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異世界にゲスト神として召喚されたらしいんだが……  作者: 謎村ノン


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.8.礫象の枝(3)

 ディフィネ山の空は、夕暮れの光に染まり始めていた。

 僕とウィエンは、『大宮殿』に戻ってきた。

「とりあえず、報告しよ。そして、早く、〈ヴォン獣の触角毛〉を取りに行こう!」

 ウィエンの言葉に、僕は頷いた。

 〈ブズゥーク〉が宮殿の格納庫に着地すると、僕らは、急ぎ足で広間へと向かった。

 広間は、飾り付けの途中のようだった。神々と妖精族が何人か集まって、作業をしていた。

 テーブルが配置されていて、その中央に、何畳もありそうなくらい大きな平べったい鍋のようなものが置かれ、水が注がれていた。

 その横に、ジードがいて、なにやら鍋に触って操作していた。

「ジード!」

「ユウ! これは、『大宴会』で使う、水鏡さ。今、調整してるよ」

 その平たい鍋のような水鏡に注がれた水は、淡い光を放っていた。

 ジードが、その水鏡から手を離して、振り返った。

「そういえば、〈礫象の枝〉は、取れた? 宴の最終日で皆に振る舞われる予定だから、まだ大丈夫だよ」

「すみません、そのことでお話が……」

 ジードに耳打ちしようとしたとき、ジードが驚いたように声を上げた。

「ん! 水鏡に……何かが映っている?」

 水が光を放って、何かの映像を映し出していた。

「人間だ! これは……狩りにでも行くのか?」

 水鏡の中には、数人の人間の若者たちが映っていた。

 彼らは、粗末な装備ながらも、槍と弓を担いで一列になり、何か叫びながら山道を進んでいた。

「えーと、音声は、聞こえないのですか?」

「うん……まだ調整中だから、聞こえづらいね。耳をすまして」

 ジードに言われた通り、耳に手を当てて、彼らの声を聞こうとする。

「皆で! 〈ヴォン獣の触角毛〉! 採りに行くぞ! 大冒険だ!」

 ……彼らは、意気揚々と、多少音痴に歌っているのが聞こえた。

「なんで〈ヴォン獣〉を……?」

 ジードが、戸惑った様子で呟いた。

「そうなんです、その件で、お話が! 実は、〈礫象の枝〉がアムに盗られてしまって……」

 僕は、アムとの出来事と、『働きの人』との会話について、手早く説明した。

「……おそらく、彼らは、その会話を聞いていて、自分たちで採りに行こうとしているんだと思います!」

「なるほど。彼らは、ウィエンのために、冒険に出た、ということか」

 ジードが頷いた。

 すると、ジードの横にきていたヴィードが応えた。

「〈ヴォン獣〉は、オーネ世界でも最も凶暴な守護獣の一つだわ。その〈触角毛〉は、強力な(ムル)を秘めているから、確かに、〈礫象の枝〉の代替品になるだろうけど……」

 ウィエンが、叫んだ。

「勝手に行くなんて……! 危険すぎる!」

 僕も、水鏡に向かって叫んだ。

「聞こえるか? 君たち、今すぐ引き返してくれ!」

 水鏡の中の若者たちは、一瞬、立ち止まった。しかし、彼らの表情は決意に満ちていた。

「『神族』の方か? 我々は、ウィエン様の名誉(ほまれ)を守るために行くのです!」

「待って! ウィエンの潔白は証明できるから!」

 ――そう、僕は、アムの装備の破片という物証をもっているのだ。それで、イアヌー逹を説得することは可能だろう。

 ジードも、叫ぶ。

「無茶だ! 〈ヴォン獣〉のような守護獣は、君たちの力では……」

「それでも、やらねばならぬの、です!」

 なぜか、水鏡の映像は、そこで途切れた。

「くっ……」

 拳を握りしめた、その時、広間の奥から、静かな足音が響いた。

「おばあ様!」

 ジードが叫んだ。現れたのは、白銀の髪に褐色の肌をした女の人だった。年齢的には若く見え、地味なアースカラーの服装をしているものの、妙な威厳があった。

「水鏡は、蓋然性の断片を映すもの。今の映像は、ただの現在では、ない」

 ヴィードが耳打ちしてくれる。

「……義母のティマアよ」

 ティマアの瞳は、すべてを見通すような静けさを湛えているように思った。

 彼女は、水鏡に歩み寄り、手をかざした。

「そうだ。人間たちが〈ヴォン獣の触角毛〉を手に入れたならば――ウィエンは、邪なる妖精族ではないと証明される」

 ウィエンが目を見開いた。

「それは、どういう……?」

「――〈触角毛〉は、真実を見通す香りをもつ。その香りが『根蔵蜜』に加われば、飲んだ者は、真実の記憶を追体験するであろう。それで、ウィエンが何もしていないことが、明らかと、なる――」

 ティマアは、まるで本を読み上げるように、そう告げた。

 ジードが、首を振った。

「おばあさまの予言だよ。おばあさまは、今いる『神族』のなかで、一番、先見(さきみ)の能力があるから、おそらく、事実となるね」

「でも、〈ヴォン獣〉とやらを、人間が倒すことは、できるのですか?」

「それは、ちょっと難しいかな……」

「じゃあ、僕とウィエンで倒します! もともと、そのつもりだったので!」

 ジードに言うと、彼は首を振った。

「危険だ! 〈ヴォン獣〉は、『ルグ』を感知するんだよ。『神族』や妖精族が近づけば、激しく反応する。元々、〈ヴォン獣〉は、〈次空の浜辺〉に、皆を近づけないように配置された守護獣なんだよ」

「では、どうしましょう?」

 ウィエンの方を振り返ると、彼女は、何も映っていない水鏡を、食い入るように見つめていた。

「うーん。困ったね……」

 ジードは頭をかいた。

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