0章1話 穏やかな日常
はじめまして!
この作品『凡人の復讐記』は、平凡な少年が“ある事件”をきっかけに成長していく物語です。
第1話はまだ日常編。のどかで少し笑えるようなやりとりから始まります。
この穏やかな時間が、どれほど貴重なものだったのか――
それを知るのは、もう少し先の話。
どうか、彼の“いつも通りの一日”を見届けてください。
とある、なんてことのないちっぽけな村。
ギルドもなければ、酒場もない。あるのは広がる自然と、そこを駆ける生き生きとした動物たちだけ。
それでも人々は互いに助け合い、穏やかに日々を過ごしていた。
そう……これは俺――ユウマがすべてを失う前の話だ。
「はぁぁあ!」
幼き頃のユウマの叫びとともに、木剣が振り下ろされる。
「ふっ……甘い!」
甲高い音が響き、父の剣が少年の木剣を弾き飛ばした。
「なっ――――!」
飛ばされた剣は背後の地面に突き刺さり、乾いた音を立てる。
「今日も父さんの勝ちだな」
父が笑う。
その笑顔はどこか人を小ばかにしたようで……なんかむかつく。
「父さんに勝とうなんて…百年早いわ!がっははは!」
「……大人げないぞ! 息子に本気で打ち込むなんて!」
本当に大人げない親だ……
その直後、優しい声が家の方から響いてきた。
「あなたー! ユウマちゃーん! 休憩したらー!」
母さんの声だ。
「おう! じゃあ…今日はここまで!ユウマも休め!」
父が大声で返事をし、木剣を肩に担ぎ、家の中へと入っていく。
腰を下ろし、空を見上げた。
快晴の空、太陽は燦々と輝いている。
こんな日は眠くなってくる……
まぶたが重くなって目を閉じた。
少ししてから、声がして目が覚めた。
「何してるの?」
目をこすり、声のした方へ視線を向ける。
柔らかな風の中、木漏れ日を背に立っていたのは――幼なじみのユナだった。
「ん~………見た通り、昼寝だよ…それより何で、ユナがここに?」
彼女は聖女を目指す少女。
普段は神殿での修行で忙しいはずなのに、今日は珍しくその修道服姿ではなく、ふわりとした白いワンピース姿だった。
「ん~~ユウマを見かけたから? それに最近は修行が少ないからね~」
ふわりと風が吹き、ユナの髪が日差しに透ける。
光の粒が跳ねて、まるで空気まで笑っているようだった。
(……やっぱ、ユナはすごいな)
どんな時も、笑ってるだけで周りを明るくしてしまう。
それが羨ましくて――少しだけ、好きだと思ってしまう。
「そっか……じゃあ、サボりじゃないんだな」
そう問うと彼女は少し目をそらす。
「ん~半分くらい?」
「こら」
二人の笑い声が、静かな草原に溶けていった。
「寝癖ついてるよ? 治してあげるね」
ユナが小さく笑いながら手を伸ばす。
指先が髪に触れた瞬間、ユウマの胸がドクンッと跳ねた。
自分でも驚くほどに、心臓の音が大きく響く。
「どうしたの? 顔が赤いけど……」
「う、うるさい!」
言い返しながらも、ユウマは彼女の綺麗な顔から目を逸らしてしまう。
太陽と同じだ。
ずっと見ていると、目が焼けてしまう気がしたから――
「あ、忘れるところだった!」
彼女は何かを思い出したように立ち上がり、ポケットの中を探りはじめる。
「あった! ユウマ、これあげるね」
差し出されたのは、手のひらに収まる小さな銀色のロケットペンダント。
表面には花の模様が刻まれていて、光を受けるたびに淡く輝いた。
「これは……ペンダント?」
そのペンダントは明らかに市販品ではないと感じた。
よく見ると、アレンジされた形跡があり、少し形が不格好に見えた。
けれど、その不格好さからは“頑張って作ったこと”が伝わってくる。
そして、どこか温かい……
「なんでこれを?」
「……お守り、かな。理由は、秘密でお願い」
ふわりと笑って、ユナはユウマの首にペンダントをかけた。
風が吹き、鎖がかすかに揺れる。
「ねぇ、ユウマ。もし――」
彼女は少しだけ俯いて、言葉を選ぶように続けた。
「もしも……もしもだよ?」
「全部がイヤになって……何も信じられなくなったら、そのペンダントを開けてみて」
そう言った彼女は、いつもと少し雰囲気が違った気がした。
「……どうして?」
「そしたら、きっと少しは楽になるよ」
そう言った時の表情は、どこか遠くを見ているようだった。
「じゃあ、一生開けられじゃん!」
少し驚いてから彼女が柔らかく笑った。
「ふふっ……ユウマはそうじゃないとね」
なぜかは分からないけど……
その声色はいつもよりずっと優しくて温かかった……
「じゃあ……私は帰るね」
「お、おう」
手を振って去っていくユナの背中を、ユウマはしばらく見つめていた。
風が吹き、草の音が静かに響く。
胸元のペンダントが光を受けて、かすかに輝いた。
「……ほんと、何なんだよ」
そう呟いて笑いながら、ユウマは立ち上がり家へと帰っていく。
家に戻ると、母さんが鼻歌交じりに湯気を立てる鍋をかき混ぜていた。
「ふんふ~ん♪」
その音と香りが、今日も変わらない日常を感じさせた。
「お? やっと帰ってきたか、バカ息子!」
……やかましいのが来てしまった。
めんどくさいからひとまず無視することにした。
「なんだよその顔は、優しい父さんが迎えてやってるんだぞ?喜べよ」
「母さん今日の夕飯なに?」
「今日はシカ肉のスープよ~」
「おいこらバカ息子、無視すんな」
真顔でマジっぽく言うバカおやじ。
けれど、これで怒ってるわけでもないから判断に困る。
「聞こえてるよ」
「なら返事くらいしろ」
「はいはい」
「まったく……」
父さんはため息をつきながらも、どこか楽しそうにパンをちぎっていた。
そんな何気ない会話。
いつも通りの、あたりまえの流れ。
そして食事。
「スープもできたから運ぶの手伝って~」
「母さんも無視しないでくれよ~泣いちゃうぞ?」
「じゃあその手に持ってるパンは置いてね~」
信じられない人もいるかもしれないが、この二人は村一番のおしどり夫婦と言われてるらしい。
「そういえばユウマちゃん? そのペンダントどうしたの?」
母さんはそういいながら素早く皿を並べ料理を取り分けていく。
おそらく母さんも俺より強いだろう。
「えっ……これは……」
「ユナちゃんにもらったんだろ?だ~い好きなユナちゃんにもらえてよかったな~」
「違っ――」
ユナにペンダントをもらうところを見られてたようだ。
母さんは普通に疑問で聞いてるかもだがこのバカおやじは絶対俺をからかってるつもりだ。
「そうなのユウマちゃん?」
「顔赤くなってるぞ~」
「あなた!あまりからかわないの!めっ!」
そんな会話をしながら楽しい食事をした。
バカ親父は相変わらず俺をからかってきたけど、母さんが叱ってくれたから許してやることにした。
食事後はそのまま自室に向かい床に就いた。
こうしていつも通りの一日が過ぎていく。
その穏やかな日常に終わりが迫っていることを――
知る者はいなかった。
ここまで読んでくださってありがとうございます!
第1話はユウマたちの何気ない日常を描きました。
こういう“平和な時間”があるからこそ、次の展開がより重く感じられる――
そんな構成にしています。
もし少しでもキャラに興味を持ってもらえたら、
第2話もぜひ読んでください!
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