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恋が始まる必須条件  作者: このはな
恋が始まる必須条件
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17.兄弟バトル+ラブ・シーン

「姉ちゃん、何しに来たんだよ。家に帰ったんじゃなかったの?」


 一緒に校舎から出てきたエイジと、エイジの彼女らしき女の子のふたりを置き去りにして、弟のタカヒロが駆け寄ってきた。



 エイジは、戸惑いながらも怒っているような複雑な表情で、マツリと自分の兄をにらみつけている。


 片足で飛び跳ねているエイジを支えるように、彼の傍らにはストレートの髪の長い彼女がいた。


 彼の背中には彼女の手が廻されていて、ふたりの仲の良さを他の者たちに見せつけているようだ。



 今まで感じたことのない、ぽっかりと胸に穴が空いたような喪失感。


 わたし、どうしたんだろう。


 いつのまにか眉根を寄せて、唇を噛み締めていた。 



 しかし、弟のタカヒロが心配そうにこちらを見ていたので、マツリはすぐ彼らからぱっと視線をはずした。 


「うん、いったんは帰ったんだけど、あんたが居残りになったから迎えに来てくれって。先生から電話が来たのよ」



 ふたりのことを気にしないように努めて、わざと明るくにっこり笑った。


 でも、顔の筋肉がたちどころにこわばる。


 しまった、ほっぺが引きつっちゃう……。


 自分が作り笑いができるほど器用じゃないことを、マツリはすっかり忘れていた。



 だが、ニブちんのタカヒロは別の心配事にとらわれて、不自然な笑顔のまま頬をぴくぴくさせている姉に気をとめる余裕がなかった。


「えっ、じゃあ……。もしかして母ちゃん、このこと知ってるの?」


 マズイ。


 先生に怒られるのは覚悟してたけど、母ちゃんに怒られるのは覚悟してなかったぜ。


 タカヒロは冷水を頭から浴びたようにひやっとしたが、姉が「ううん」と首を横に振るのを見て、自分の目の前に明るく希望に満ち溢れた未来が広がるのを感じた。



「わたしが電話に出たから、その辺はだいじょうぶよ。ママは知らないから安心して」


「ホント、姉ちゃん!?」


 姉ちゃんが女神様に見えるぜっ。


「うん、ホントよ。だって全部、わたしのせいなんだもん。ゴメンね、タカ」


 マツリは、すまなさそうに弱々しい笑みを浮かべた。



 ああ、よかった。


 そうだったのかあ。


「サンキュウ、姉ちゃん。助かったよ」


 そもそも先生に怒られる原因をつくったのは、マツリのほうなのだ。


 それなのに、タカヒロはすっかり忘れて、涙目でマツリに感謝した。



 じゃあ、待てよ。


 姉ちゃんがオレを迎えに来た、ということは……。 


「監督は、エイジを迎えに来たんですか?」


 タカヒロは、弟のスニーカーを片手に持ち、痛そうに顔をしかめて後頭部をさすっている、エイジの兄へ聞いた。



 タカヒロに答えるため、車道を向いていた監督は振り向いた。


 野球のボールのように、スニーカーを軽く上に向かって放り投げては、片手で受け止める。


 同じ行為を繰り返しながら、彼はうなずいた。


「ああ、そうなんだ。うちにも連絡が来たから、オレが迎えに来たんだよ。大学は夏休みでヒマだったしね。マツリちゃんとは偶然、ここでばったり会っただけなんだ」


 そう言いながら、校門を塞いで立っているマツリとタカヒロに、端に寄るように手を上げて合図した。



「あの、何ですか?」


 監督の意図がわからなくて、タカヒロが口を開いた。


「いいから、そこどいて」


 彼の顔にエイジとよく似た、いたずらぽい笑みが広がるのをマツリは見た。



 まさか、もしかして……。


 マツリはタカヒロを引っ張って校門の端に寄り、監督の前に空間をつくった。



 ふたりが場所を空けたのを確認すると、彼は急に足を上げ大きく振りかぶって、投球モーションに入った。



 あっ、やっぱり!



 腕を勢いよく振り下ろし、赤と白のスニーカーを思いっきり強く投げる。


 ミットにボールがバシッと入ったような強い音がした。



 エイジは、よろめきながらも踏ん張り、両手でスニーカーを受け止めていた。


 思わぬ攻撃に、靴を履いていないほうの足を土につけてしまっている。



 弟に向かって、兄はにやりとした。


「だから安心しな、エイジ」


 さっきのお返しだ。


 監督は身体を起こして、ふふんと鼻で弟を笑った。



 タカヒロが賞賛をこめて口笛をぴゅーっと吹いたが、マツリは驚いて息を呑んだ。


 お、男兄弟のバトルって激しいのね。


 知らなかった……。



「安心しな、じゃねえ! 女の子がいるのになんてことするんだよ、危ねえな!」


 エイジはスニーカーを足元に投げ捨てると、兄をひとにらみした。


(ちっくしょう、なめやがって!)


 エイジだけは、兄が自分に手加減したことを知っていた。


 そうでなければ、こうも簡単にキャッチできるはずがない。


 手をはじかれて、リホに靴を当ててしまう。


 おまけに、マツリに対する気持ちを兄に見抜かれている。


 それが、何よりいちばん面白くなかった。

 


「だいじょうぶか? どこかぶつけなかったか、イヌカイ?」


 ど真ん中でしっかり受け止めたから、だいじょうぶなはずだ。


 いらいらしてそう思いながらも、隣にいるリホに一応たずねた。



「だいじょうぶよ。ちょっとビックリしたけど」


 リホは答えたが、小刻みに肩が震えていた。


 びっくりしたように目をぱちぱちさせている。



 それもそうだ。


 至近距離で、あんな激しい兄弟バトルを目の当たりにしたのだから。



 だが、彼女のセリフのなかにうれしそうな感情が込められているのを、マツリは聞き逃さなかった。


 乙女の第六感が、むずむずと鋭い聴覚を持って働き始めた。



「キムラ君、靴履くでしょう? わたしの肩につかまって」


「でも、オレ結構重いよ」


「いいって、ほら!」



 むむっ、かなり積極的。


 彼女は迷っていたエイジの腕をむんずとつかまえて、自分の肩の上に彼の手を置いた。



「……じゃ、ゴメン」


 エイジはそう言ってスニーカーを履き始めたけれど、彼女の細い肩に負担をかけたくないみたいだった。


 肩に触れている手のひら以外は接触しないよう、指をぴんと広げて空に浮かせている。


 エイジに肩をかした彼女は、気恥ずかしそうに目を伏せて、彼の手の感触を味わっているように見えた。



 小学生なのに、すごい。


 まるでラブ・シーンみたい……。



 彼らの周囲のぐるりと一面に、見えない防御壁(バリア)が張り巡らされている。


 これ以上入ってくるな。


 エイジに命令されているような気がして、思わずマツリは目を閉じてしまった。



 みたいじゃなくて、本物のラブ・シーンなんだ。


 このふたりにとっては……。 



 そう思ったとたん、胸が締め付けられるような苦しい痛みを感じて、まぶたが震えそうになった。 


無謀にも、五人登場シーンが次回も続くことになってしまいました。

さあ、どうしましょう……(汗)


ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございました。

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