.10.第二次『神族』大戦(4)
僕は、ウィエンとともに、村の広場に戻った。
ウィエンは、村の人々の避難を終えていた。広場には、誰もいなかった。
「みんな、あっちにある洞窟に避難してもらったよ。かなり、深い洞窟だから、たぶん、大丈夫」
彼女は、僕の隣に腰を下ろし、そっと僕の肩に手を置いた。
「ユウも、大丈夫?」
「うん……ちょっと疲れたけど、平気だよ」
僕は、そう応えたものの、平静ではなかった。
あの物体たちは、いったい何だったのだろう? あの物体は、無機質だけど、単純な機械とは違う意志のようなものを感じたのだ。
「ユウ、でも、さっきの戦い……すごかった! あんなに、『ルグ』を使いこなせるなんて!」
「ありがとう。でも、まだまだだよ。僕は、このオーネ世界のことも、『ルグ』のことも、知らないことだらけだ」
僕は、空を見上げた。イアヌーも、ルーファも、僕が〈何らかの意志〉によって、この世界に導かれたと言っていた。けれど、それが何なのかは、分からない。
そもそも、先程の物体のように明らかに他の世界からのモノが、その〈何らかの意志〉に誘導されるのだろうか?
「ウィエン……オーネ世界で〈境界嵐〉が起きることって、よくあるの?」
「あるよ。最近は、特に頻繁に、なっている。『働きの人』が、時空の泡が不安定になっている、って言ってた」
「それって、僕が来たことと、関係あるのかな……?」
ウィエンは、少しだけ考えてから、頷いた。
「たぶん、逆だよ。時空の泡が不安定になったから、ユウが来てくれた、んだと思う」
「そっか……」
僕は、空を見上げた。空の裂け目は閉じたものの、まだ終わっていないことが、直感的に感じられた。
どうも、このオーネ世界に来てから、そういう不思議な感覚が強くなった気がする。
「ん……?」
空に、黒い影が浮かんでいるのが見えた。
まるで、空そのものが意志を持っているかのように――影は渦を巻きながら膨れ上がり、やがて巨大な〈顔〉のようなものを形づくった。
その顔には、はっきりした目も鼻も口もなかった。
「ウィエン……あれは、何かな?」
「分からないよ……」
それは――先ほどの物体とは違う、もっと大きく、もっと禍々しい存在だった。
(……我ハ、〈アヴァガー分裂体〉。コノ時空泡ヲ無ニ還サセル存在デアル……)
その物体から、声ではない思念のようなものが放たれたのが分かった――『火の人』ではなく、こいつが真の敵だと、直感的に分かった。
僕は、『ルグ』を集中させ、光の槍を、また具現化させた。
「……穿て!」
その槍を、その物体に向かって放った。
槍は、空を裂き、影の〈顔〉に到達する――かと思った瞬間、空間が反転したように見えた。
「なっ……!」
槍は、まるで吸い込まれるように、消えた。
すると、影の〈顔〉が、ゆっくりと口を開くように歪み、そこから黒い触手のようなものが伸びてきた。
「ユウ、危ない!」
ウィエンが叫んだ。僕は、また脚に『ルグ』をまとわせてジャンプし、触手を避ける。
だが、触手は、まるで空間を裂くようにして、僕たちを追ってきた。
「くそっ……!」
僕は、『ルグ』を全開にして、また槍を創りだして、振った。
すると、触手の一部が切断され、黒い霧が散った。しかし、触手は再生し、さらに数を増して襲いかかってきた。
「……どうする?」
この槍では、少し威力が足りない、と思った。
そのとき、唐突に、僕は気づいた。
僕の『ルグ』は、変化しつつあったのだ。身体の中で、何かが〈目覚めよう〉としていた。
「ウィエン、僕に力を貸して!」
「うん!」
彼女が僕の手を握ると、『ルグ』が共鳴したのが分かった。
もう一度、光の槍を出すと、先程の何倍もの光を放つ『神秘の槍』が、具現化された。
「これで、いける!」
僕は、その光の槍を握りしめると、ウィエンと手を繋いで、空の〈顔〉に向かって、飛翔した。
そう、僕とウィエンも光に包まれていて、まるで重力などないかのように、空を飛べたのだ。
触手を避けて進む。
――〈アヴァガー分裂体〉の巨大な〈顔〉は、空間の歪みのようなもので構成されていることが、直感的に分かった。実体があるのかどうかも分からないが、確かに存在はしていた。
二人の周囲に広がる光の繭が、空気を震わせた。
空間が歪んでいた。重力が狂い、時間が引き延ばされるような感覚が襲ってくる。
けれど、僕とウィエンの『ルグ』は、それを打ち消していた。
「――いけええええぇ!」
「やれええええぇぇーーーーぇ!」
僕は、ウィエンと共に『神秘の槍』を構えて突進する。槍の先端が、アヴァガー分裂体の〈顔〉の中心に突き刺さった。
瞬間、空間が爆ぜた。
衝撃波が広がり、空が白く染まる。僕達の体は吹き飛ばされそうになったが、光の繭がそれを支えてくれた。
「まだだ……!」
〈アヴァガー分裂体〉は、傷ついていた。〈顔〉が崩れ、中心に、異様な模様の光に包まれた物体――核のような何か――が露出し、黒い霧が漏れ出していた。
僕は、『ルグ』をさらに集中させた。
「――もう一本!」
ウィエンの側にも、光の槍が現れる。僕達は、それを交差させ、その核に向かって同時に投げた。
槍は、螺旋を描き、空間を裂きながら飛翔し、核に突き刺さった。
すると、核は、弾けるように爆発した。
空が震え、〈アヴァガー分裂体〉の〈顔〉が、まるで量子化ノイズが散らされた映像のように崩れ始めた。黒い霧も四方に散り、空間の歪みが収束していった。
「やった……か?」
僕とウィエンは、息を切らしながら、空に浮かんでいた。
〈アヴァガー分裂体〉は、消えた――ように見えた。
「……いや、単に、こっちのを引っ込めただけだ!」
直感的に、まだ終わっていないことが分かった――〈アヴァガー分裂体〉は、同時に存在する一部を、時空の泡のこの座標から引いただけなのだ、と感じた。
「あれ、見て!」
ウィエンの指さす方に目を凝らすと、ディフィネ山が赤く染まり、爆発の光や煙のようなものが見えた。
「行こう! 皆を助けなきゃ!」
僕達は、地上に降り立つと、〈ブズゥーク〉に乗った。




