.6.人間の村.(2)
ウィエンは、僕を連れて、村の中央にある広場へと向かった。
村の長も後に続く。
「ウィエン様には、火種を頂いたり、草のから布を作る方法、家の建て方や魚の捕り方を教わったり、大変有り難く素晴らしきことにございます」
なるほど、ウィエンは人間たちのアドバイザーのようなことをしているらしい。
「『神族』様にも、お知恵を拝借したく、お願い申し上げます」
「うん、僕が知ってることなら……」
とりあえず頷いておく。『神族』と呼ばれることには、まだ慣れなかった。
「おーい! みんな、集まって!」
ウィエンが呼びかけると、村人たちが集まってきた。子供が数人と、先程みた人たちだけだ。
「ユウの世界のこと、話して? ニンゲンたちは、ユウの話を聞きたがるよ!」
「あ、はい」
集まってきた村人たちが、ウィエンの言葉に目を輝かせ、耳を傾けた。
僕は、少し戸惑いながらも、話し始める。
「えーと、僕の世界では、空を飛ぶ鉄の鳥があって、遠くの国まで一日で行けるんだ」
「鉄の鳥?」
「そう。飛行機っていうんだけど……〈ブズゥーク〉と違って、燃える水を燃やしてガスを吹き出して、進むんだ。だから、大きな音がするね……」
僕の話に、村人たちは驚いたように聞き入った。
ウィエンも、興味深そうに、僕の話を聞いてくれた。
「他にも、海の中を進む船もあるし――宇宙に行く乗り物、ロケットというんだけど、もあったよ。昔、僕の世界の人たちは、月に行って戻ってきたんだ」
「ふーん、ユウの世界の『神族』も、空を飛べるんだね」
皆、関心したように聞き入っている。彼らにとって、僕の世界はまるで神話のように思えるのだろう。
話し終えると、ウィエンが僕の手を握った。
「ありがとう、ユウ! みんな、とっても面白かったんじゃないかな!」
「ユウ様におかれましても、今後はなにとぞ宜しくお願いいたしたく」
そういって、長は平伏した。
「うん、わかったよ。とにかく普通に立って話してくれていいから」
僕は、慌てて彼の身体を起こさせる。
すると、ウィエンは満足そうな表情で尋ねた。
「そういえば、他の人、どっかに行ってるの?」
村の中は、集まってきた住人以外の気配を感じなかった。
「はっ。残りの者は、皆、ウィエン様に頂いた種を植える畑を耕やしに行っております。俺、わたくしは、長ですので残っておりました」
「そう。それじゃあ、今度は、ウィエンとユウ、畑の様子を見に、またくるね!」
「おねがいしますじゃ」
そういって、村の長は、頭を下げた。
***
村の長に挨拶した後、〈ブズゥーク〉の中に戻り、僕は頭を振った。
「オーネにいる人間は、あの村にしかいないんですか?」
「そう。『石の人』がオーネの地面になったとき、つがいで生まれた一番賢い動物の子孫、だよ」
「動物……あの男の人は、僕達と同じようにしか見えなかったですが……」
少しボロい服を着ていて、あまり清潔そうには見えなかったが――外見的な特徴は、普通のヨーロッパ系人種のそれだった。
「ん? えーと、ニンゲンには希望があるから、他の動物とは違う、んだって」
「希望?」
パンドラの箱みたいな話だろうか? たしか、ギリシア神話では、箱の中に希望が残ったとか何とか……。
「あ、そうだ! もういちど、『塔』まで行って?」
ウィエンは、手を合わせると、何か用事を思いだした、といった気軽な感じで告げた。
「『時の人』の記念碑ですか?」
「うん! 今日はいるかも?」
「え? 誰かいるんですか?」
「ないしょ! 行けば分かる!」
ウィエンは、笑顔で言うと、僕に抱きついてきた。
「あ、わ、ちょっと!」
いきなりのスキンシップに驚いたものの、まったく嫌な感じはしなかった。まだ今日会ったばかりなのに、彼女に惹かれているのがはっきりと分かった。




