.10.第二次『神族』大戦(3)
僕とウィエンが人間の村に戻ると、もう午後になっていた。
村人達は、広場に集まっていた。皆、なにか、予兆のようなものを感じているのか、落ち着かない様子だった。
どのように人間達を守ったらよいだろうか、とウィエンと共に相談しようとしたところで、空が変質した。
「ユウ神様! 空が……裂けております!」
村の長が叫んだ。空を見上げると、まるでガラスが砕けるように、空間がひび割れていた。
その裂け目から、黒い霧のようなものが漏れ出していた。いや、霧ではない。あれは――何か、意思を持った〈存在〉だ!
「〈境界嵐〉!」
ウィエンが叫んだ。彼女のネコミミが、ぴくり、と動いた。
――〈境界嵐〉は、時空の泡が不安定になって、『高時空』の混沌が流れ込んでくる現象だ、とジードが言っていた。
黒い霧は、その混沌なのだろうか――まるで多角形をデタラメにつなげたような、ネオン状に光る物体に変化していった。何というか、子供用の磁気連結ブロックを、ただ合わせてつなげたような形だと思った。
やがて、その物体が地面に触れると、まるで、量子化ノイズのように、地面が揺れて消えかかった。
僕は、思わず息を呑んだ。あれは、明らかにこのオーネ世界のものではない。そもそも、生物なのかも定かではなかった。
ただ、ここにいさせてはいけないモノだということが、直感的に分かった。
「村を守らなきゃ!」
僕は、急いでその物体のある方向へ進む。ウィエンもすぐに続いた。
すると、物体のネオンサインのような光が急激に強くなった。
「ユウ、『ルグ』を、使って!」
ウィエンが叫んだ。
僕は、両手を前に突き出し、心の中で強く念じた。
「――盾よ、現れろ!」
すると、僕の前に、青白い光の壁が出現した。
物体の方は、光を瞬かせた。それに応じて機械的なノイズ音が響いた。すると、物体からビームが放たれた。
けれど、光の盾がそれを受け止めた。衝撃波が広がる。
「よし……!」
僕は、さらに『ルグ』を集中させる。今度は、攻撃だ。
「――槍よ、貫け!」
空間がきらめき、僕の手に光の槍が現れた。それを物体に向かって投げる。前に、地下で使った時よりも、パワーアップしているように感じた。
槍は、物体の側面に突き刺さり、爆発的な光を放った。
「キュアゥアアアゥアアア!」
物体が悲鳴を上げる。けれど、まだ倒してはいない。むしろ、怒りに満ちたように、こちらに向かって突進してきた。
「ユウ、避けて!」
ウィエンが僕を引っ張って、物体の突進を、かわした。
その瞬間、空の裂け目がさらに広がった。そこから、黒い霧が更に吹き出し、二体目、三体目の物体が現れた。
「まずい……!」
僕は、歯を食いしばった。これ以上、村に近づけるわけにはいかない。
「ウィエン、村の人たちを避難させて! 僕は、ここで食い止める!」
「でも、ユウ……!」
「大丈夫。僕は、戦える!」
ウィエンは、少しだけ目を潤ませて、頷いた。
「分かった。絶対に、無理しないで!」
彼女は、勢いよく走って、広場の方に戻っていった。それを見届けると、僕は、三体の物体を睨みつけた。
「いくよ……!」
僕の周囲を、三体の物体が旋回していた。どれも、少しずつ異なる多面体の集合体のような異形の姿をしている。
僕は、『ルグ』の力を集中させた。心の中で、強く念じる。
「――光よ、我が手に集え!」
空気が震え、僕の両手に青白い稲妻が集まった。光の槍が、僕の手の中に形を成す。
「行けっ!」
僕は、光の槍を一体目の物体に向かって投げた。槍は空を裂き、物体の中心を貫いた。
爆発が生じて、物体の体が弾け飛んだ。多面体が散り散りになり、黒い霧となって消えた。
「よし……!」
けれど、残り二体が、怒りに満ちた機械音を響かせて突進してきた。
「くっ……!」
僕は、『ルグ』を使って地面を蹴り、瞬間移動する。
「――光よ、再び!」
槍を形成して、二体目に向かって投げる。だが、物体は、それを察知して、空中で身を翻した。
槍は外れ、地面に突き刺さる。爆発が起き、地面がえぐれる。
「まずい……!」
物体が僕に向かって、ビームを放とうとしているのが分かった。
「――盾!」
僕は、咄嗟に『ルグ』で光の盾を生成した。ビームが盾にぶつかり、激しい衝撃が走る。
盾が軋んだ。かなり強烈だ。
「ユウ!」
声が聞こえた。振り返ると、〈ブズゥーク〉が戻ってきていた。
ウィエンが操縦しているのか? と思う間もなく、物体の背に〈ブズゥーク〉がぶち当たった。
「ウィエン……!」
ビームが逸れて、消えた。
〈ブズゥーク〉は、まったくダメージがないように見える。
僕は、祈りを込めて『ルグ』を全開にする。体が熱を帯び、空気が震える。
「――もっと大きな槍を!」
僕の手に、巨大な光の槍が現れた。それは、いつかの夢の中で見た『神秘の槍』、そのものだった。
「これで、終わりだ!」
僕は、槍を振りかぶり、物体に向かって投げた。
槍は、空を裂くように飛んで、物体を二つ同時に貫いた――爆発とともに、空に光が溢れ、物体の体が霧散した。
光が収まると、空のひび割れが、まるで逆再生動画のように、元に戻っていった。
青い空が、戻った。
「……終わった、のかな?」
僕は、肩で息をしながら、空を見上げた。
ウィエンが〈ブズゥーク〉から降りて、僕のところに駆け寄ってきた。
「ユウ、すごかった……!」
彼女は、満面の笑みを浮かべていた。僕は、少し照れながら頷いた。
「ありがとう、ウィエン。君の援護がなかったら、危なかったよ」
「ううん。ユウがいたから、村は守れたの!」
僕は、空を見上げた。まだ、空の奥に、何かが潜んでいるような気がした。




