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男女比1:20の世界で、元社畜の俺が『高嶺の花』扱いされるまで  作者: おぷらてぃー


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18/20

幕間:残香と決意、眠れぬ夜の独白

 合同演習――それは、佐藤一真という存在の価値を、学園という閉じた世界に決定的に刻みつけた一日だった。

 だが、当事者である少女たちにとって、その意味は単なる勝利の記録に留まらない。

 それは、自らの内側に潜んでいた「獣」を、否応なく自覚させられる儀式でもあった。


     ◇


星野アカリの夜:冠を脱いだ夜

 星野邸。

 豪華な天蓋付きのベッドに身を横たえながら、アカリは自分の細い指先をじっと見つめていた。

 風呂上がり、丹念に手入れをしたはずの指には、まだあの廃倉庫で一真の肩に触れたときの、かすかな「熱」が残っているような錯覚がある。


「……あんな声、出すつもりはなかったのに」


 誰もいない寝室で、アカリはシーツを強く握りしめた。

 一真の指示通りに動き、彼に導かれて勝利を掴んだあの瞬間。

 女王として積み上げてきた誇りは、音を立てて崩れ落ちていた。


 代わりに胸の奥で芽生えたのは、彼にすべてを委ね、支配されることへの――

 恐ろしいほど甘美な悦びだった。


『交渉成立だ』


 彼が告げたその一言。

 軍師としての自由と、その対価としての「私生活への介入」。

 歪で、不均衡で、けれど抗いがたい契約。


「一真さん……貴方は、私をどうしたいのですか?」


 ――三センチ右へ。

 淡々とした声が、今も耳の奥で何度も反響する。

 自分を完全に把握し、最適解へと導いた軍師。


 明日になれば、学園中の女子が、あの“王子”を求めて動き出すだろう。


「……渡しませんわ。たとえ、この学園のルールすべてを敵に回したとしても」


 暗闇の中で、アカリの瞳だけが黄金色に、鋭く光った。


     ◇


氷室愛華の夜:少女の宣戦布告

 一方、質素なアパートの一室。

 愛華は机に向かい、裁縫セットを広げていた。


 一真に渡したお守り。

 彼がそれを大切に持っていてくれた――その事実だけが、今の彼女を支える唯一の光だった。


「……やっぱり、私じゃダメかな」


 アカリのような権力も、圧倒的な存在感も、自分にはない。

 そう思うたび、胸の奥がきしむ。


 けれど、バスの中で一真の肩に頭を預けたときの、あの静かな安らぎ。

 彼が、他の誰でもなく「自分」を隣に座らせてくれたという事実。


「……ううん。ダメじゃない」


 愛華は唇を噛み、手元の布をぎゅっと握りしめた。

 アカリが一真の腕を取る光景を見たとき、胸が引き裂かれるように痛んだ。

 その痛みこそが、紛れもない本心だった。


「一真君の隣にいていいのは、星野さんだけじゃない……私だって」


 彼女は再び針を手に取る。

 次はもっと、彼を守れるものを。

 彼を、自分の居場所に引き留めておけるようなものを――

 今度は、黙って見ているだけでは終わらせない。


 おどおどしていた少女の瞳には、静かだが決して消えない火が灯っていた。


     ◇


佐藤一真の夜:前世の記憶と今の重み

 そして、佐藤家の自室。

 早苗に徹底的に「洗浄」され、心地よい疲労の中で、一真は天井を見上げていた。


 正直、この世界に来てから、これほど頭を使った日はない。

 前世――社畜として無茶な納期と理不尽な上司を相手にしてきた経験。

 それが、この“女子が主導する世界”では、これほど有効に機能するとは皮肉な話だ。


「……好意、なんて言葉で片付く話じゃないな」


 一真は右手を顔の前にかざす。

 アカリに掴まれた腕の感覚は、早苗のマッサージによって、ようやく和らいでいた。

 だが、彼女たちが向けてくる視線の熱量は消えない。


 それは、これまで経験したどんな感情よりも重く、どこか捕食的だった。


「……俺は、ただの駒じゃない。

 無意識のうちに、“導いてくれる存在”を求められている」

 

 一真は、薄く笑った。

 支配されることを拒まない少女たち。

 だが彼にとって彼女たちは、単なる戦術的な「駒」ではない。


 守らなければならない、危うい存在でもあった。


「……やれやれ。明日からの学園生活、これ以上ややこしくならなきゃいいんだが」


 家の中では早苗に心身を委ね、

 外ではアカリたちの独占欲に晒される。


 そんな平穏とは程遠い日常が、これからさらに加速していくことを、

 一真自身の生存本能はすでに理解していた。


 眠りに落ちる直前、脳裏に浮かんだのは――

 火花を散らすアカリと愛華、

 そして微笑みながら髪を撫でてくれた早苗の姿だった。

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