表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋が始まる必須条件  作者: このはな
恋が始まる必須条件
19/44

19.ウソはお見通し

 エイジ君がわたしを見ていた。


 どうしても伝えたいことがあって、わたしは声を出さずに口を動かした。


 素早く、そして、彼にわかるようにゆっくりと。



『ご・め・ん・ね』



(エイジ君、わかったかな……)



 わかってもらえたかどうか、確信はない。


 エイジ君のそばには、あの彼女がいたし。


 わたしとエイジ君が目を交わせたのは、ほんのわずか。


 わたしに許された時間は、たった数秒だけだった。



 でも、仕方ないよね。


 それが、さっきのわたしにできた精一杯だったんだから……。



「マツリちゃん、信号変わったよ」



 横断歩道の前で信号待ちしている間に考え込んでしまっていたマツリは、自分の隣に立つエイジの兄、ショウゴに言われてふと顔を上げた。


 道路を挟んだ向こう側にある信号機が、青く光って『ススメ』と自分に訴えている。


 夕日を背負っているので、逆光になって眩しい。


 そのため信号は見えにくかったが、ショウゴは迷わずマツリの肩を抱いて横断歩道を渡った。



「監督さん、目が悪いんじゃなかったんですか?」


 メガネもコンタクトもしていないのに、彼はマツリを脇に寄せてすたすた歩いてみせた。


 自転車に乗った女子高校生と横断歩道ですれちがったものの(そのうえ彼女は彼に熱い視線を送るのに夢中で、乗ってる自転車がふらふらしていた)、彼は歩みを止めることなくスムーズにうまくよけた。


 道路を渡り終えたとき、マツリの胸に疑問がわいた。



 さっき小学校の校門前で会ったとき、『オレ視力悪いんだよね』。


 そう言ってなかったっけ?


 前髪が触れそうになるほど顔を近づけないと、相手がよく見えない。


 正確には、『君のかわいい顔が見えないんだよ』と歯が浮きそうなセリフを、恥ずかしげもなく言ってたけど。


 


「あっ、ばれた?」


 ショウゴは、親にイタズラがばれて困っている子供のような顔をした。


「実は、ウソだったりして……」


 目をきょろきょろさせて、さまよわせる。


 うしろめたいことがある証拠だ。



「ええーっ、ウソだったの?」


「目が悪いフリすれば、ああして自然に女の子に近づけるだろう? ちょっとした口説きのテクニックなんだよ、気に入った子にしかしないけどね」


 彼は、本当のことを白状した。



 そ、そうだったんだ。


 でも、そのテクニックは、監督さんだけが使えるテクニック。


 その辺の普通の男の人が真似できるもんじゃない。


 類まれな容姿を持った、特別な人にしかできない高等テクニックだよ。



「あきれた……」


 マツリは彼をにらんだ。


 エイジの兄だからと気を許していたのに。


 本当はこの人、とんだ食わせ者なのかもしれない。


 このまま家まで送ってもらってもいいのかな……?



「はははは……。じゃ、行こうか!」


 ショウゴは、マツリの冷たい視線を浴びても気を悪くしなかった。


 せっかちに早口で言いながら、再び歩き出す。


 その間も相変わらず、彼の大きな手はマツリの肩の上に置かれたままだ。


 しかも、弟と違って兄の方は、遠慮なくがっしりと細い肩をつかんでいた。



 もう、つねってやろうかな!


 そう思ってマツリが手を上げようとしたとき、すさまじい衝撃音がした。



「つううううううーっつ!」


 うめき声がするのと同時に、ショウゴの身体がマツリの視界から突然消えた。



 彼は、右足のつま先を手で押さえ、アスファルトの上に身体を丸くしてしゃがんでいる。


 右前方には、ラーメン屋の四角いたて看板が不自然なほうを向いていた。



「だっ、だいじょうぶですか?」


 エイジ君のスニーカーの次は、ラーメン屋の看板か……。



 ぷぷっ! 神様は、ちゃんと見てるんだ。


 笑い出しそうになるのを必死に抑えながら、マツリは彼の心配をして覗き込んだ。



 下駄を履いていて、つま先を覆うものがなかったので、相当痛かったに違いない。


 彼は、苦痛に顔を歪めながらもマツリに微笑んだ。


「ああ、だいじょうぶ。だいじょうぶじゃなさそうに見えるけど、だいじょうぶだよ。いててて……」


 しかし、ぶつけたつま先は赤くなっていて、とっても痛そうだ。



「ぶっ、ぷぷうっ! ダメ、笑っちゃううう……」


 無理してカッコつけた、彼の返事の仕方が可笑しくて、結局マツリは思いっきり笑い出してしまった。



「ごっ、ごめっ! 監督さっんっ」


 笑ってしまったことを謝ろうとしても、どうにもとまらない。


 お腹の底から込み上げる笑いが逆流してのどに伝わり、次から次へと口からこぼれてしまう。


 ひいひい言いながら、お腹を抱えて笑い続けた。



「ははは、は、は……」


 しばらくしてマツリの笑い声がだんだん小さくなり、乾いた笑いに変化したあと、ショウゴは立ち上がった。



「元気出た、マツリちゃん?」



「え、はい? わたし、いつだって元気ですよ」


 唐突な彼の質問に、マツリはびっくりして目をぱちくりさせてしまった。



「あー、うん。そうじゃなくて」


 ショウゴは首をゆっくり横に振って、優しく笑いかけた。


「友達とケンカしたって、君はさっき言ってたよね。違ってたら、ごめん」



 思わず、つばを飲み込んだ。


 監督さん、何を言いだすの……?


 その先は、言わないで! 



「本当は、エイジとケンカしたんじゃないのかい? 君のケンカ相手は、オレの弟だ。 違うかい、マツリちゃん?」   



「違います! 本当に、友達とケンカしたんです……」


 うまくこの場をごまかそうと、マツリはショウゴの顔をじっとみつめた。



 だが、それがいけなかった。


 ショウゴは、マツリの頭を優しくなでた。


「ウソをついたって、お見通しだよ。女の子が男にウソをつくときは、相手の目を見るからね」




「早く逃げ出したい、君はそう思ったんだろう?」 



 とうとう彼は、言ってしまった――



今後は、やっと恋愛物らしく話を進めていけそうです。

でも、やっぱり脱線してお笑い路線に行っちゃうかも!(ウソウソ)

ショウゴの性格も、本当はこんなんじゃなかったのに……。


ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございました♪

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ