんはそのこえをきくと 「すまんすまん」 とあやまって、あわててタバコをします。

 でも、そのときのお父さんはちょっとうれしそう。

 もしかしたら、お母さんのおこったこえが聞きたくてタバコをすっているのかもしれません。

 

 ごはんをべたら、モモは学校がっこう、お父さんは会社かいしゃ、おかーさんはにわのおおきなとりかごへ。

 お友だちのお母さんとちがって、おかーさんはお洗濯せんたくもお掃除そうじもしてくれません。

 でも 「うちのおおかさんもしないよ」 と、ミっちゃんは言っていましたから、じつはおなじなのかも?

「ミっちゃんのお母さんもオウムなの?」 とモモがきいたら、へんなかおをしていましたけれど。


 学校がっこうでのできごとを、モモはいつもおかーさんに話します。

 たのしかったこと、いやだったこと、先生せんせいのことやお友だちのこと。

 おかーさんはいつもちゃんと聞いてくれて、ときどき 『がんばって』 と応援おうえんしてくれます。

 お父さんはいそがしくて、あんまりおはなしを聞いてくれません。おはなししても 「そうか」 と言うだけなので、モモもあんまり言わないことにしていました。

 いつもはおとなしいお父さんですが、おさけむと、すごくうるさくなります。モモはっぱらいのお父さんがあまりきではなかったので、そんな日はとりかごをもって、すぐにおかーさんとてしまうことにしていました。

 るときは、いつでもおかーさんといっしょ。

 つくえうえにおかーさんのとりかごがあると、モモは安心あんしんしてねむれるのです。

 


 でも、ある日のこと。

 夜中よなかにトイレに起きたモモは、つくえうえに鳥かごがなくなっていることに気がつきました。

「あ、とりかごないわ!」

 かりをつけて部屋中へやじゅうをさがしましたが、鳥かごはどこにもありません。

「ひょっとして、どろぼうにぬすまれたのかしら」

 そうだとすれば、大変たいへんです。

 モモはお父さんにらせようと、あわてて部屋へやをとびだしました。

 

 お父さんの部屋の前にやってきたモモでしたが、すぐにはドアをあけませんでした。

 部屋の中から、お父さんのはなごえがきこえてきたからです。

 でも、だれとおはなししているのかしら?

 モモはふしぎに思い、音をたてないようにそっとドアをあけて中をのぞきました。

 すぐに見えたのは、お父さん。

 イスにすわって、こちらに背中せなかをむけています。

 そして、お父さんのつくえうえには…

(あ、おかーさん!)

 そう。おかーさんのはいった鳥かごがいてあったのです。

 モモからおかーさんをぬすんだどろぼうは、お父さんでした。

 お父さんはっぱらっているらしく、まっ赤な顔でおかーさんとお話ししています。

 といっても、お父さんがひとりで話しているのですけれど。

 お父さんの声はちょっとふるえていて、ときどきグスグスと音をたてながら、お仕事しごとのことやモモのことを話していました。

 それから最後さいごに、

「おまえきてたらなあ」

 と、さみしそうにつぶやきました。

 モモの前ではいつも平気へいきかおをしていましたが、お父さんもお母さんがいなくてずっとさみしかったのです。

 お母さんのことをおぼえているぶん、モモよりもさみしかったのかもしれません。

「さみしいなあ」

 おかーさんは目をぱちぱちさせて、そんなふうにつぶやくお父さんを見ています。

 モモは 「きっと、おかーさんはわたしがいてるときみたいに 『がんばって』 ってはげましてくれるはずだわ」 と思って見ていたのですが……

 でも、ちがいました。


『こら、しっかりしなさい!』


 おかーさんはお父さんをはげますどころか、すごく大きなこえでしかりつけたのです。

 モモはおどろいて、あとすこしで声をあげてしまうところでした。

 お父さんもまた、すごくおどろいています。

『あなたがそんなふうだと、モモまで不安ふあんになっちゃうでしょう。しっかりしなさい!』

 おかーさんは、おどろいているふたりをそっちのけで、お父さんをしかりつづけます。

 お父さんをしかる、おかーさん。

 モモはその様子ようすをながめながら 「お母さんがおこったら、きっとこんなふうだったのね」 と、ぼんやりかんがえていました。

『ほら、元気げんきをだして! 今度こんどそんなふうになさけないことを言ったら、クチバシで思いきりつつくからね!』

 そこまでいうと、おかーさんはピタリとお話しするのをやめてしまいました。

 そのとたん、あたりがしんとしずまりかえります。

 おとうさんはだまったまま。

 モモもだまったまま。

 それはでも、心地ここちのよいしずけさでした。

 お父さんは、しばらくおかーさんをみていましたが、やがて目とはなをこすってわらいだしました。

「こんな言葉ことばを、オウムによくおぼえさせたなあ。まったく、きみにはかなわないよ」

 お父さんはそういうと 「よしっ!」 と元気げんきよく立ちあがり、とりかごをちあげました。

 そのままこちらへあるいてくるものだから、モモはあわててしまいます。

 音をたてないようにいそいで部屋へやにまいもどり、明かりを消してたふりをしました。

 

 ドアがひらおと

 ゴソゴソと、なにかをおく音。

 それから、ドアがしまる音。


 すっかりしずかになってから、モモはそっと目をひらきました。

 明かりのついていない部屋へやはくらかったのですが、モモにははっきり見えました。

 つくえの上におかれている、おかーさんの鳥かごが。


     ☆


『モモ。モモ。そろそろ起きなさい』

「はーい。おはよう、おかーさん」

 モモは、今日きょうもおかーさんの声で目をさまします。

 いつものように着がえをすませ、いつものように鳥かごをもってキッチンへ。

 でも、今日はいつもとちがうことがありました。

 キッチンから、いいにおいがしてくるのです。

 いそいで行ってみると、なんと、お父さんがもう起きていました。

「どうしたの、お父さん。今日はずいぶん早起はやおきね」

「おはよう、モモ。たまにはお父さんが朝ごはんをつくろうと思ってね。でも、なかなかむずかしいな」

 おさらの上には、ちょっとこげた目玉焼めだまき。かたちもペシャンコ。

今朝けさは、わたしの得意とくいなオムレツよ』

 それを見て、トンチンカンなことをいうおかーさん。

【だから、目玉焼めだまやきだってば】

 モモとお父さんはいっしょにそういって、いっしょにわらいだしました。

 なんだか今日きょうは、いつもよりたのしい朝ごはんになりそうです。

「ちょっと、こげちゃったな」

「でも、おいしいよ!」

「そうか。じゃあ、今度こんどは、ふたりでオムレツを作ってみようか」

「うん!」 

 

 そんなモモたちを見ながら、おかーさんはうれしそうにヒマワリのたねをついばんでいます。



                   (了)


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