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恋が始まる必須条件  作者: このはな
恋が始まる必須条件
24/44

24.恋をするって?

 レタスとトマトが大盛りになったサラダボウルが、マツリとタカヒロの目の前にどんと置かれた。


「あんたたち、どうしたのよ。ふたりそろって……」


 ママが呆れ顔で首を横に振った。


 マツリもタカヒロも朝の食卓についたものの、ボーっとして半分寝ていたからだ。


 マツリは、あちこち寝癖だらけのボサボサ頭にピンクのTシャツ短パン姿。


 タカヒロにいたっては、まだパジャマ姿のままでテーブルに寝そべっている。


 今日は日曜日。


 通常通りならソフトボールの練習日だが、大会の組み合わせを決める抽選があるため、本日はお休み。


 久々の朝寝坊を堪能し、時計はすでに十時をまわっていた。


「あんたたち、しっかりしなさいよ! 休みだからって、ぼーっとしないっ。シャキッとしなさい、シャキッと!」


 とうとうママの雷が落ちてしまった。


 マツリとタカヒロはびくっと反応して、曲がっていた背筋が真っ直ぐ伸びた。


「らっ、了解(ラジャー)!」


 ふたりは同時に返事して敬礼ポーズをとった。


 ママは、鼻息荒くして仁王立ちでふたりを見下ろしていたが、洗濯機の洗濯終了を知らせるピーッという電子音が聞こえると、そっちのほうへ足早に行ってしまった。


 ママがダイニングから姿を消したとたん、ふたりはほっとして肩から力が抜け、腕を下ろした。



「……姉ちゃん、ちょっと聞いてほしいんだけど」


 タカヒロは、テーブルに向けていた椅子をがたがた動かして、自分の横にいるマツリの方に向きを変えた。


 膝を広げ座り直し、股の間に両手をついて身を構える。



「な、なに? 改まって……」


 マツリは、目玉焼きの黄身をフォークでつつき平静を装っていたが、テーブルとタカヒロの両方にちらちら忙しなく視線を動かした。


(あ、あのこと聞くんじゃ……?)


 思い出すと、また胸がドキドキしてくる。



 エイジに告られた日から一週間以上たち、毎日ドキドキしすぎて眠れない日々が続いていた。


 何度も寝返りを打つうちに、いつのまにか朝を迎えてしまう。


 おかげで睡眠不足に陥り、マツリの目の下にはクマができていた。



「エイジがさ……」


 タカヒロが口にしたとたん、エイジの顔が脳裏に浮かんだ。


 条件反射みたいに、マツリの全身がかーっと熱くなる。


 続いて、彼の胸を思いきり突き飛ばしたことも思い出し、今度は、さーっと全身の血が引いて青ざめてしまった。



「姉ちゃん、やっぱ聞いてないっしょ?」


 信号機みたいに、赤くなったり青くなったりしてるマツリに、タカヒロは文句を言った。



「えっ、えっ? き、聞いてるって!」


 急に居心地悪くなったように感じて、マツリはもぞもぞ座り直した。


 危ない、危ない、普通にしなきゃ普通に。


 エイジ君とのこと、絶対タカには知られたくないもん。


「えっ、エイジ君が、どうかしたのかしらあ?」


 ドキドキする胸を押さえて、マツリは不自然ににっこり微笑んだ。



(やっぱ、エイジとなんかあったな)


 さすがにタカヒロも、ここ最近のマツリの様子がおかしいことに気づいていた。


 そしてエイジもまた、様子がおかしかった。


 ニヤニヤ笑っているかと思ったら、急に怒ったり、がっかりしたりして、ひとり百面相を繰り返しているのだ。


 あの、普段いいカッコしいの、エイジがだ!


 タカヒロは、ふたりに何があったか知りたくてうずうずしていたけれど、リホがいるのに学校でエイジに聞くわけにはいかなかった。


 かといって姉に聞いてもムダというもの、ホントのこというわけない。


 でも、だいたい予想はついていた。


 エイジは、あのときマツリを選んだのだ、リホではなく。


 リホは涙を流していなかったが、きっと陰で泣いたにちがいない。


 時折さびしそうな顔を見せる彼女を見るたびに、タカヒロの胸は締め付けられた。


 それにエイジをけしかけたのは、タカヒロ本人だ。


 遅かれ早かれ、こうなる運命だったんだ。 


 タカヒロは後悔してなかった。



 くっつくなら早く、くっついてほしい。


 ちっ、見てるこっちがイライラしてくるぜ。


「だから、エイジから伝言があって。今夜、土手で花火大会があるだろう? それに皆で行かないかって、大会前にチームの結束を固めるということで」


 むちゃくちゃないいわけだが、花火大会はふたりをくっつける絶好のチャンスだ。


 どうしてもマツリを連れ出し、エイジとふたりっきりにさせなければならない。



「ふ、ふーん、よかったじゃない。行ってこれば」


 タカヒロの思いをよそに、マツリは関心がなさそうにつぶやいた。



「何言ってんだよ、姉ちゃん、他人事みたいに。姉ちゃんも行くんだよ、監督が連れて来いって言うから」


 そうだよ、姉ちゃんには絶対行ってもらわくちゃ、オレが困るんだよ!



「ま、マジ……?」


 マツリの目が大きく見開いた。



「せっかくの花火大会なのに、男ばっかじゃ面白くないんだってさ。女の子を誘えって指令が下りてるんだよ。姉ちゃん一応女だろ、だからさ……いてっ!」


「一応は、余計なの!」


 マツリは、タカヒロの頭を叩いたゲンコツに息を吹きかけた。


「あの監督さんが、考えそうなことだね」


 マツリは、ショウゴの顔を思い浮かべた。



 花火大会にはもちろん、マツリも行きたかった。


 夏休み前の恒例行事で、毎年楽しみにしていたからだ。


 それなのに今年は行くのをためらってしまう。


 今夜花火大会に行くことは、エイジと顔を合わせることに等しい。



 エイジ君の顔、怖くて見れない!



「タカ、悪いけどやっぱり……」


「あらー、花火大会いいわね。いってらっしゃいよ」


 いつのまにかママが洗濯カゴを抱え、ダイニングを横切るところだった。


「だって他にも女の子いるんでしょう、タカヒロ?」


「うん、班長も誘った……」


 タカヒロは頬を一瞬染めた。


「班長って、誰?」


 ママはタカヒロにたずねた


「ああ、うん。イヌカイ リホって言うんだ。姉ちゃんも知ってるだろ? 髪の長い……」



 ああ、あの子、イヌカイ リホちゃんっていうんだ。


 いいなあ、美人は。外見だけじゃなくて名前もかわいく感じるし。


 そういえば、エイジ君と彼女って、どういう関係なんだろう。


 『オレ、ふられたんだ』


 エイジ君、彼女のことそう言ってた。


 けど、なんか冗談っぽく聞こえたような。


 ひょっとして、彼女のこと好きだった……のかな。


 それでフラれたから、次はわたしってことだったりして……。



「うん、知ってる……」


 マツリは、ぽつりとつぶやいた。



 ちがう、ちがう! エイジ君は、そんなことしない。


 六年分の気持ちって言ってくれたもの。



「じゃ、問題ないじゃない! マツリも行きなさいよ、着付けしてあげるから」


 ママはうれしそうに、にこにこして言った。



「でも……」


 リホちゃんが来るってことは、マズイよう!


 これって、これって、思いっきり三角関係ってヤツなんじゃない!?



「こういうときに浴衣着ないで、いつ着るっていうのよ。もったいないでしょう。わかったわね、マツリ!」


 ママは有無を言わさない態度で、マツリをにらみつけた。


 マツリは「はあ」とため息ついて、しょんぼりとタカヒロの顔を見たが、タカヒロは赤い顔のまま牛乳をごくごく飲んでいて、そんな姉に気づく様子もない。



 わたし、エイジ君のこと好きかどうか、まだよくわからない。


 エイジ君にぎゅっとされてイヤじゃなかったのは、ホントだけど……。



 好きになるって、どういうことなんだろう。


 恋をするって……?



 マツリは、ぼんやり考えた。







夏の定番の花火大会編スタートです。

実際の季節は、秋だというのに……。


笑ってお許しくださ~い(汗)

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