表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋が始まる必須条件  作者: このはな
恋が始まる必須条件
13/44

13.対峙は突然に

 男の子なんて、小さい子供とおんなじ。


 単純でガキっぽくていたずら好きで、ちっともお話にならない。


 だから接するときは、こっちが大人にならなくちゃ。



 そう思っていたくせに、男の子に手首をつかまれただけで、怖くて身体が震えた。


 腕を引き寄せようとしても、1センチも動かすことが出来ない。


 甘く見ていた自分が間違えていたことを、マツリは思い知らされた。



 これ以上何かされたら、もう少しで金切り声をあげてしまいそう。


 けど、こんなシーンを誰かに見られてしまったら……。


 それだけは、絶対ダメ!



「手、離して……」


 散り散りになった理性を働かせて、なんとかそのひと言を口にした。


 声がかすれてしまったけど、間近にいる彼には聞こえたはず。


 なのに、手を離してくれない。


 ただ真っ直ぐ射るような目で、みつめ返すだけだった。



(だいじょうぶ、だいじょうぶ)


 早鐘のように激しく打つ心臓を落ち着かせるため、心の中で必死に言い聞かせた。


(キンキン、具合が悪いんだから。具合が悪くて、助けを求めてるだけなんだから)


 自分自信を納得させようと、そう思い込もうとする一方で、頭の中では警鐘が鳴り響いている。



(そうじゃない、早く逃げなくちゃ!)


 もうひとりの自分の声が聞こえた。



 その言葉が信じられなくて、裏切り者の自分に抗議した。



 キンキンは友達なのに、どうして逃げないといけないの?


 エイジ君に触れられたときは、何も言わなかったじゃない!


 マツリのバカっ!


 薄情者!


 友達を見捨てる気!?



 するとキンキンは、手首をさらにぎゅっと強くにぎった。


「カンザキ、オレ、前から言いたいこと、あるんだ……」



 彼に握られた部分の皮膚が擦れて赤くなった。


 息が止まりそうな気がして、頭がくらくらする。



(どうしよう、どうしよう!)



 涙がぽろっと一筋流れた。



 そのとき、張り詰めていた空気が緩み、手首の戒めが弱くなるのを感じた。



「そんな顔、するなよ」


 キンキンはため息ついて、マツリの手首から引き剥がすように指を一本ずつ離した。


「怖がらせて、ゴメン。もう、しないから」


 弱々しい笑みを浮かべながら、手を膝の上に置いた。


 迷った感じで、その腕を反対の腕で動かせないように、つかんで押さえつける。



 その思いやりに満ちた行為に少し戸惑ったけど、マツリは思わず感謝した。


「気にしなくていいよ、もう平気だから。キンキンの方こそ、だいじょうぶなの?」


 キンキンが具合悪いことを思い出して、恐る恐るたずねた。



「うん、鼻血も止まったし、熱もない。だいじょうぶだよ」


 なんでもなかったように彼はにっと笑って、マツリのおでこを二本指ですばやく弾いた。


「痛っ!」


 顔をしかめ、おでこをさする。


「何するのよぉ、人が心配してるのにっ」


「ふん、鼻血のお礼だ」


 キンキンは、あっかんべえと舌を出した。



 マツリはびっくりして、目をぱちぱちさせた。


 自分がよく知っている、いつもどおりのキンキンがそこにいて、いつもどおりに笑っている。


 安心したら膝の力が抜けて、へなへなと座り込んでしまった。



「何やってんだよ、カンザキ」


 キンキンはあきれたように頭をかくと、椅子から立ち上がってマツリに手を差し出した。


「え、なに?」


「ほら、手! つかまれよ、それぐらいいいだろう?」


 キンキンは耳まで真っ赤だった。



(なんか、これに似たこと前にもあった……)


 次の瞬間、思い出した。



 エイジ君!


 そういえば、エイジ君も同じことしたんだっけ。


 先週の土曜日、彼に初めて会ったことを思い出した。



 女の子みたいに繊細で優しい顔立ちをした、マツリよりひとつ年下の男の子。


 子供っぽい顔をしていたと思ったら、大人びた表情を覗かせて胸をドキドキさせる。 



 エイジ君も優しく手を差し伸べてくれた……。



『女の子は、黙って男にエスコートされてればいいんだよ』


 エイジの声が響いたとたん、どういうわけかキンキンとエイジの姿が重なった。



 心臓が、どくんどくん。


 二回とび跳ねる。 



 そのまま何も考えず、マツリはゆっくり手を上げた。


 空中でふたりの手が平行になり、どちらかが動かせば完全に重なる距離まで近づく。



 ふたりの指がかすかに触れそうになった――



 と思ったとき、保健室の扉がけたたましい音を立てて開いた。



(ウソ、どうして?)


 目の前の光景が信じられなかった。



 保健室の扉に手を置いて、はあはあと息を切らしたエイジが、挑むような目をしてにらんでいたからだ。


 額に光る玉のような汗が、相当な距離を彼が走ったことを物語っていた。



 わたし、頭がどうかしちゃったの!?


 エイジ君が中学校(こんなところ)にいるはずないのに。



 でも、それは現実。


 エイジは確かに中学校の保健室にいて、マツリの目の前に立っていた。



「エイジ君、どうしたの? ここ、中学校だよ。間違えたの?」



 エイジは質問に答えないで、ぐるりと室内を見回した。


(貞操の危機って言ってたけど、ホントじゃなかったのか?)



 マツリは、白い衝立からはみ出したところに、制服のスカートを床に広げ座り込んでいた。


 当然のことながら、突然の自分の登場に目を丸くしている。



 そんな彼女の顔を見て、エイジはくすりと笑った。


(何やってんだ、オレ。やっぱり冗談だったじゃないか)


「間違えて来るわけないだろう? マツリが保健室にいるって聞いたから来たんだ。けど、元気そうじゃん」


 手で汗を拭うフリをして荒い呼吸をごまかし、いつもの調子で憎まれ口を叩いた。



「タカヒロも、あとから来るって……」


 と室内に一歩踏み出すと、角度が変わって衝立の向こう側が完全に視界に入った。



 髪が短く、いかにも体育会系というヤツが、マツリのそばに立って手を差し伸べている。


 そして、今にも彼女の手に触れようとしていた。


 それを見たとたん、エイジはカッとなった。



「マツリ、さわるな!」


 エイジが大きな声で叫んだので、マツリはびくっとして手を引っ込めた。


今回も時間がかかって苦労しましたが、なんとか書けました。

読んでくださった皆様、ありがとうございました♪

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ