14.お願い!
ふたりっきりの保健室という、おいしい告白のチャンス。
失敗して好きな女の子に泣かれたばかりか、仲直りしようとした矢先に邪魔されて。
そのうえ、ひょろっとした女みたいなヤツに、こうしてにらまれている。
気に入らない度200%、いや、それ以上だ。
(くっそう。なんだ、こいつ。彼氏面しやがって)
これ以上カッコ悪いところを見せたくないし、見せられねえ!
「おい、お前。何しに来たんだよ」
制服を着ていないので、部外者だということはすぐにわかった。
エイジの視線からマツリをかばうため二、三歩前に出て、キンキンは自分の背中で彼女をかくした。
彼氏がいるって聞いたことないから、そう思って安心していたのがバカだった。
四六時中アイコがコバンザメみたいにくっついていたので、まさかこんなことになるとは夢にも思わなかったからだ。
どこのどいつか知らないが、まだフラれたわけじゃないんだ。
簡単にあきらめてやるもんか!
「ちょっと、ちょっと待って」
急にマツリがふたりの間に割って入った。
いくらニブちんのマツリといえど、その一触即発のただならない雰囲気を感じたのだ。
左手はキンキンに、右手はエイジに向けて高く両腕を上げ、彼らの間の距離が縮まらないように立った。
「キンキン、違うの。知ってる子なの。弟の友達なんだよ」
「弟の友達……? ってことは、小学生なのか?」
キンキンは驚いた顔をかくせずに、目を丸くしてエイジをみつめた。
鳩が豆鉄砲を食らう。
その言葉を連想させる表情だ。
それもそのはず、エイジは美少女のような顔立ちに、キンキンと変わらないぐらいの背の高さ。
驚くのも無理はない。
しかしキンキンは、すぐ真顔に戻した。
「小学生のくせに、なんでここにいるんだよ」
相手が小学生だとわかると、余裕の笑みを浮かべた。
威嚇するように腕を組んで、にらみつける。
それなのにエイジは、キンキンのことなんか何とも思ってないという態度で、平然と言ってのけた。
「マツリを迎えに来たんだ。あんたには関係ない」
キンキンをちらっと見たあと、マツリに視線を移し、長いまつげに縁取られた、きれいな茶色の瞳で彼女をじっと見た。
え、なに?
なんでこっち見るの?
思いがけないエイジの眼差しに胸がどぎまぎして、マツリは上げていた両腕を下ろした。
(こんなときに、そんなふうに見るなんて反則だよ……)
そのまま胸の上で手を握りしめ、うつむいた。
それを目撃したキンキンは、
「なんだって!? てめえ、調子こいてんじゃねえぞ」
と言いながら、エイジにつかみかかろうとした。
マツリは、はっと顔を上げて身体の向きを変え、とっさにキンキンの手をつかんだ。
「お願い、黙ってて!」
そして自分の胸元に引き寄せ、彼の手を両手で包み込んだ。
「何でもするから。だから、お願い! 黙ってて!」
(え……!?)
小さくて柔らかな手の感触に驚いて、キンキンは思わず目をぱちくりさせた。
(オレ、夢でも見てるのか?)
呆然と自分の目の前にいる女の子を見下ろした。
彼女は、真剣な面持ちでこちらを見ている。
(それに、何でもやるって……?)
『やっぱり冗談でした』って、言うんじゃないだろうな。
「マジで……?」
思わず、ごくりとつばを飲み込んだ。
マツリは、真剣だった。
(小学生のエイジ君が中学校にいるってバレたら……)
スペシャル・ハードな大事件になるのが目に見えていた。
謝ってすむ問題かどうかわからない。
このまま放っておいたら、ふたりの間で大乱闘が始まりそうだ。
そうなったら、キンキンや野球部だけじゃない。
大会出場目指して、部活をがんばってるみんなにも迷惑かけてしまう!
ここは大人の自分が何とかしなければ。
マツリはこの場を丸く収めようと必死だった。
「うん、やる。黙っててくれるなら、何でもやるから」
本当はイヤだけど、こうなったら仕方ない。
掃除当番だろうが、宿題だろうが、何だってやってやる!
「ば、このバカっ! なんでそんなこと言うんだよっ」
エイジが血相を変えて走り寄り、マツリの肩をつかんで、キンキンからぐいっと引き離した。
「オレが何のためにここに来たのか、わかってんのか?」
心ここにあらずといった調子でぼーっとしてるヤツを一瞬見た。
きっと良からぬことを想像してるに違いない。
そんなこと言ってしまったら、何を要求されるんだか!
あんなことやこんなこと、されるかもしれないんだぞ!
全然男心をわかってないマツリに、エイジはいらいらして言った。
「わかってないの、そっちじゃない!」
(大体こうなった原因は、エイジ君のせいじゃないのさっ)
まるでマツリのせいだと言いたげなエイジの言動に、猛烈に腹が立ってきた。
「ふん! エイジ君のわからず屋。エイジ君なんか、大っキライ」
「こっちこそ! 好きになってくれって言った覚えないね」
今度はマツリとエイジがケンカを始めてしまった。
「あのう、もしもし?」
と呼びかけたけど、完全に無視された。
遅れて保健室にやって来たタカヒロは、何が起こってるのかわけがわからず、彼らを見守るしかなかった。
エイジに言われて中学校を走り回り、自分の姉が急病だとごまかして、せっかく先生を連れてきたというのに。
着いてみたら、マツリとエイジは大声で怒鳴り散らしケンカしている。
おまけにその傍らには、姉と同級生らしいヤツがぼーっとして立ちすくんでいた。
おそらく被害者だろう。
(今度は、何をやらかしたんだよ)
タカヒロも頭を抱えたくなった。
その肩を誰かが軽くたたいた。
保健室まで一緒に来てもらった、若い女の先生だ。
「カンザキ君、君のお姉さん元気そうなんだけど、どういうことか説明してもらえるのかな?」
ああ、優しそうな先生だと思ったのに。
彼女のメガネの奥の瞳が、きらりと光った。
もう、逃げられない。
目の前が真っ暗になりそうな気がした。
なんとか保健室事件をクリヤできました。
コメディになってしまいましたけどね(^^;
読んでくださった皆様、ありがとうございました♪