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異世界にゲスト神として召喚されたらしいんだが……  作者: 謎村ノン


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.おまけSS. 前日譚

 滝島 有、というのが、そいつ、だった。

 滝島は、パソコン部の部長だ。

 彼は、IQ190の天才である。もっとも、これは、彼の親しい知り合いしか知らないことだったが。

 つまり、彼は、大学院の数学科の教科書の例題を「簡単過ぎる」とか言いながら、すらすら解いてしまうような、とんでもない頭脳の持ち主なのだ。

 そんな彼が、進学校とはいえ、ごく普通の高校に「授業が易しすぎてつまらん」なんて僕に愚痴りながらも在籍しているのは、本人いわく、

「だって、フツ-の友達がいないと寂しいじゃん」

 とのことであったけど……

 ……一年生の時、同じクラスになって、ファーストネームが同じで、「パソコンを持っている」と話したばっかりに(高校の入学祝いで買ってもらったばかりだったのに……)、

 ……無理やり、一緒にパソコン部に入部させられて(予備校通いで忙しくなるから、高校で部活に入る気はなかったのに……)、

 ……授業が終わると、毎日、

「さあ、今日もパソコンが僕を待っている。当然、裕も来るよ、な」

 と、強引に僕も部室に僕をひっぱって行き(……)、

 ……そうそう、僕が「副部長」に、なったのも、

「顧問の先生が、了解したっていったから。オレが部長で、裕が副部長」

 と、知らない間に決められていたんだった。

 うん。

 これまでも、タキジマの強引な性格と偏った趣味のせいで、僕は、多大な損害を被っているのだけど……

 おそらく、今回のが最悪ではないか……という予感がした。


 他の部員が、みんな予備校に行っているに違いない時間、僕は部室にいた。

「……だからさ、ギルダーバートが発表した最新の量子重力理論を、そのまま解釈すると、この宇宙には、プロテクトが掛けられていることになるのさ」

 タキジマは、蛍光灯に照らされた部室でギーギーと音をたてる安物の事務用椅子を押し倒しながら、自慢そうに話しかけてきた。

「それが、お前の言う『魔法の根本を解き明かした』というのと、何の関係があるんだよ?」

「それそれ。魔法ってのは、オレが確認したところによると、すべて、理論方程式にいくつかある特殊解を近似して、使っていたのさ」

 僕は、首を傾げた。

「特殊解?」

「ま、かなり荒い近似、だがな」

 タキジマは身を乗り出して、鼻息荒く、説明し始めた。

「裕よ、お前も、宇宙の始まりは、とんでもなく高密度のエネルギーも物質も一緒くたになった、いや、それさえなかった状態だった、ってのは知っているだろ?」

「うん?」

「ようするに、現在の宇宙ってのは、それをギルダーバード方程式が、エネルギーが低くなるような方向に引き延ばしている多次元的な現象、とでも言うべきものなのさ」

「?」

 タキジマの言葉は、意味を持たない音を羅列しているだけのように感じられた。

 僕の視線は、タキジマを通り越して、少し汚れたコンクリートむき出しの壁と、日が暮れて暗くなっている窓の辺りを彷徨っていた。

「鈍い奴ちゃな。つまり、方程式のパラメーターの数字が――ま、時間の根本だとだと思ってくれればいいが――増えていくと、方程式はどんどん自由度を失ってくる。これが、プロテクト、って意味さ。一般相対性理論の元になっているこの方程式が、ビックバンの、ぐっちゃんぐっちゃんの高エネルギー状態を、どんどん抑えていく、ということだな。その抑えを破る簡単な方法を発見したんだよ」

「それが魔術とは、いったい……」

「基本的には、『形』が重要なんだな。空間にエネルギーを、特殊な『形』に溜めればいいのさ。ま、中世からの魔術士達は、随分とよくやっていたようだぜ。たとえば、魔法陣は『形』の一部に、ほんのちょっとだが、似ている。『形』にエネルギー、光とかが当たることで、効果を発揮したんだろうぜ」

「へえ?」

「でも、この瀧島さまが発見した、根本的な特殊解の『形』には、てんで敵わねえな。計算上は、一般的な魔法陣の、ざっと十の五十四乗倍のパワーがある」

「そいつは……すごいな……」

 もちろん、何が十の五十四乗倍なのだろうか、サッパリ分からなかったのだけど、こいつは頷いてさえいれば気分良さそうにしているので――性格の良い僕はいつも、相づちを打つようにしているのだった。

 案の定、タキジマは、僕のそんな打算的な受け応えに気分を良くしたように笑った。

「そうか、分かってくれるか。裕よ、魔法の本質というのは……前にも言ったが、その高エネルギ-的な状態を、いかに自分のアストラル体に取り入れるかにある。中世の魔術士達は、作り出したエネルギ-が小さすぎて、それを餌に異次元の生物を呼ぶことぐらいしか、できなかったようだが」

「ひょっとして、悪魔?」

「そのとおり。

 ま、自分の方が、弱ければ、当然のように食われちまうみたいだがな」

「……」

 頷きながらも、イマイチ、滝島が何を言っているのか、ぴんと来ない。

「で、さ。とりあえず、エネルギーをアストラル・フォ-スに変換するやつを、このパソコンで、たった今、プログラムし終えたところ、って訳だ。こいつで、究極のカオスの力を引き出すのさ。おめえも、運がいいな。たまたま今日、部室に顔出したおかげで、人類が解き明かした最っつ大の宇宙の神秘を、最初に見学できる一人になるんだからよ」

「それ、って、なんかヤバイことなんじゃねーのか……?」

 なぜか、悪い予感がした。本能的な直感だったのだろうか。

 僕は、椅子から立ち上がりかける。

 しかし、タキジマは、すでに、パソコンのキーボードを、なにやら叩いていた。

「フンフン。0 fatal error(s) compile successed / C>kyukyokuエンター」

 くだんのパソコンのモニターには、訳のわからない図形が描かれた。

 心なしか、たしかに魔法陣とか密教の曼陀羅とかの、怪しい雑誌に載ってる図形に似ているようだった。

 もちろん、そんな怪しい雑誌を部室に持ち込んで、無理矢理見せるのはタキジマの役目なのだが。

「へえ、凄いね。スクリーンセーバーにもなるんじゃないかな」

 僕が、感心しながら眺めていると、タキジマはにやりと笑った。

「この図形は、全然意味がない。単に、パソコンのメモリブロックを、計算しながら入れ換えているだけ……」

 タキジマが、素直な僕の感心を打ち砕くような台詞を言った、その時、だった。

 パソコン本体が突然、内側から光りだした。

「っ!」

 眩しくて目を逸らした。

 横を見ると、僕達の周囲の光景が、何故か歪んで見えていた。

 教室の壁が、飴を溶かしたように揺れて見えた。まるで、どこかの三流画家の描く抽象画みたいだった。

 しかし、それだけでは終わらなかった。

「え……!」

 歪みきった風景が、いたるところで裂けていったのだ。

 壁紙を破いたような裂けた隙間から、まるで水が湧き出るようにして――

 ――暗闇が噴出してきた。

 本当に『暗闇』としか表現できないような、奇妙に平べったい、漆黒の煙のようなものだった。

 眩しい光に照らされながら、その暗闇が、どんどんと僕達の回りを取り巻いていった……。

「おかしい。こんなはずは?」

 逃げ足の速いタキジマはしかし、そんな台詞を吐きながらも、すでに教室の出口に手を掛けていた。

「うわっ……」

 動転して立ち上がるのが遅かった僕に向かって、パソコンから流れた暗闇が突き刺さってきた。

 逃げようとしても、粘度の高い液体に捕まってしまったように、逃れられなかった。

「やぁ!」

 悲鳴を上げようとする間もなかった。

 僕は暗闇に沈んでいた。

 墜落する、感覚。


 ――ちなみに、この事件で、この時空の『神』に目を付けられたタキジマが、世界のデバッガーとして超空間戦闘機に乗せられるのは、これから数十年後の話であった。


(了)

これで終了です。読了どうもありがとうございました。実は、オーネ世界の前日譚のSSもあるのですが、読みたい方がいたら投稿させて頂きます。感想など、いただけたら嬉しいです。それではまた~!

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