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田中さんの奇行がとまらない  作者: 小柳和也
1部 田中さんの奇行が始まる前の話

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1・6話 田中さんの奇行が止まらない。ので、僕は人生目標を設定する。

 お昼ご飯を奢ってもらうために、購買へ向かいながら、僕は考える。

 田中さんは僕より少しだけ前を歩いている。時々振り返り、しっかり僕が着いてきているか確認を怠らない。放し飼いにされているペットかもしれない。これから餌付けをしてもらうので、間違ってはいない。


 田中さんの後ろ姿を見ながら、僕は考える。

 僕がすべきことは、この日本という社会にもっと適合するべきではないか、と。

 僕の現肉体の持ち主は、陰キャとして教室の隅っこで十五年間を生きてきたそうだが、僕はその僕としての人生を全肯定するわけにはいかない。


 最も大事な理由としては、それでは子孫が残せない。

 男子としての繁殖能力の低下を感じている。

 それは生物として善いことではないだろう。種の絶滅を積極的に促進することは、おそらく善とはいえない。


 なので、僕はこの肉体に異世界転生してから目標を立てている。

 より強く美しい遺伝子を、次の世代に残すことを目指すべき、という目標を立てたのだ。

 その対象として、田中さんを標的にしてはどうだろうか、と考えていた。田中さんとの子孫を残せれば、外見的にも内面的にも劣性になることはない。

 次の世代にとっても誇らしいことだろう。

 今回のお昼奢ってくれるという精神的気高さも証明され、僕の子孫繁栄計画の相手は、やはり田中さんが第一候補だ。


 そう。

 つまり、僕は。

 田中さんに僕を好きになってもらわないといけないのだ。


 ただ僕は恋愛感情を理解できない。

 異世界転生の後遺症なのか、そういう呪いを受けているのか判別はできないが、事実として恋愛感情に付随する行為や感情を奇行に感じてしまう。本当の奇行と恋愛感情を理解できないゆえの奇行の判別は全くつかないのだ。

 なので恋愛感情を理解できないまま、田中さんに僕を好きになってもらわないといけない。

 これは難しい。

 僕から田中さんと子供を作りたい、要は好きです結婚してください、という言葉をかけることは簡単だ。

 僕はそうしようと思えば、特に何の心の動揺もなく、言葉にすることができる。


 普通の未成熟男子は、これが大変に難しいそうだが、僕は秒で好きだ結婚してくれ子供を作ろう、までいえる。

 言えるだけだ。

 好きだ結婚して子供を作ってくれ、と言葉をかけるだけで成就できるのならそれでオーケーだ。僕の物語は完結だ。

 成就しない場合、この言葉をかけることは、ただの変質者、異常者に等しい。今後一切の接触禁止を言い渡されるかもしれない。

 言葉を口にすることは簡単だ。

 だからこそ、僕は慎重に事を進める必要があるのだ。


 田中さんが僕を好きになってくれさえすれば、あとは簡単だ。その状態を維持したまま、学校を卒業し、仕事に就き、一定以上の年収を得たあと、告白して結婚して子づくりするのだ。それで幸せな日常として帰結する。

 ただ僕が田中さんの気持ちを理解する方法がない。

 僕には恋愛感情を理解できないからだ。

 だから難しい。


 恋愛感情を理解できないまま、田中さんと仲良くなる。

 これが僕の当面の目的だ。

 都合のいいことに、なぜか最近田中さんは僕の席までことある事にやってきてくれている。奇行かもしれない。

 ただ好きになってもらうチャンスを与えられているのだ。

 行動しよう。


「どした? 行こ?」

 少し前を歩く田中さんが振り返る。

 客観的に見る限り、やはり田中さんはとても美少女として完璧な様式美を持つ女子高生だ。スタイル良し、私服姿になれば女子高生である雰囲気は消し飛ぶぐらい大人びるのだろう。クラス内最下層に位置している僕になぜかお昼を奢ってくれる漢気までみせてくれる。

 心身共々、とてもすばらだ。

 以前の肉体状態の僕なら、仲良くなりたいなんて考えることすらありえなかった、コミュニケーションを取ることすらありえなかった女子だ。

 落ちている消しゴムを拾ってあげることすらありえなかった関係性。

 でも今の僕には、そういったカースト的な遠慮や、引け目などが、ない。

 純粋に田中さんを評価し、純粋に仲良くなりたいと思う。

「いや、今日も田中さんは綺麗だな、と思っていました」

 問われたので、素直に僕は答える。

 田中さんは果実のように顔を染め上げると、ベシっと音を立てるぐらい強く強く背中を叩いてきた。痛い。なぜだ。暴力行為だ。通報案件だろうか。

「そういうことはもっと仲良くなってからいいなさいっ!!!」

 暴力を振るわれたうえで怒られてしまったが、なぜか怒っているようにはみえなかったので、良しとする。

 人生目標を設定し、僕と田中さんは改めて購買へ向かった。

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