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恋が始まる必須条件  作者: このはな
恋が始まる必須条件
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9.保健室に行こうよ

 鐘の音が、期末テスト最後の科目の終了時間を知らせた。


 後ろの席からテスト用紙が順に集められ、提出が終わった生徒たちがいっせいに帰り支度をはじめる。


 そのおかげで、さっきまで静かだった教室が大騒ぎ。


 蜂の巣をつついたみたいに騒がしくなった。



(もう、最悪うぅ)


 前の席にテスト用紙を渡した終えた後、マツリは自分の席にごんと大きな音を立てて頭を伏せた。


 おでこをぶつけてしまったが、そのくらいなんともない。


 寝不足でぼーっとしてる頭には、ちょうどいいぐらいだった。



「ねえ、マーちゃん」


 誰かに背中を指でつんつんされた。


「テスト、どうだった?」


 顔を上げたら、ふんわりウェービーヘアの女の子がカバンを持って立っている。


 同級生で同じクラスのマツリの親友、アイコだった。



「アイちゃぁん」


 おでこにつくった赤いたんこぶにうるうるさせた瞳で、両手を広げてアイコに抱きついた。


「て、テスト全然ダメだったよぉ」



「わかった、何も言わなくていいから」


 やっぱりと内心思ったけど、アイコはマツリの背中を抱きしめよしよしなでた。


「中間より難しかったもん。しょうがないよ」 


 と言いながら、なぐさめる。



 すると、行儀悪く机の上に座ってこちらを見てる男子生徒と目が合った。


 アイコは、彼を見てふふんと笑った。


「キンキン、うらやましいんでしょう?」


 にんまりとした顔で、皮肉っぽい言葉を投げつけた。



「キンキンじゃねえ! オレはカネダだっ」


 彼は、机から飛び降りてアイコに噛み付いてきた。


「今度言ったら承知しないぞっ。それに、おめえら気持ち悪いんだよ、女同士で」



 それでもアイコはやめなかった。


 それどころか、わざとキンキンに見せつけるようにマツリをぎゅっと抱きしめた。


「いいでしょう、萌え燃えで。萌え燃えだよ、萌え萌えじゃないのよ」


「うるせえな、何回もモエモエ言うなっつーの!」


 いまにも、つかみ合いが始まりそうだ。


(ど、どうしよう……)


 マツリは二人の会話を聞きながら、おろおろした。



 このふたりは、顔を合わすとケンカをせずにはいられない犬猿の仲。


 いつもマツリを間に挟んでは、何か理由を見つけて言い争いをしていた。


 髪を短く刈り込んだキンキンと呼ばれている男の子カネダ君は、はっきりいってカッコいいほうで結構モテたりする。


 野球部員だから邪魔にならないようにこんな髪型していたが、それが精悍な男の子らしい顔つきを引き立てていて、とってもよく似合っていた。


 マツリの大の仲良しのアイコはというと、いかにも女の子らしい砂糖菓子のような雰囲気の子。


 でも実は大雑把な男の子っぽい性格で、学校にいる間おっちょこちょいのマツリの面倒を、タカヒロにかわってみてくれている保護者のような存在だった。



 『ケンカするほど仲がいい』っていうぐらいだから、本当は仲良しなんだと思うんだけど……。


 ふたりの顔を見比べながら、「うーん」と、うなった。


 根本的なケンカの原因がまったく思いつかない。


 まさか自分に理由があるなんて、マツリは想像すらできなかった。



「ねえ、アイちゃん」


 タイミングを見計らって、声をかけた。


「なあに、マーちゃん?」


 アイコは名前を呼ばれた子犬のように目を輝かせて、マツリのほうに身体を向けた。


 振り向く際、キンキンの顔にカバンをぶつけてしまう。


「……!?」


 キンキンはしたたかに鼻を打ち、その場にうずくまった。



「だいじょうぶ、キンキン!?」


 スゴイ音が鳴ったので、床に座り込んであわてて彼の顔を覗き込んだ。


 見ると鼻からポタポタ流血が。


 スカートのポケットからハンカチを取り出して、キンキンの鼻を押さえた。


 

「あ、うん。ただの鼻血だから」


 キンキンは真っ赤な顔でそう答えたけど、止まりそうな気配がしない。


 打ち所が悪かったのか、ハンカチがどんどん赤く染まっていった。



「ごめん。ごめんね、キンキン!」


 わたしが変なタイミングでアイちゃんを呼んだから。


 だから、こんなことになっちゃって……。



 青くなってうつむいたマツリを励ますように、キンキンが元気よく言った。


「鼻血なんて、いつものことだって。もう少したったら止まるよ」



「そうかもしれないけど……」


 もし、止まらなかったら?


 なんかの原因があって、鼻血が止まらなかったら!?


 キンキン、死んじゃうっ!



「保健室行こうっ。ねっ、行こうよ、キンキン」


 がしっとキンキンの手を握りしめた。


「怖かったらついてってあげるから、ねっ!?」



「ば、バカっ。こっ、怖くなんかねーよ」


 キンキンはしどろもどろになって、うろたえる。



「ホントは怖いんでしょ?」


 そんな彼を、アイコが追い打ちかけた。


「わたし、知ってるんだから。キンキン保健室キライなの」



「怖くなんかねえって! このぐらいで保健室行ったらカッコ悪いだろ」


 本当のところ、消毒くさい匂いに注射針を思い出させられるので保健室は苦手だった。


 しかし、そんなこと同じクラスの女子に言えやしない。


(特におめえには、絶対言えねえ)


 半泣きしてるマツリの顔を見て、キンキンはむすっとした。



 すると、同じ野球部の生徒が彼に向かって野次を飛ばした。


「別にいいぞー、カネダぁ。先輩には言っておくからさあ。保健室行って来いよぉ」


 彼らも面白そうにニヤニヤして、ことの成り行きを見守っている。


 残念ながらキンキンの保健室嫌いは、クラスみんなが知っていることだった。



「ほら、部活は保健室行ってからでいいじゃん。だから行こうよ」


 キンキンを立たせようと、彼の腕を引っ張った。


「カッコ悪いことないんだから、ねっ?」


 駄々をこねる小さい子に言って聞かせるように、優しく言った。 

 


 なんとしてでも連れて行かなきゃ。


 だって、死んじゃって夢にでてきたら怖いんだもん!



 お化け嫌いのマツリは、先走ってそんなことまで考えていた。


同級生登場の回でした。

いままでより少し物語のペースが速いかもしれませんが、いかがだったでしょうか。

そんなことより登場人物をこんなに増やしてしまっていいのか?

実のところ、少し不安です(汗)

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