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田中さんの奇行がとまらない  作者: 小柳和也
1部 田中さんの奇行が始まる前の話

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1・4話 田中さんの無関心はとまらない

 利益提供を行うことは、重要だ。敵ではない、ということを伝えることが出来る。


 休み時間の度に、毎回のように座席を奪っている気弱な男子生徒の名前は、堂嶋蓮どうじまれんという名前であるそうだ。

 格好いい名前だな、と思った。

 語感がいい。褒めポイントだ。名前負けしているが、名前を付けたのは堂島蓮くんではなく彼のご両親かご親戚だろうから、褒めポイントであることに変わりはない。

 実里さんとの一件があったので、事前に学級名簿を盗み見ることで確認した。

 ついでに実里さんを経由してあの人の名前は? とダブルチェックした。シンカイマコトがマイブームなのね? と不思議がられたが、よくわからないので肯定しておいた。


 珈琲を選んだことにきちんと理由がある。

 悲しいことに現在の僕の縦長財布に収まっている現金は千円札が二枚だった。

 お小遣いという制度から支給されている現金が、この二枚だった。

 今はまだ四月上旬である。

 この紙切れ二枚がどの程度の価値があるのか、もろもろ調査した結果、男子高校生が一か月過ごすのは、なかなかの苦行であると理解している。

 もっとも昼食代飲み物代として毎日三百円の現金支給されているので、飢え死にすることはない。そして自由に使える金銭が千円札二枚は苦行だ。

 しばらくしないうちに昼食代を削って、少しでも月内に使える現金をかさまししないといけなくなる。

 アルバイト活動などの時間給料で金銭を得ることは可能だというが、僕はいまだこの世界の常識になじんでいない。一定以上の常識や、役割を求められる労働をどこまでこなせるか正直わからない。不安などは感じない体質だが、まともに仕事を行えるかどうかわかるまでは、アルバイト活動に手を出すのはまだ早いと判断している。


 なので堂島蓮くんへの利益提供代には、さほど現金は使えない。ただしチロルチョコ一個などは論外だ。そこまで単価を削ると逆に失礼にあたる。

 一日のもらえているリミットである三百円前後を利益提供代にすることにした。

 一食ぐらい抜いても死にはしないという判断だ。

 上限が三百円だと、そんな大層なものは購入できないが、あまり大げさなものを渡すこともはばかられたので、必然的にコンビニエンスストアを利用することにした。

 堂島蓮をくんをしばし観察した結果、お昼には必ず珈琲が手元にあった。たまに授業間の十分休み中にも缶コーヒーを飲んでいることがある。

 なので、缶コーヒーよりもやや高めの珈琲飲料が候補となった。


 授業が終わると、堂島蓮くんの机にやや高級感のある容器に入った、太いストロー付きの珈琲を置いた。


「これをあげよう」

「なんで?」


 疑問が返ってくるとは思わなかった。

 僕が利益提供することは必然だと思っていたのだ。

 なんでという疑問が出るということは、座席を二回も短時間に奪ってしまったことは、堂嶋蓮くんの中では大したことではないのかもしれない。


「ここ数時間で二回も座席を奪ってしまったから。謝罪の気持ちだよ」

「ふーん。ていうか、お前ってそんなに律義な奴だっけ」

「ん?」

「なんか他人行儀だし。人が変わったみたいだけど」


 なるほど。

 どうやら想定の範囲外の状況になっているようだ。

 堂嶋蓮くんとは高校以前から、そこそこ仲が良かったらしい。

 これは計算外だ。あまり交流のないクラスメイトだと勝手に想像していたが、どうやら違うようだ。陰キャを常としている人物と勝手に想像していたから友達なんて少ないと思っていた。

 こうなっては、土壇場の適応力が求められる。常に慌てることのない、冷静をキモとしている僕の第二の特性が役に立つ。

 しばし珈琲飲料を片手に、僕は「うーん」とうなる。十秒ほど考える。そして思いつく。

「親しき中にも礼儀あり」

「長々考えた言い訳にしては、無理筋だろ」

 突っ込まれた。軽く頭をチョップされた。暴力だ。でも悪くない方の暴力だったような気がする。だからまあ吉。


 そんなこんなイイ感じの流れになっていると思ったが、田中さんが当然のようにやってきた。

 田中さんの視界は少し狭まっているのかもしれない。

「来たよ。あ、どいてくれる?」

 堂島蓮くんはそうして珈琲片手に教室の隅っこへ移動していった。

 親友キャラっぽいので、多少雑な扱いでのいいのだろうか、と思った。

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