.9.神々の賭大会(1)
次の日、ウィエンと〈ブズゥーク〉で『大宮殿』に行くと、奇妙な熱気が漂っていた。
昨日、並べられたテーブルのところに神々が集まっていた。『神族』と、ゲスト側に座っている妖精族と合わせて、十数人ほどはいるだろうか。
皆が歓談している様子に、まるで、田舎の大家族で法事か何かで集まったような感じだなあ、と思った。
ジードと仲のよかったエクは、弟だろうか、もう一人の小さい男の子と一緒に座っていた。そのテーブルには、他にも、大地と穀物の神のエパームと、もう一人の男神がいた――彼らがエクの両親だろう。
イアヌーの娘のルームも、ぽつりと端のテーブルのところに座っていた。その髪は、ピンクと赤寄りの色のまだらになっていて、ちょっと髪型を変えたのかもしれないと思った。
会場の隅には――ホスト側なのだろう――ジードとヴィードがいたので、そちらに近づいた。
「ああ、ユウ! 昨日の人間逹のこと、『『神族』ファミリーの賭大会』の演題になったんだ」
「え? 賭大会って……神様がギャンブルするの?」
僕がジードに尋ねると、彼は苦笑しながら応えた。
「まあ、そういうこと、かな。あの人間逹が〈ヴォン獣の触角毛〉を手に入れるのを、皆に手伝って貰おうと思ったら、そういうことになってさ」
「えーと……」
ウィエンの方を振り返ると、彼女は驚いたようだったが、賭大会については知っていたのか小さく頷いていた。
「元々、『大宴会』に先だって、賭大会が行われていてね。今回は、ニンゲンたちの冒険に、ちょっとした助力を与えて、その結果に賭ける、っていう感じかな? 直接、行って手をだすのは禁止されている」
ジードは、声を潜めて続けた。
「ばあさまが、あの人間逹を、賭けの演題にしろと言って……たしかに、悪くない手だと思って、さ」
「なるほど」
――〈礫象の枝〉の件が、どう説明されたのかは分からないけど……僕達が行けない以上、他の『神族』逹に、あの若者逹が〈ヴォン獣の触角毛〉を採って帰れるよう支援してもらう、ということだろう。
「それって、なんか……RPGの実況プレイを見ながら、誰がクリアするか賭けるみたいな?」
「その『RPGの実況プレイ』が何か分からないけど――うん。そんな感じかもねぇ」
神々が人間の運命に賭けるなんて、僕の世界では、ちょっとないと思った。いや、何かの神話で、そういうのがあるのかもしれないけど……。
でも、このオーネ世界では、それが、伝統行事らしい。
「……主神のイアヌーは、この賭大会に参加しないんだ。彼も、ネフィールと同じく、元々、法、正義、理知の神だからねぇ。似たもの夫婦だよ」
ちらりとジードが見た上座側の席は、確かに空席で、イアヌーもネフィールも座っていなかった。
「あと、アムのことなんだけど……」
ジードは、これまでの神々の話し合いについて、説明してくれた。アムは、まだ宮殿には戻っていなかった。彼の行方は分からず、〈礫象の枝〉を奪おうとした動機も、完全には明らかになっていないらしかった。
しばらくして、エパームが、賭大会の開始を宣言した。
「直接の干渉はなし。ただし、アドバイスしたり、小物を与え、又は貸与するのは可とする。始め!」
エパームは、よく見ると、あのエクによく似ている、と思った。
「エクは、あのエパームと、パームの子供なんだ。エクには、イークという弟がいるよ」
「パームは、あの男の『神族』の方ですか?」
「うん、そう」
ジードは、パームと一緒にテーブルについているエクの方を見て、にまにまと目線で会話していた。
なるほど、先程の推測は正しかったようだ、と思った。
そのとき、水鏡の水が光って、映像を表示し始めた。
ジードは、水鏡に視線を戻し、ぐっと拳を握って、呟いた。
「よし。やはり、『神族』が多ければ、『ルグ』の高まりで、蓋然性が固定できるね!」
「そうなんですか……」
昨日、試したときは、あの若者逹が接触を断った後、何故かまったく表示されなくなかったが、これを狙って賭大会の演題にしたのかもしれない、と思った。
「お、いたいた!」
皆が、じっと水鏡を見つめる。そこに写ったのは、どこかの渓谷を歩く四人だった。
「ここは、〈霧の門〉か? 〈入らずの森〉からずっと続く森の端にある、谷だよ。ずいぶん、進んだみたいだね」
ジードが、解説してくれる。
渓谷には、濃い霧が立ち込めていた。
「霧の中で方向感覚が狂って、同じ場所を、何度も巡るようになっている、はず。〈入らずの森〉の奥に行ったら、あぶないからね。ヘタしたら、存在の確率が、ゼロ以下になってしまう」
四人は、固まって慎重に歩いているようだった。
やがて、弓を持った短髪の女狩人が草の揺れを見て呟いた。
「風が……逆に吹いている」
「トゥルカ! そうそう、そっちだよ!」
じっと水鏡を見ていたウィエンが叫ぶ。ウィエンは、彼ら四人を見知っているらしかった。
すると、長い髪を結った別の女狩人が、地面に這いつくばって言った。
「……この苔は、北を向いている。こちらが、正しい道、だろう」
その長い髪の女狩人の言葉に従い、四人は霧の中を進んだ。
「ナヤ、すごい!」
ウィエンが両手を組んで、嬉しそうに言った。
すると、そのウィエンの言葉に、女狩人の一人が、水鏡を通して、こちらの方を向いたように見えた。
「もう大丈夫そうだから、こっちに座ってよ」
ジードに薦められて、ルーファ、ヴィード、ティマアがいるテーブルに、ウィエンと一緒に行く。
そのジードの方は、エクの隣にいそいそと座った。二人とも、満ち足りたような笑顔だった。




