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異世界にゲスト神として召喚されたらしいんだが……  作者: 謎村ノン


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.10.第二次『神族』大戦(1)

 ルーファは、僕とウィエンを『大宮殿』のテラスにある東屋に案内した。

 夜の帳が下りて、星が白々と辺りを照らしていた。そこには、透明な水が湧き出る泉があり、妖精族の給仕たちが、静かに水を汲んでいた。

 皆で東屋のベンチに腰を下ろすと、ルーファは、遠くを見つめながら語り始めた。

「ユウよ。そろそろ、おぬしも〈オーネ〉の昔話を知っておいてもよかろう」

「昔話、ですか?」

「うむ。かつて、この〈オーネ〉を事象の狭間から創り上げたのは、四柱の旧い『神族』であった。『火の人』『土の人』『石の人』『空の人』――それぞれが、異なる能力を持ち、世界の基盤を築いたのだ」

 僕は、黙って耳を傾けた。

「『火の人』は、火による破壊と創造の能力をもつ。その『火の人』は、大地を豊かにする能力をもっている『土の人』と結ばれていた。『土の人』は、現在では、ティマアと呼ばれとる……つまり、我が母様でもある。一方、物の定義づけと存在の神である『石の人』は、空間の管理者の女神『空の人』と夫婦だった」

 ……ルーファの語りは、まるで古代の神話のようだと思った。

「しかし、『火の人』は、己の妻である『土の人』ではなく、『空の人』に横恋慕してしまった。『空の人』は、絶世の美貌をもっていたからだ。その想いは、次第に狂気へと変わり、ついには『空の人』を手籠めにしようとした。だが、『空の人』はそれに抗い、結果として、命を落とすこととなった」

 僕は、言葉を失った。

「彼女の身体は砕け散り、無数の破片となって世界に飛び散った。その破片は、やがて妖精族へと変化した」

 ルーファは、泉に映る自らの顔を見つめながら、静かに続けた。

「『石の人』は、愛する妻を失った悲しみに耐えきれずに、嘆きのあまり亡くなった。その身体は崩れ落ちて大地と化し、『土の人』の『権力』を加えて、今の〈オーネ〉の地、そのものを維持することとなった」

 僕は、泉の水面に映る空を見つめた。神々の悲劇と妖精族の誕生――それは、僕が想像していた神話よりも、ずっと生々しく、痛ましいものだった。

「その後、我らの父――『火の人』の息子であるイアヌーは、青年へと成長した。そして、ワシと、我が妹ネフィールと共に、父を裁くことを決意したのだ。我々は、協力して『火の人』を〈オーネ〉から追放した。だが、父は死んではおらぬ。『火の人』は、時空の狭間である〈スタータ〉に『防護力膜(カゾォーン)』で封じられたまま、戻る機会を窺っていたのだ」

 その言葉に、僕は、背筋が寒くなるのを感じた。

「そして今、その『火の人』が、アムとルームの手引きで戻ってきた。あやつは、復讐心を持っている。そして、〈オーネ〉に新たな波乱をもたらす」

 ルーファは、泉の水をすくい上げ、空へと放った。

 水滴は星の光を受けて輝きながら、空へと消えていった。

「そうだったんですか……」

 ……神々の愛憎劇は、過去のものではなく、今もなお、〈オーネ〉の運命に影を落としているのだ。

 ルーファの話に、一つだけ、疑問に思ったことがあった。

「あの、前に、妖精族は、〈『時の人』から入でたもの。世界の流れを司る〉種族と聞いたのですが……?」

「うむ、『時の人』とは、『空の人』の異名だ。この時空の泡では、空間は、時間と不可分だからな。我が母様のように、そのままの名前を呼ぶことが憚られるから、一般には、そう呼ばれているのだ……」

「なるほど……」

「ユウよ。おぬしがこの世界に導かれたのは、偶然ではなかろう。この神々の争いに加わる、何らかの意味があるのかもしれぬ」

 僕は、ウィエンを見つめた。この〈オーネ〉が変わってしまったら、彼女も大変な目に遭うことは、間違いない。

 だから、僕は、決意した。既に関わっている神々の争いに、自分からも立ち向かうことを――。


***


 『大宮殿』に泊めてもらった僕とウィエンは、次の朝、〈ブズゥーク〉を飛ばした。

 〈ヌムの泉〉まで行こうとした、その途中の荒野で、四人を見つけた。

「あそこだ!」

 霧が晴れた荒野に、〈ブズゥーク〉がゆっくりと着地すると、細かな砂塵が舞い上がった。

 地上では、四人の若者たちが思い思いの格好で、休んでいた。

 ベリは、槍を地に突き立て、仲間たちと肩を寄せ合っていた。彼らの顔には、疲労と、どこか誇らしげな表情が浮かんでいた。

 ウィエンが先に降り立ち、手を振った。

「お疲れ様! 迎えにきたよ!」

 トゥルカが立ち上がり、笑顔で応えた。

「ウィエン様! 来てくれたんですね!」

「みんな、無事で、よかった……」

 ウィエンは、笑顔で微笑んだ。

「皆さん、〈ブズゥーク〉に乗って! 帰りは、送るよ」

「え、宜しいのですか、ユウ神様?」

「うん。〈ヴォン獣の触角毛〉を、頑張って、採ってくれたからね」

 若者たちは、おっかなびっくりという感じで、〈ブズゥーク〉に乗り込んだ。

「そこら辺に、座って」

 ソファーに座ったベリが、感嘆の声を漏らす。

「これが、神々の乗り物か……」

 〈ブズゥーク〉が再び浮上すると、荒野の風景が遠ざかっていった。

 空は澄み渡り、雲の間から陽光が差し込んでいた。

 ウィエンは、窓辺に座り、遠くを見つめていた。

「ウィエン様……」

 ナヤが声をかけた。

「ありがとう、ございます。ウィエン様が、助けてくださらなかったら、私達は……」

 ナヤは、ウィエンに、木製の笛を返した。

「わたしも、みんなに助けられたんだよ。『ルグ』が使えなかった、わたしが、みんなを助けたい、って思ったら、これが、でた」

 ウィエンは、笛をしげしげと見つめた。素朴な彫刻の施されたオカリナのような形をした笛で、なんとなくウィエンによく似合っているように思えた。

 僕は、隣のウィエンに、微笑んだ。

「ウィエンは、『ルグ』が使えなかったんじゃなくて、きっと、何か理由があって、使っていなかった、だけなんじゃないかと思うよ」

 空の旅は、穏やかだった。

 雲海を抜けると、遠くに人間の村が見えてきた。

 粗末な小屋が並ぶその風景は、『大宮殿』とは対照的だったが、どこか温かみがあった。

「帰ってきた……」

 サリが、ぼそっと呟いた。


〈ブズゥーク〉が村の近くの原っぱに着地すると、村人たちが駆け寄ってきた。

 歓声が上がり、子供たちが帰ってきた若者に抱きついた。

 老人は涙を流し、若者たちは、誇らしげに胸を張った。

「〈ヴォン獣の触角毛〉は、手に入れたのだな?」

 村の長が、尋ねる。

 トゥルカが頷き、背負っていた袋から、銀色の触角を取り出して、ウィエンに渡した。

「これで、ウィエン様の潔白が、証明される」

 村人たちはウィエンを囲み、口々にお祝いの言葉を述べた。彼女は、少し照れたように笑いながら、僕のそばに立った。

「名残り惜しいけど、早く『根蔵蜜』を造る必用があるから、もう行こう」

「ごめん! みんな、またくる!」

 僕達は、〈ブズゥーク〉を離陸させて、『大宮殿』に急いだ。

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