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異世界にゲスト神として召喚されたらしいんだが……  作者: 謎村ノン


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.10.第二次『神族』大戦(2)

 〈ブズゥーク〉の中で、ウィエンは、〈ヴォン獣の触角毛〉を見つめながら、呟いた。

「ユウ……ありがとう。ウィエン、ずっと『ルグ』が使えないって思ってた。でも、少しだけ、何かが変わった気がする」

 銀色の触角は、彼女の手の中で、微かに光を放ち続けていた。

「君の中にある何かが、目覚め始めてるんだと思う」

「目覚め……」

 ウィエンは、その言葉を繰り返すと、〈触角毛〉を置いて、そっと笛を取り出した。

 笛も、全体がうっすらと光を発していた。

「この笛、ルーファの杖の貝殻と似ている感じがする……」

「そう? この笛、なんか、しっくりする。ずっと、ウィエンと一緒にいた、ような気がするの」

 彼女は、そっと笛を吹き始めた。

 柔らかな音色が〈ブズゥーク〉の中に響いた。

 ――すると、ウィエンの曲に合わせて、うっすらと煙のようなものが流れてきた。

 その煙がゆっくりと晴れていくと、そこに、『働きの人』が現れた。

 僕が驚く間もなく、『働きの人』は、ウィエンを見て、目をしばたいた。

「ウィエン。ついに、導きの器を手に入れたのだね。君の『ルグ』は、ユウの『ルグ』と共鳴して、惹き出されている。それは、かつてこの世界が生まれた時の、最初の〈調和〉に似ている」

 ウィエンは、少し驚いたような顔をしていた。

「そんな……ウィエンは、『ルグ』が、ほとんどない、って言われてきたのに」

「ないからこそ、あるのだ。君は、彼と共にいることで、全てを取り戻すことだろう」

 その言葉に、僕はウィエンの方を見た。彼女は、少し照れたように笑っていた。

「じゃあ、ユウと一緒にいれば、ウィエンも、ふつうに『ルグ』を使えるように、なるのかな?」

「それは、君自身が選ぶ道による。だが、可能性は、大いに、ある」

 『働きの人』は、そう言うと、ゆっくりと〈ブズゥーク〉のスクリーンに溶け込むように姿を消した。まるで、最初からそこにいなかったかのようだった。

「……ウィエン、君の中に眠っていた力が、ようやく目覚め始めたんだね」

「でも、ウィエンは、まだ……意識して、『ルグ』を使えない、かな」

「おそらく、何かを強く祈ったりしたら、使えるのかもしれないね。あせらずに、いこうよ!」

「うん!」

 僕は、ウィエンに、にっこりと微笑んでみせた。


 『大宮殿』に戻ると、広間には、既に神々が集まっていて、『根蔵蜜』の壺の修復と再調合の準備が進められていた。

 ウィエンが〈ヴォン獣の触角毛〉を差し出すと、ヴィードは、目を見張った。

「これほどの(ムル)のあるものを……本当に持ち帰ったのね」

 イアヌーも、静かに頷いた。

 ヴィードが、『ルグ』を使うと、〈触角毛〉は光る液体に変わって、壺の中にしたたり落ちた。

 すると、壺の中に入っていた草や木の実のようなものも溶けて、黄金色の液体に変わった。

 ティマアが、その光る液体を匙でかき混ぜて、一滴、味見する。

「うむ、問題ない、『根蔵蜜』じゃ」

 神々の間で、「よかった」「これで戦える」といった歓声が上がった。

 

 その『根蔵蜜』が、集まった『神族』に振る舞われた。『火の人』のせいで、宴という雰囲気ではなくなっていたが。

「ユウ、ウィエン、あなた逹も飲んでみなさい」

 変わった形のグラスに注がれた『根蔵蜜』を、ネフィールに渡された。

「あ、いただきます」

 口に入れると、それは、ハチミツを濃縮したような、もの凄い甘さと濃厚な果実の香りがする、さらさらとした飲み物だった。あの触角?のムシっぽさは、まったく感じない。

 ……こっそり父に一口、貰った、貴腐ワインというお酒に少し似た感じの味だろうか。

「すごく甘い。美味しいですね! こっちに来て飲んだ、一番美味しい飲み物でした」

 僕が言うと、ネフィールも、その横にいたイアヌーも頷いた。

「ウィエンも、おそるおそるという感じで、『根蔵蜜』を口につける。すると、そのまま、脇目も振らずに飲み干してしまった。

「すごい! 凄く! 美味しかった!」

 口のまわりを舌で嘗めて、ウィエンは、名残惜しそうにグラスを眺めた。

 イアヌーとネフィールは、そのウィエンの様子を見て、顔を見合わせた。

 傍らにいたルーファが、頷いた。

「うむ。やはり、ウィエンは、普通の妖精族では、なかろうと、思っておったのだが」

 僕が目線で問いかけると、ヴィードが肩をすくめた。

「ええ。普通の妖精族には、『根蔵蜜』は、(ムル)が強すぎて――まるで酒精だけの強いお酒のように――その、あまり、美味ではないのよ」

「つまり?」

「ウィエンは、『神族』か、それに近い階層の『非存在(オーネンファ)』、ね」

 今度は、僕とウィエンが顔を見合わせた。

 ちらりと横を見ると、給仕頭のエルが、神妙な表情をしていた。


 『根蔵蜜』を『神族』の皆が飲み干すと、宴は解散となった。

「いつ『火の人』が帰還するかは、まだ分からぬ。各自、準備をして備えてほしい!」

 イアヌーの締めの言葉に、皆が頷いた。


 僕とウィエンは、ジードと話しながら、格納庫に向かった。

「僕達は、まず、人間の村に行こうと思います。人間を避難させたいので」

「うん。そうしてくれると、助かる。僕らは、このディフィネ山の守りを固めたいんだ。地上で、他の動物達も、できれば、みてあげて」

「分かりました!」

 ウィエンが、力強く頷いた。

「〈ブズゥーク〉は、ずっと使ってていいよ。何かあったら、こっちに来てくれれば直すからね」

「ありがとうございます」

「しかし……アムは、僕の従兄弟でもあるんだけどさ、昔は、あんな風じゃなかったんだけど、なあ……」

 ジードは、ため息をついた。

「アムはね、どうも、ルームがイアヌーとネフィールに折檻されているところを庇って、『ルグ』を使ったらしい。この『大宮殿』の一区画が崩壊するくらいの強さで、さ。それで謹慎になっていたけど、何故か逃げ出せて、そのまま家出した、ようだよ」

「そうだったんですか……」

「アムは、確かに、父であるイアヌーに反発していた、よ。でも、それはきっと、認められたいという気持ちの裏返しなんだ」

 僕は、頷いた。たしかに、アムには、いわゆるイキっている同級生にみたことがあるような、反抗期的な雰囲気があった。

「でも、ここに至っては、もう戻れないよ。〈スタータ〉の『防護力膜(カゾォーン)』を壊したのを、イアヌーは、許すことができないから、ね」

「……僕には、アムは、単に虚勢を張っているだけのように思えました」

「そうだね……ほんとうは、アムもルームも、『神族』の秩序連鎖そのものに立ち向かおうとは、思っていなかったんじゃないかな……」

「はい、そう感じます」

 アムとルームは、僕と変わらないような年齢に見えたし、まだ叛乱をおこすには幼いような印象を受けていた。

「なんか、巡り合わせが、悪かったんだと思う……きっと、『火の人』だけじゃ、アムに、ちょっかいを、かけられないだろうから……何か他のものが『高時空』から流れてきたんじゃないか、と思うんだけど……」

 ジードは、青い空を眺めて、ため息をついた。

※前話のルーファの語りに、少し説明を足しました。『空の人』=『時の人』ということだけなので、特に見返してもらう必用ないです。

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