十五 思い出(二)
「差し押さえ」という札がたくさん貼られたボロい家でした。
家からはなんの音も聞こえず、人の気配も感じられませんでした。
男の子は絶望的になっている女の子を見捨てることができませんでした。
男の子は女の子を説得して、自分の家に来ないかと提案を出しました。
女の子はそれを喜んで受け入れました。
男の子は親に事情をちゃんと話し、女の子を養ってもらうことに成功しました。
男の子の家族はあんまり女の子に手伝いをさせませんでしたが、女の子は自分から進んでやっていました。
しかし、男の子の方にも悲劇がやってきました。
それは家族の消失でした。小学校六年生の時でした。
この時、親戚の家に行かないか誘いが来ました。じつはそのころ女の子の方にも同じような誘いが来ていました。
二人はとても悩みました。誘いを受け入れれば、裕福になるかもしれない。でも、受け入れれば、二度と会えないかもしれない。
二人はそんな予感があり、なかなか結論を出せませんでした。
その後、女の子の親戚を名乗る者は女の子を無理やり連れていこうとしました。
その時、男の子は女の子を助けに来ました。そして男の子はこう言いました。
「僕はこの子を一生守る!!」
「ねぇ、ねぇ、ご主人様~。聞こえてます?」
「・・・・・・。あ、うん。」
俺はどうやらずっと考えていたようだ。
「話をもとに戻しますけど、許嫁いるんですか?」
エリスが顔を真っ赤にして答えを待っている。
「さあな。」
俺はさらっと言った。
「ねぇ、ご主人様!教えてくださいよ!!私も言ったじゃありませんか?」
エリスが反発を見せる。
「アレとコレでは話が別だ。」
「意味が分かりませんよ~。」
エリスがすごく聞きたがっているが、ここは言いにくいのでスルーしよう。
「まあ、聞かなかった事にしろ。」
「何にも聞いてませんよーっ!!」
エリスがつっこむ。エリスも結構楽しそうだ。
学校の前まで来ると、先生が待っていた。
彼女の名は石橋 徹子。担任。独身。若干百合。
彼女はこちらを発見すると、こっちに駆け寄ってきて話かけてきた。
「ふぅ~ん。この子が新入生か。かわいいなぁ~。メイド服もいいが、この耳がたまらん・・・・・・。」
先生は女のクセに鼻筋を伸ばしやがった。
先生の手は耳を捕らえようとしていた。
「きゃっ!」
エリスもどうやら危険を感じたらしく、俺の後ろに回りこむ。
「ごめん、ごめん、別に手出しをするつもりはなかったんだ。」
嘘つけ。
「とにかく、手続きをしなければいけないし、服も着させないといけないからな。新入生にはついてきてもらうぞ。」
顔が怪しい。絶対なんかする気だ。
「じゅあ、ご主、じゃなくて勇君、後でね。」
エリスはこちらに手を振った。
今、絶対言いかけただろ。
俺は新入生と来たということで校門前でみんなの視線を集めていたが構わず、教室目指して、校舎の中に入っていった。
教室の中に入るとクラスのみんなはもう来ており、俺以外全員固まっていた。何かを喋っているらしい。
しかし、俺は構わない。なぜなら、まだ読んでいないラノベがあるからだ。エリスの騒動で読む機会がなかったからだ。
俺は一人で小説を黙々読む。しかし、クラスの連中がとてもうるさいので会話が耳に入ってしまう。
「今日このクラスに転入生が来るらしいよ」
「今日見たよ、このクラスの女以上に胸が大きかったよ。」
「それってこのクラスの女の子全員に対する侮辱?」
「そういえば、勇君と一緒に来てたよ。」
「ま、マジ!?」
「唯ちゃんとの関係はどうなったのかしらね。」
今、異常に俺が気まずいんだけど。
俺はもうちょっと話が聞こえるように連中の方を向いた。しかし、この行為は一番してはいけなかったのだ。
「・・・・・・・。」
「・・・・・・・。」
なんと連中ども全員がこっちを向いていたのだ。
さっきよりも非常に気まずい。
すると、集団はいきなり襲いかかってきたのだ。
「あの子とはどんな関係?」
「もうやっちゃった?」
「唯ちゃんとの関係かどうしたの?」
いきなりの質問ラッシュ!!何だよ、この 1 対 このクラスの人数ー1 というチート的状況は。
俺の選択肢は 戦う 入れ替える(今は使えない) 道具 逃げる の四つだ。
俺が選択したのは逃げる!!
俺は扉に向かって全速力で走った。
扉の前には一人の少女が立っていた。