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恋が始まる必須条件  作者: このはな
恋が始まる必須条件
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10.オオカミと赤ずきん

「マーちゃん、だいじょうぶ?」


 アイコは心配だった。


 本当に本当にマツリのことが心配で、何度も確かめずにいられなかった。


 なのに、当の本人は平気な顔で、


「だいじょうぶ、だいじょうぶ。ひとりでだいじょうぶだから、アイちゃんは先生のところに行って来てよ」


 と、ニコニコ手をふった。


「でも保健室の先生いないんだよ。本当にだいじょうぶなの?」


「うん、だいじょうぶ。キンキンがいるから、ひとりでもひとりじゃないよ」


 早く職員室へ行っておいでと、マツリはアイコに向かって手をひらひらさせた。



 だから、それがだいじょうぶじゃないんだって!


 こんなヤツと保健室でふたりっきりになるんだからっ!


 アイコは、心の中で地団太踏んだ。



 そしてマツリの笑顔に胸キュンしながらも、隣に立ってハンカチで鼻を押さえてるヤツをにらみつけた。


 キンキンこと、カネダ アツシ。


 アイコの大事な親友に、ぞっこん惚れてるヤツ。



 せっかく今までこの男の魔の手から守ってきたのに、今さら密室でふたりっきりにさせることになるなんて。


 アイコは、歯がゆい思いをした。


 キンキンの怯える顔が面白くて、はじめは保健室に行くのを嬉々として賛成した。


 だが、急に職員室まで呼び出された今となっては、話は別だ。


 

 なにも鼻血ぐらいで保健室連れて行くことないじゃんっ。


 オオカミに赤ずきんちゃんを『はい、どうぞ』とプレゼントするようなもんだわ!


 そう言ってやりたかったけど、到底無理。


 呑気でおっちょこちょいで誰にでも優しい性格が、マーちゃんのとってもかわいらしくて、いいところなんだもん。


 きっと悲しい顔をする。


 それなのに……。



「……わかった、さっさと先生の用事片付けてくるから」


 アイコは、マツリの小さな肩を両手でつかんだ。


「だから、マーちゃんも気をつけてね!」


 そうして目をうるうるさせると、きびすを返して脱兎のごとく職員室へと走り去っていった。



「なんだ、あれ」


 キンキンは空いてる手で頭をかきながら、廊下を走り去って行くアイコの姿を見てつぶやいた。


「さっさと片付けてくるって言ってたから、アイちゃんもキンキンのこと心配してるんだよ」


 マツリはそう言ったけど、そうじゃないことはキンキンがいちばんよく知っていた。



「やっぱり先生いないから帰ろうぜ」


 今通り抜けた保健室の出入り口に戻ろうと、キンキンはくるっと回れ右した。


「ダメっ」


 がしっと彼の首根っこをつかまえた。


「先生がいないなら、わたしがやってあげる」


 マツリはバランスを失って倒れそうになっているキンキンを引きずって、身近にあった丸椅子に座らせた。


「ちゃんと待ってるのよ、いいわね!」


 人差し指を彼に突きつけて、返事を促す。


 キンキンがぶんぶんと頭を縦に振ったので、保健室の戸棚をごそごそかき回しはじめた。



 保健室の消毒くさい匂いにおどおどしながらも、キンキンは自分のために手当てしようとしてくれている女の子のうしろ姿をみつめた。


 自分よりずっと小さな背中に細い肩。


 一生懸命小柄な身体を揺らして、戸棚の上に手を伸ばそうとしている。


 今なら誰もいない。


 保健室にふたりきり。


 いつもマツリにべったり引っ付いているお邪魔虫のアイコは、さっき先生に呼び出されたので当分帰ってこないだろう。



(チャンスだ)


 緊張して、思わずごくりとノドを鳴らした。



 でも、どうやって言うんだよ。



 いままで野球のことばっかりで、フォークダンス以外で女の子と手をつないだことすらなかった。


 もちろん乙女心なんて、男兄弟三人で育った彼にとっては未知の領域。


 降って湧いたような突然の告白のチャンスにどうしたらいいかわからなくて、ギイギイと椅子を揺らすしかなかった。



「なあ、カンザキ」


 ふいに苗字で名前を呼ばれた。


 振り向くと、キンキンが頭を抱えて具合悪そうにしている。


 マツリは驚いて飛び上がった。


「どうしたの、キンキン!? 気持ち悪いの?」



 保健室イヤだって言ってるのに、無理やり連れて来たから?


 それとも血がたくさん出ちゃったから?



 あらゆる可能性を想像しながら、キンキンの側に駆け寄った。


「まだ鼻血出るの?」


 彼の前に膝をついて質問した。



「それは、もう止まってるんだけど……」


 キンキンは、ゆっくり話し始めた。


「考えごとしてたら、なんか考えすぎちゃって、頭がぼうっとして……」


 彼の顔を見たら、教室で見たときより真っ赤だった。



 もしかして、熱?


 いつも弟のタカヒロにしているように、とっさに彼のおでこに手のひらをあてた。



 ぱちん。


 マツリの手が音を立てて払いのけられる。


「子供扱いするなよな」


 キンキンは怒ったような顔をしていた。



「ゴメン!」


 マツリは、はっとした。


「やっぱり体温計のほうがいいよね、ゴメンね」



 また余計なことして、誰かを怒らせてしまった。


 このまえのエイジ君みたいに。



 そう思ったとたん、涙が出そうになって、それを隠すために立ち上がった。


 ところが急に手首をつかまれ、動きを封じられてしまう。



「キンキン、どう……したの?」


 怒っているようにも、何かを決意してるようにもとれる真剣な表情をしてたので、目の前にいる彼が全然知らない人に見えた。



(こわい……!)


 マツリの背中を冷たい汗が流れた。


今回は、ちょっと恋愛物らしくしてみました。

めずらしくシリアスが入ったかな? と思っているのですが、いかがだったでしょうか。

そして、次にエイジが登場するのはいつ?

たぶん王道の展開です(^^)


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