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恋が始まる必須条件  作者: このはな
恋が始まる必須条件
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12.絶対忘れない

「ど、どういうことなの? マツリって誰?」


 しばらくの沈黙のあと、リホが心底驚いたようにエイジとタカヒロの顔を見た。


 心なしか声が震えているように聞こえる。



 タカヒロはエイジの顔をちらっと見たが、彼も青い顔して黙ったままだった。


 何がなんだかわけがわからずに、タカヒロは質問に答えた。


「あ、うん。オレの姉ちゃん。姉ちゃんの名前なんだけど……」



「じゃあ早く行かないと、保健室に!」


 リホは叫んだが、タカヒロには全く意味が通じてなかった。



「なんで?」


 と、呑気に聞き返す。



「だって危ない目にあってるんでしょ、あんたのお姉さんが。あの人そう言ってるじゃない!」


 リホは窓の外をびしっと指差して、タカヒロに詰め寄った。



「危ないじゃなくて、『ていそうのきき』でしょ? それに保健室が危ないって、どういうことなのさ。説明してよ」


 リホの攻撃をよけようと、タカヒロは苦笑いしてごまかそうとした。



「ああ、もう! 底なしのニブちんね、カンザキ君は」


 そんな彼にあきれて、がっくりと肩を落とし、リホはため息ついた。


 そして頬を少し赤らめ、落ち着きをなくしたかのように髪を指ですき始める。


「あのね、あんたのお姉さんが、乙女のピンチってことなのよ。保健室で、無理やり誰かにね! わかった!?」



 タカヒロは、ぽかんと口を開きかけて、すぐ口を閉じた。


「マジ……?」


(どこのどんなヤツが、好き好んで姉ちゃんなんかを?)



「マジ。これがホントのことだったら、だけどね」


 リホが目を見開いて真剣に答えたので、タカヒロは事の深刻さにやっと気づいた。



「まさか、ありえねえって!」


(美人と正反対のチビでドジでガキんちょの姉ちゃんが!?)



「マジかよ……」


 タカヒロはへなへなと座り込み、頭を抱えた。


(中学校の保健室だなんて、どうしたらいいんだよ)


「先生に言わなくちゃ……」


 うずくまって頭を抱えたままの姿勢で、タカヒロはつぶやいた。



「先生に言えないから、あの人は、わたしたちに知らせたんじゃないの? カンザキ君、弟なんでしょう?」 


 リホはそう言ったものの優等生らしく、すぐ考え直した。


「中学校のことなんだから、やっぱり先生に言ったほうがいいのかも……」



 そう口にしたとたん、今まで黙っていたエイジが、近くの壁に立てかけてあったたモップを床に叩きつけた。


 モップはそのまま、からんからんと音を立て転がっていく。


 リホとタカヒロはびくっとして、エイジをみつめた。



「そんなんじゃ間に合わない、オレが行く」


 エイジは、静かに張り詰めた声で言った。


 その表情は氷のように固く、ふだんの彼からは想像できない姿だった。


 思わずふたりは、息を凝らして彼が何か言うのを待った。



「タカヒロ、立てよ。オレが保健室に先に行ってるから、おまえは誰でもいい、中学の先生を連れて出来るだけ早く来るんだ」



「ちょ、ちょっと待ってよ。そんなことしたら先生にバレバレじゃん。怒られるじゃないかっ」


 弱気になったタカヒロは、信じられないという顔でエイジを見上げた。



 しかし、エイジはこわばった表情で冷ややかに言った。


「先生に怒られるのと、マツリに怒られるのと、どっちがいいんだ?」



 タカヒロは一瞬考えた。



 先生に怒られるのは、そのときだけ。


 姉ちゃんに怒られるのは、生きてる限りずっとだ!


 先生に怒られるのもイヤだけど、マツリに一生ネチネチ文句言われるのは、もっとゴメンだ!



 エイジの言葉は、効果があった。


 タカヒロは渋々腰を上げた。


「わかったよ、行くよ。行けばいいんだろう? その代わり後悔するなよな」

 

 口を尖らせて文句を言い、エイジに心変わりがないか確かめた。



「もちろん、後悔しないさ」


 エイジはきっぱり答えながら中学校の校舎を一瞥した。


 そしてウェービーヘアの女の子に向かって、片手を挙げ合図を送った。




(びっくりした、キムラ君のあんな顔初めて見た……)


 さっきエイジが床に叩きつけたモップを、リホは拾い上げた。


 平らな床に真新しい傷があって、少し凹みが出来ていた。


 きっとエイジが作ったものだろう。


 リホはぎゅっとモップの柄をにぎりしめた。



 マツリって、誰?


 カンザキ君のお姉さんだってことはわかったけど、どうしてキムラ君が怒るの?



 女の子みたいに線が細いけど、意外とたくましくて頼りになる。


 いたずら好きでからかってばかりだけど、ホントは優しくて守ってくれる。


 背が高くてステキで、見かけと正反対の男らしい彼。



(わたし、キムラ君が好き……)



 さっき手が滑ってバランスを崩したとき、彼は自分を受け止めてくれた。


 あのとき、わたしだけを見てくれていた。


 彼もわたしと同じ気持ち、そう思ってたのに……。



 タカヒロだけでなく、同じクラスの生徒たちもまた、エイジとリホの仲を疑わなかった。


 ふたりは両想いだと、誰もが認めていた。


 当の本人のエイジすら、黙って何も言わない。


 否定もしなかった。



 でも、認めてもいない!


 リホは気づいた。


 まだ、はっきりとお互いの気持ちを確認したわけではないことを。


 そして、苗字でなく名前のほうで、エイジが女の子の名を呼んでいたことに。



 面倒くさがって、同じクラスの女子の名前を覚えようとしなかったのに……。


 彼女の名前だけは、覚えてる。



「カンザキ マツリ」


 リホは声に出して、誰もいない空間に呼びかけた。



 この名前、わたしも絶対忘れない。



 次の授業の予鈴が鳴るまで、エイジとタカヒロが走り去った廊下を、リホは真っ直ぐみつめていた。


呑気なカンザキ姉弟と対照的なエイジとリホ。

四人の性格がうまく表現できてなかったら、すみません。

これが今の精一杯の文章力なんです(泣)


読んでくださいました皆様、ありがとうございました。

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