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異世界にゲスト神として召喚されたらしいんだが……  作者: 謎村ノン


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.8.礫象の枝(2)

 ウィエンの話していた〈沈みの門〉は、海の宮殿の最深部にある、巨大な貝殻が嵌めてあるような扉だった。

「ちょっと、待って」

 ウィエンが扉に触れると、その貝殻が静かに開いた。

 その先には、暗い地下に続く階段があった。

「ここから先は、光が、あまり届かないよ。気をつけて!」

 ウィエンの声は、いつもより少し緊張していた。

 僕は、頷いて、彼女の後を追って、階段を降りた。

 かなりの長さの階段を降りると、地下世界らしき開けた空間に辿り着いた。

 そこは、まるで夜の海底のような場所だった。空はなく、天井は黒曜石のように光を吸い込んでいた。地面は湿った砂場のようで、ところどころに奇妙な光を放つ苔が生えていた。

 空気が重く、冷たく、周囲の音が吸い込まれていくような静けさだった。

「ここが……地下世界?」

「うん、そう。〈根の底〉って、いわれてる」

 周囲には、微かに甘い香りが漂っていた。

「この香りは……何かな?」

「あれ、だよ」

 ウィエンが指さした先には、黒くねじれた枝が地面から突き出していた。

 その枝の表面が濡れて光っているのかと思ったら、微細な光の粒が浮かんでいるようだった。

「〈礫象の枝〉?」

「ちがう。これは、普通の〈闇の枝〉だよ。探しているのは、もっと闇が凝縮した〈礫象の枝〉。もう少し行かないと、ない、かな」

 ウィエンの声が、暗い洞窟の中に反響する。ネコミミがぴくりと動いたのが分かった。

 明かりは、ほとんどなかったけど、どうやら僕は、夜目が効くようだった。

「でも、どうしてウィエンが疑われたんだろう……」

「ウィエン、ほら。みんなと、そんなに仲良くないから、ね」

 ウィエンは、少し寂しそうに言った。

 僕は、なんと声をかけてよいか分からず、沈黙するしかなかった。

 暗い中、ウィエンについて行くと、砂のような地面が、時折、揺れるような感覚があった。

 慎重に、足を進める。

「この辺り、何かいるのかな?」

「地下の守護獣がいる、って『働きの人』がいっていたよ。でも、ウィエンが見たことは、ないよ」

 やがて、僕達は、大きな開けた空間にでた。

 天井は見えず、壁には奇妙な模様が浮かんでいた。

 中央には、一本の巨大な黒い樹が立っていた。幹はねじれ、枝は空間を裂くように広がっていた。まるで、闇そのものが形を成したような樹木だった。

 その樹から、一本の銀色の闇のように光る枝が垂れ下がっていた。

「これが、〈礫象の枝〉だよ!」

 ウィエンが駆け寄ろうとしたその時、洞窟の奥から、低い笑い声が響いた。

「遅かったな」

 声の主は、炎のような赤髪の十五、六歳くらいに見える鋭い目つきの少年だった。黒い貫頭衣に簡素な鎧をまとっている。

「あなたは、夢でみた人?」

 『海の宮殿』で見た夢に出てきた少年だった。現実にいたのか、と驚いた。

「おう。覗き見していたのは、お前だったのか? ユウ神さんよ。俺は、イアヌーの息子、アムだ」

「アム?」

 ユウが問いかけると、アムは、冷笑を浮かべた。

「お前さんたちは、『根蔵蜜』をまた造ろうとしてるんだろ? 誰か来ると思って先回りしていたぜ」

「何だって?」

 アムは、地面に唾を吐いた。

「そんなのさせねえ! おやじ逹は、〈ルグ〉が弱って、くたばっちまえばいいんだよ! これからは、俺の時代だ!」

「なに、それ……!」

 ウィエンが叫ぶと、アムは手をかざした。

 すると、〈礫象の枝〉が黒い霧に包まれ、次の瞬間、彼の手の中にあった。

「お前たちは、普通の〈闇の枝〉でも持っていくんだな! 『根蔵蜜』は、できねえだろうがよ。ワハハ」

 アムが笑うと、彼の体自体が、黒い霧に溶けるように消えていった。

「おい、待て!」

 僕が叫んで近づこうとすると、アムは一瞬だけ目を細めた。

「……待たねえよ!」

 その言葉と同時に、洞窟の空気が震えた。

 次の瞬間、黒い霧が渦を巻き、巨大な影が姿を現した。

「あ――地下の守護獣?」

「うん、〈影象〉!」

 牙のある象のように見えるその影のような動物が、唸りをあげた。

「ウィエン、下がって!」

 僕は、咄嗟に『ルグ』を発動させた。手の中に、光の槍が現れる。

 守護獣〈影象〉は、空気を震わすような咆哮を上げ、突進してきた。

「ユウ、気をつけて!」

 ウィエンが叫ぶ中、僕は槍を構え、〈影象〉の足元に飛び込んだ。

「いけっ!」

 身体が面白いように動いて、光を放つ槍が、影を大きく斬り裂いた。

 〈影象〉は苦しげにうめくと、まるで闇に溶けるように消えていった。

「やった……か?」

 振り返ると、その時には、アムも消えていた。

「……ない」

 ウィエンが、呆然と呟いた。〈礫象の枝〉は、すっぽりとなくなっていて、枝の切り口のところだけが鈍く光っていた。

「とりあえず、この切り口のところを持って行こうか?」

「うー」

 ウィエンが、表情を曇らせた。

 僕は、また光の槍を出して、根本のところから黒い枝を切り落とした。

「なるほど、これは使えるかな。ん?」

 切り落とした枝を拾ったとき、足元の地面に、何かが落ちているのに気づいた。

 黒い金属でできた装飾の破片だった。見覚えがある。

「これ……アムの装備だ」

 拾い上げると、鋭利な刃物で切れているように見える。

 先程の〈影象〉を斬ったときに、一緒に切れたのだろうか、と思った。


***


 〈沈みの門〉まで戻って、〈ブズゥーク〉に乗ったところで、ウィエンが告げた。

「ユウ! ディフィネ山に行く前に、ニンゲンの村まで寄って!」

「ああ、いいけど、なんで?」

「『働きの人』がいるの! 『働きの人』なら、なんとかする、方法を知っているかも……」

「分かった!」

 僕は、〈ブズゥーク〉を、ニンゲンの村に向けた。

「ここ!」

 森の開けた場所を、ネコミミを大きく張って、ウィエンが指さした。

 僕は、慌てて、その場所に〈ブズゥーク〉を着陸させた。

 そのまま、駆け出すように、ウィエンは、〈ブズゥーク〉から降りた。慌てて、僕も、後に続いた。

 そこには、確かに、半透明の大男の『働きの人』が、ぼんやりと佇んでいた。

「『働きの人』! 〈礫象の枝〉が、アムに盗られちゃったの。これで、なんとか、できない?」

 ウィエンは、切り口が光る〈闇の枝〉を、『働きの人』に掲げてみせた。

「わたしは、事象の流れを知ることができる。何が起こったかは、分かっている。残念だが、それだけの〈礫象(れきしょう)〉では、『根蔵蜜』を造るのには、足りないだろう。ただし……」

「ただし?」

「〈ヴォン獣の触角毛〉が、あれば。足りない(ムル)を補うことが、できるだろう。香りは、少し落ちるだろうが」

「それ、どこにいるの?」

「〈入らずの森〉の手前の荒野、〈ヌムの泉〉のほとりに、いる」

 僕は、その言葉に、ウィエンと顔を見合わせた。

「イアヌーさんたちに伝えたら、行こう!」

「うん!」

 僕達の言葉に、『働きの人』が頷いた。

「蓋然性は、その連鎖を肯定している」

「ありがとうございます!」

 『働きの人』にお礼をいい、また二人で〈ブズゥーク〉に乗り込んだ。

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