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異世界にゲスト神として召喚されたらしいんだが……  作者: 謎村ノン


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.5.ウィエン(2)

 そのまま、一緒に走って〈ブズゥーク〉の前まで着いた。

「ふう、と。えっと、どうするのかな?」

 考えてみたら、まだ操作方法は、習っていなかった。

 とりあえず、なんとなく『開け』と念じてみる。すると、まるで跳ね上がるようにドアが開いた。

「うわっ」

 思わず驚いて、おっかなびっくりといった感じで近づいてみる。

 ウィエンの方は、全然気にしていないのか、すたこらと中に向かって歩いて行く。

「あ、あの?」

 僕が声をかけると、彼女はくるりと振り返って、笑顔で小首を傾げた。

 その笑顔を見たら、なんだか、微妙な不安が吹き飛んだような気がした。ウィエンに続いて、〈ブズゥーク〉の中に入った。

 進行方向に向かって正面側のソファーに座ると、ウィエンが何のためらいもなく横に座ってきた。

 少し、こそばゆく感じながら、正面の白いプラスチックのような壁を見た。

「えっと、どうするんだっけな?」

 先ほど、ジードが操縦していたときのことを思い出そうとした――その時、なぜか急に〈ブズゥーク〉の操作の仕方が分かった。

 ……昔から覚えていて忘れたのを思いだしたような、不思議な感覚だった。

(ん? これは、この〈ブズゥーク〉の中に記憶が塗り込められている?)

 操作方法の記憶そのものが、〈ブズゥーク〉に入っているということが『分かった』。

 この記憶は――『神族』が誰でも〈ブズゥーク〉を操縦できるように、ジードが入れていたということも、何故か『分かって』いた。

(パソコンのマニュアルというかヘルプファイルみたいなもの……かなあ?)

 ……『ルグ』の力は、本当にいろいろなことができるなあ、と素直に驚いた。

 これがあるから、ジードは僕を放り出して行ったのだろう、と少し納得した。

 実際のところ、エクとかいう女の子に夢中で、行ってしまっただけかもしれないけれど……。

 とりあえず、支障はないようなので、起動させることにする。

「じゃあ、行こうか」

 ウィエンに話しかけると、彼女は、期待に満ちた視線を向けてきて、こくこくと頷いた。

「ドアロック、と」

 僕が念じると、先ほどとは違って、すっとドアが降りて閉まった。

 ドアが完全に閉まるのを確認して、周囲の壁を透明にさせた。

 ウィエンは、びっくりして僕の方を見つめてくる。

「壁を透明にできるみたいなんですよ」

 微妙に得意げに説明しながら、『ルグ』放射板への弁を軽く開く。床の下に入っている、その放射板とやらのお陰で〈ブズゥーク〉が動くことも、今ではちゃんと『分かって』いるのだった。

「よーし、出発!」

 『ルグ』をそっと流し込むと、〈ブズゥーク〉は、ふわりと浮き上がった。いい調子だ。

「わーー、凄い、すごい!」

 ウィエンは、素直に喜んでいるようだった。

 彼女は、ソファから立ち上がって、ソファの前に置かれたテーブルにしがみつきながら、小さくなってゆく地面をじっと眺めた。

「えーっと、どっちに行くの?」

「あっち! あの森の下!」

 僕は、ウィエンが指さした方向に機首を向けて、〈ブズゥーク〉をそろそろと進めた。

 頭の中に地図が浮かび上がった。おそらく、ウィエンが言っているのは、原生林のような森が少し切れた草原のような場所だろう。

「オーケー。じゃあ、オートパイロット設定、っと」

 『ルグ』を使って、自動操縦用の機械式計算機の設定をした。床下で、木組みが組み合わさって、木琴を叩くような音とともに揺れるのが分かった。この計算機を取り付けたのもジードだということまで『分かって』いた。

「すぐ着くよ」

「うん!」

 ウィエンは、興味深そうに、進行方向を眺めた。

 一息ついたので、改めて彼女を眺める余裕ができた。彼女は、僕と同じような貫頭衣を着ていた。色はピンクに近い赤色に染めているようで、よく見ると、少し僕のものよりくたびれて――ありていに言うとぼろぼろで――手足の露出が多かった。

 しかし、その服は、彼女の特徴であるネコミミに似合っているように思えた。

 そのネコミミは、風景を探るように、微かに動いているのが分かる。

「この世界に来て、おとぎ話の登場人物のようなヒトに会ったのは、君が初めてだよ」

 僕は、思わず呟いていた。

 本当に異世界だったのだと分かって、なんとなく嬉しくなった、それだけだったのだけど……。

 くるりと振り返ったウィエンの表情は、一変していた。

 物憂げに遠くを見つめるような、無表情に悲しさの感情を一滴加えたような表情になっていた。

「え?」

 僕は、何か凄くまずいことを言ってしまったらしいと思った。思わず、ソファの上で後ずさった。

「ウィエンは、妖精族だよ。でも、『ルグ』は使えないんだけどね!」

 頭を振って、ウィエンは、少し寂しそうな表情で微笑んだ。

 その表情も、これまで見た彼女の笑顔とは違う意味で、なんか心臓を鷲掴みにされるような気がした。

 僕は、頭を振った。

「……あ、ウィエン、さんは『妖精族』だったんだね。うん。なら、どうりで美人な訳だね!」

 どう会話を続けたらいいのかよく分からなくて、思わずそんなことを口走っていた。

 すると、またウィエンが、目を見開いて、とっても驚いたような表情をした。

「え、ウィエン、美人?」

 僕は、大げさに頷いていた。

「あ、ああ。とっても」

「ホント?」

「うん、ホント。君みたいな、かわいい子、僕のいた世界では、見たことないよ!」

 これは、事実だから、力説してもよいだろう。例の彼女よりも、ウィエンの方が、ずっと可愛い、と思った。

「嬉しい!」

 ウィエンは、そう言うと、いきなり僕の首に抱きついてきた。

 突然の出来事に、アタマがパニックを起こしそうになる。鼻腔をくすぐる、ミルクのようなウィエンの良い香りに、身体が硬直した。

 ウィエンは、両手を戻すと、僕を正面からまともに見つめて、笑顔で言った。

「ありがとう」

「あ、うん……」

 そんな風に返すことしかできない。

 しかし、ウィエンは、また上機嫌に戻ったようで、またソファに腰掛けると風景を見始めた。

「もう少し、だね」

 ウィエンは、振り返って、笑った。

「う、うん!」

 僕は、戸惑っていたけど、少し楽しい気分になっていた。

(ふう、なんかよく分からないけど、単純に好意を示してくれたのかな?)

 外国人だったら、挨拶代わりにハグするのも普通なのかもしれないけど……。

 森が切れて、目指す場所に向かって、〈ブズゥーク〉が降下し始めた。

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