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岩岡家の一番強い人間(13)

 カンカンカン!

 相手の男が地面に倒れこむと同時にゴングが鳴り、大きな歓声が上がった。会場を包み込む、数万人が同時に放つ地鳴りのような歓声だ。

 誰もがリリィの勝利を確信していたが、相手の健闘が凄まじく、何度か危うい場面があった。だが、最終的には見事に相手をノックダウンし、リリィは勝利した。リリィは俺より一足先に、本当の意味で世界で一番強い男になりやがった。

 思えば情けなくも喧嘩屋に負けて、橘たちに殺されかけた俺を守るために五人の喧嘩屋をボコボコにぶっ倒した時から、リリィの将来は決まっていたんだろう。

 リリィのセコンドを任された俺は、パフォーマンスを終えたリリィを試合を行ったホールから控え室まで先導するために前を歩く。同時に、尻の辺りにリリィの激しい視線を感じゾクゾクっと背中の辺りに悪寒が走る。

 こんなときまで、リリィはどうやら俺のアスホールを狙っているらしい。「アタシはオカマだけど、好きなのは女の子よ」なんて言ってた言葉は嘘っぱちだったのだ。

 だが狙うなら狙えばいい、俺はそう思う。どこまで本気か知らないが、リリィが本気で俺を想うほど、俺は強くなることができるだろう。そして俺もリリィを――そして恥ずかしいが親父と母さん――を愛す。俺のそれはもちろん家族愛だ。

 俺とリリィは想いの形は違えど愛しあい、どこまでも強くなれるだろう。

 そう、今はリリィのセコンドなんて地味で、まるで脇役のような役割を背負っているが、俺は大気圏を突き抜けるほどに強くなることを諦めわけじゃない。

 リリィが世界一のタイトルを手にした今、俺がやることは一つだけ、そのタイトルをかっさらうことだ。別に非公式の闘いだって構わない。会場は近所の空き地だっていい。世界で一番強いリリィをぶっ倒せば、岩岡家では何番目に強いかは知らないが、世界で一番強いのはこの俺ということになる。

 俺たちは自他共に認める最高のブラザーだが、だからといって甘えた関係のままでいるつもりはない。リリィが俺のアスホールを狙っているのだってつまりはそういうことなのだ。たぶん。

 俺は会場を出る直前にリリィを振り返る。歓声に応え、疲れた顔で手を振っているリリィはとてもいい表情をしている。


「リリィ、世界一おめでとう。お前ならやれるって信じてたよ」俺は英語で言う。

「お兄ちゃんのおかげだよ。そしてアタシたちの父さんと母さんのね」

「……おう。次の相手は俺だから、覚悟しとけよ」

「いたいや、そんなこと言うセコンドなんていないから」


 そして俺たちは声をあげて笑うが、リリィも俺がマジだってことは十分に分かってるはずだ。


「俺は強くなるよ、まだまだ強くなる。俺はこれからなんだ」


 俺はまだヒーローにはなれないかもしれない。でも、すぐそばに三人もヒーローがいるんだ。俺だけ置いてけぼりはごめんだ。

 俺はそんな自分の硬く熱い決意を抑えきれずに衝動的に両手を高く高く突き上げて後ろを歩くリリィよりも目立ってしまい、後から会長にこっぴどく叱られてしまう。

 でも観客席で親父も母さんもバカみたいに笑ってたし、まぁいいかな、とも思う。



 母さんは無事でリリィは世界一なんて、都合が良すぎるって?俺はそうは思わない。結局、全てがなるようになっただけの話なのだ。それに、まだ俺は俺の目的を達成してはいない。文句があるのなら、俺がリリィをぶっ倒して世界で一番強い男になってから言ってくれ。まあ見てなよ。愛して恐れて、俺はどこまでも強い男になってやる。これは俺の物語だ。そういう意味では、まだまだ物語の途中。俺は俺の物語を完結させるために今日も岩岡家で一番強い人間を誘って出かけることにする。


「母さん、たまには温泉に入って飯でも食いにいこうぜ。めんどくさいけど、ついでに親父とリリィも連れていってやるよ」


 飛んでくる二つのデカい拳と笑い声。

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