.1.オーネ世界(1)
謎村ノンと申します。よろしくお願い致します。えいやっと連載にしないとなかなか始められないので投稿してみました。
ストックがあるうちは、可能な限り毎日、不定時間に投稿します。現在のところ、全体構成(予定)の1/4くらいかな。なるべくエタらないよう頑張ります。
夢と現実の中間の状態。
浅い眠り。
はっきりと意識がないのに、妙に周囲のことが感じられる。
潮の匂いが鼻についた。
霧の中、僕は誰かの大きな肩に担がれて運ばれていた。のっしのっしと腹に響く振動が伝わってくる。
ここはいったい、どこなのだろう?
そう思ったところで意識が途絶えた。
「ふぁー」
すごぶる快適に僕は目覚めた。欠伸とともに背伸びをする。
最初に視界に飛び込んできたのは、白っぽい石の天井だった。
「? あれ、ここ、どこ?」
まったく見たこともない部屋だった。
広さは、十五畳くらいのあるだろうか。大理石のように見える石の壁には、鹿の角飾りと、色とりどりのタペストリィが飾られている。
目をすぼめて、壁に孔を穿っただけのような窓を見る。外には青空が広がっていた。
「うむ、本日は晴天なり」
寝起きであまり頭が働かなかったものの、懸命に思いだす。目覚めるまで、僕、高槻裕は、高校にいたはずだ。たしか、パソコン部の部長、滝島の作った妙なプログラムの描き出す妙な画像を眺めていて……。
「けど……」
その後のことが、まったく分からない。
「何か、声を聞いたような……」
誰かが……そう、女の子の声で、呼ばれたような気がした。
首を傾げていると、唐突に、背後で金属音がした。
振り返ると、凝った装飾のドアが開いて、女の人が入ってきた。
「まあ、お目覚めですのね!」
給仕らしいその女の人は、僕に向かって微笑んだ。
「さあさ、イアヌー様を始めとする御様方が、お待ちしていらっしゃいますのよ!」
女の人は、ゆったりとした白っぽい貫頭衣を着ていた。
彼女は、ブロンドの髪で、青い瞳の典型的なヨーロッパ系人種に見える。歳は、二十五歳……より少し若いくらいだろうか。まるで、世界史の挿絵にあったギリシアの彫像みたいだ、と思った。
(あれ、古代ギリシア人って、髪はブロンドなんだっけ?)
「あなた、こんこんと眠っていらしたのよ。かれこれ、まる一日ぐらいかしらねえ」
突然、彼女が話す言葉が、日本語でないことに気がついた。しかし、不思議なことに、きっちりと理解することができた。歌でも歌っているような調子の不思議な言語で、これまで聞いたことがない言葉であることは間違いない、と思う。
「とりあえず、着替えていただかなくては、ね」
彼女に言われて初めて、僕は、麻みたいなごわごわした素材のパジャマらしきモノを、着せられているのに気がついた。
そのパジャマは、まるでバスローブといった感じの素っ気ないデザインだった。
しかし、肌触りはしっとりしていて、まるで重さを感じなかった。特殊な素材なのだろうか?
「さあ、こちらへ、どうぞ」
まだ頭がボンヤリとしたままだったけど、僕は彼女の手招きに応じて、ベッドから立ち上がった。
「あの、ここはどこ?」
ごく自然に、僕の口からも不思議な言葉が飛びだしていた。
「ここは世界の中心、ディフィネ山の『大宮殿』の客間の一つですのよ」
これまた、まったく聞いたことがない単語だった。僕は、また首を傾げた。
すると女の人は怪訝そうな表情をした。
「まさか、『大宮殿』をご存知ない、なんてことはないですわよね? オーネ全ての統治者、『偉大なる王』イアヌー様の宮殿なんですからね」
「はあ」
訳がわからなかったが、頷きかえした。まだぼーっとしたまま、ギリシアならオリンポス山じゃないかなあ……と思ったのだが。
「それでは、失礼します」
女の人は、右手を僕の頭の斜め上にあげると、その拳を握り、人差し指だけ立てた。すると、人差し指がキラキラと輝き始めた! 彼女が人差し指を振ると、光が周囲に撒き散らされたように見えた。
そして、彼女の人差し指は、僕のパジャマに触れた。僕のパジャマも、一瞬、光ったように見えた。
次の瞬間、僕は彼女と同じような服を着ていた。
白くゆったりとした貫頭衣を着て、サンダルを履いていたのだ。
「これは、いったい……?」
驚いて服を掴むと、生地の感触が、全然違っていた。絹のように光沢がある、つるっとした布だった――彼女が着ているのと同じような。
「ほほほ。わたくし、これでも妖精族のはしくれですわ。これぐらい当然ですのよ」
彼女は得意げな表情で優雅に頷いて、ドアを指し示した。
「さ。こちらへ」
※給仕の子は、ヒロインじゃありません。ヒロインは、大分先にしかでてきません。ハーレム設定ありません。