.4.ジードの従姉妹(3)
「で、さ。実は、そのう。これなんだけど……」
彼は、うわずった声で言うと、ほんのりとピンク色をした紙のようなものを僕に渡した。
紙のように見えるけど、プラスチックのような光沢のあるカードだった。二つ折りになっていて、小さい木の細工をクリップのように挟んでいた。
「はい?」
「これをね。彼女、エクに渡してほしいんだ」
「え?」
「エクは、僕の従姉妹でね。小さい頃はよく、他の従兄弟たちと一緒に遊んだのだけど、ね。最近、その、ちょっと疎遠になってしまっていてさ。いや、別に、喧嘩をしたとかそんなのじゃないんだけど。とにかく。僕の気持ちを伝えようと思って、この手紙を書いたんだ。ウン」
ジードは、いきなり早口で、そこまで一気に言った。
その勢いに驚いて彼の顔を見ると、頬がほんのり赤くなっていた。
「はあ……」
なんか、日本の古典に似たようなシチュエーションがなかったっけ、などと僕は当惑した。
いや、その前に――僕はジードの様子に、少々、懸念を抱いた。
「ちょっと、文面を見せていただいて、いいですか?」
ジードは一瞬、躊躇したが、こくりと肯いた。
木の細工を外して、開けてみる。
すると、アルファベットを崩したような文字で、何かが書いてあった。
じっと目をこらすと、話し言葉を理解できるのと同じように、文字の意味がアタマに飛び込んできた。
ちょっと目眩に似た感覚を覚えた後で、まるで、文字の上に被せられたヴェールが取れたような感じで、意味が分かったのだ。新鮮な感覚だった。
まず、理解できる文章として目についたのは、こんな内容だった。
〈愛しいエク様、わたしはあなたのことを想って、毎日眠れない日々を送っております〉
その後、延々と、好きだとか愛するとかいう言葉が書き連ねてあった。
「うーむ」
僕は、思わず唸った。
――こいつは、いわゆる思春期の男の子が経験する『恥ずかしい手紙』の一種だな、と思った。
詳しいシチュエーションは分からなかったけど、こういった手紙が効果を示すかどうかは、相手の性格と、二人の関係性に左右されるような気がする。
正直、かなりハイリスクだなあ、と感じた。
実は、僕も、以前に同じようなメールを書いて、すかっと振られたことがあったのだ。
なんか、その女の子も美人だったなあ、と記憶が蘇る。
「だめなのかな?」
ジードが真剣な顔で、僕の方を見つめていた。
僕は、現実に引き戻された。頭を、左右に振る。
「えーと、ですね。彼女と、どれぐらい頻繁に会っているんですか?」
「うん。ここ四、五か月ぐらいは話していない、かな。朝、散歩に出かける時にこうやって、こっそり見ることはあるけど」
明るくて快活なジードの、意外な一面を見たような気がした。思い詰めて、ストーカーになる一歩手前、といったところだろうか。
「……彼女は、それを知っているんですか?」
「い、いや。気づかれてないはずだけど、さ」
「ふーむ」
僕は、腕を組み、少し考えた。ジードは、傍らで息を飲んで見守っている。
「そうですね。いきなり、この手紙を出したら、彼女、びっくりしますよ」
つとめて、もっともらしく聞こえるように話す。
「とりあえず、手紙はやめにして、彼女と普通に話をした方が、いいんじゃないかな?」
ジードのマネをして、にこっと笑ってみせる。
「せっかく今、彼女がいるんですから、ね。そうだ、僕を彼女に紹介して下さいよ。おーい!」
僕は、振り返ると、花園にいる女の子に向かって、大きな身振りで手を振って、叫んでいた。自分でも、大胆な行動に驚いていたけど、ジードを放っておけない気がして、つい行動していたのだ。
ジードは、パニックを起こしたのか、あたふた手足を動かしながら、僕を止めようとした。
しかし、女の子――エクの方が、僕達に気付いたようだった。




