表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

太陽と月

作者: 萩原 智也

これは夢だ。夢であってくれ。そうじゃなきゃ許さない。

どうしてこんなにも……こんなにも酷いことができる。

何故だ。何故なんだ。

私の家族が何をしたというのだ。

その顔をやめろ。人の皮を被った獣め。

私はお前を、お前たちを許さない。

狼人めが……。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



これで何日目だろうか。私は何をしているのだろうか。

ダンジョンに入り浸る日々がずっと続いている。


私はなんのために生きているのだろうか。


家族の復讐をする権利も持てず、死ぬことすら許されないというのだろうか。

私を殺してくれる魔物はいないのだろうか。


あぁ、私はなんのために生きているのだろうか。


昔、母は言っていた。

人は幸せになるために、幸せを見つけるために生きているのだと。


昔、父は言っていた。

人は冒険をするために、冒険の過程で幸せを見つけるために生きるのだと。


「私はなんのために生きているのだろうか。幸せとはなんなんだろうか」


「それがあなたの答えなのではないでしょうか?」


声が聞こえてきた方向を見ると、そこには美しい若い女性が立っていた。

声がでていたらしい。


『「なんのために生きている」の後に「幸せとは何か」という疑問が来たなら、幸せになるためにあなたは生きているのではないんじゃないでしょうか?』


そうではない。私は別に幸せになるために生きているわけではない。ただ、父母の教えを思い出していただけだ。


「なら、なんのために生きているのですか?」


今度は声には出していないのにも関わらず、彼女は私との会話をどうやってか続けた。


「私は……」


言葉が出ない。当然だ。私はなんのために生きているのか自分でわかっていないのだから。


私はなんのために生きているのだろうか。

改めて、考えてみるが上手く答えは出てこない。


すると、視界に魔物が写った。


「狼型の魔物です。私は戦えませんが戦えますか?」


ならば、どうやってここまでたどり着いたのだろうか。

ひとつわかることは今はそんなことを考えても仕方がないということだ。


返事には答えず、鞘から剣を抜く。


魔物の姿形から予測すると、おそらくはAランク相当の魔物だろう。

あの魔物なら、私を殺してくれるかもしれない。解放してくれるかもしれない。

ただ、そうなればあの女性はどうなるだろうか。おそらくは死ぬだろう。


私の勝手な死に巻き込む訳には行かない。

そう考えると、鞘から剣を抜かない理由はなかった。


こちらが剣を構えると魔物が猛スピードでこちらに距離を詰めてきた。

まるで、こちらに敵意があるかを確認したような動きであった。


この魔物は速かった。速かっただけにそこが仇となった魔物だったのであろう。

爪による斬撃を避け、首元に剣を添えるだけ。

それだけであちらのスピードでそのまま首が落ちた。


「お強いんですね。流石です」


私が強い。そんなわけが無い。1番大事なものを守れなかった者が強いなどとあってはならないのだ。それは、本物の強者への侮辱にほかならない。


「私は強くない」


「自分に厳しいんですね」


私は自分に厳しいんじゃない。これは正当な評価だ。誰がどう見ても、私のことを知ったらそう評価するだろう。

だが、彼女は話し続ける。


「そんな自分に厳しく、生きる意味を探しているあなたに朗報です」


すると、彼女はこちらに手を差し伸べながら、


「私があなたに生きる意味を与えます」


と言い放った。

彼女は綺麗なお辞儀をしながらこう続けた。


「弱い私を守ってください。私のために生きてください」と。


何を言っているんだろうか、この女は。

私は大切な者を守れなかった。そんな私に「守ってください」というのか。


違う。当たり前だ。彼女は知らないのだ。私が大切な者を、家族を守れなかったこと。


「それは……できない。いくら貴方から見て私が強かったとしてもそれはできない。私には人を守ることができない。家族すら守れなかった私に貴方を守ることはできない」


「なるほど、それが貴方がこの誘いを断る理由。そして、生きる意味を探してる理由ですか」


「たとえ私に守る力があったとして、貴方は若い。他の人を探した方がいい」


そういうと、彼女は表情を変えずにこう言った。


「そんなことは気にしません。貴方が家族を守れなかったことも気にしません。私は私が信じる誰でもない貴方に是非ともお願いしたいのです」


彼女の意思は硬そうだ。

長い間ダンジョンに籠っていたんだ。

とりあえず、外に出て、話を聞くだけならしてもいいかもしれない。

そうすれば、きっとこの物好きの女も考えを改めるだろう。


「……話だけなら聞こう」


すると、彼女は笑みを浮かべながら


「なら1度私の家行きましょう」


そう言った。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「どうして、私が守ることに固執する?」


他にも強い者がいるはずだ。本物の強い者が。

にもかかわらず、どうして私にここまで固執するのか疑問で仕方がなかった。

それゆえ、家に上がらせてもらい席につかせてもらうとすぐにそう言った。


「貴方がなんと言おうと、私はあなたを信じます。私は貴方が強いということを知っています。私を守れるだけの力があることも知っています。ただ、それだけです」


「貴方を守る力は私には無い」


「いえ、あります」


彼女は即答してくる。なぜ、なぜ、そこまで言い切れるのだろうか。何が彼女をそうさせているのだろうか。


「どうして、そう言い切れる」


すると、彼女は思い出すように話を始めた。


「私は、貴方に救われたことがあるのです。覚えてはいませんか?貴方がその左腕になってしまった理由を」


───私に左腕には、肘から先の左腕は付いていない。

それは、生まれつきなのではなく冒険者をしていた一環でクエストをこなす際に負ってしまったものだ。


ただ、それが理由で情を使われないよう見ても、触っても分からないほどに精密に作られた魔道具をはめている。

いわゆる、義手だ。


見ただけでは分からない。触れても分からない。それなのにも関わらず、彼女は私の左腕が義手であるのだと当ててきた。

そして、彼女は「私に救われた。この左腕になった原因を覚えていないか」と尋ねてきた。


おそらくはそうなのだろう。私があの時身をていして守った子供がこの子なのであろう。


「思い出してくれましたか?要するに、私が言いたいのはまた私を守ってください。ということです」


そんなことを平然と言う彼女は今日見た中で一番の笑顔であった。


「私といると男が寄り付かなくなるぞ」


「貴方がいれば構いません」


「守れないかもしれないぞ」


「それでも構いません」


「本当にいいのか?人生を棒に振るかもしれないぞ」


「あまり、しつこいと気が変わってしまいますよ?女性は」


「なら、私は……」


すると、彼女は食い気味に微笑みながら


「私以外の女性は、ね」


そう口にした。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



あの日、彼女──ソレイユが私──リュンヌを底から引き上げてくれてから数ヶ月が経過した。


私は、以前加入していたギルドのSランクパーティーに改めて加入させてもらっている。


「狼人の討伐か。行けると思うか?リュンヌ」


そう私に聞いてきたのは、このパーティーのリーダーであり魔法使いであるコパンだ。


「私だけのソロならともかく、私たちなら問題ないだろう」


狼人。それは、人族と長年睨み合っている種族だ。

元々は平和条約を結んでいたが、あちらがそれを遠い昔に破ってきた。それにより、人族は狼人に対して容赦がなくなっている。

また、狼人は数は少ないものの個々の力が強いためクエストに出される場合はAランクとなっている。






「なんだこれは……」

「酷い。こんなことが……」

「こんなことがあっていいのか……」


先に行ったパーティーの面々からそんな悲痛の声が聞こえてくる。

覗いてみるとそこには……。


切断された手首。爪の跡のついた服、そして肌。子を守った時にできたのであろう背中の傷。そして貫通した腹の穴。


そんな光景が拡がっていた。






吐き気がした。



あの時のことを思い出してしまうから。



吐き気がした。



もう乗り越えたはずなのに、



吐き気がした。






「大丈夫か?リュンヌ」


そうコパンが声をかけてくれたおかげで理性が保てた。


顔を上げると、パーティーメンバーの目の色が変わっていた。

ここに向かう時にあった、昔からやってきたメンバーでまたクエストをできる喜びなどもうなかった。

ただ。ただ、皆、狼人を許さない。そういう目になっていた。


今までも何回かクエストを受けたことがあったが、これほどまでに酷い事例は過去1件しかない。


そう、私の1件だ。


「リュンヌ、今回のやつはもしかしたら……」


「ああ、わかっている」


今回の狼人は、もしかしたら私の家族の仇かもしれない。

コパンが指示を飛ばす。


「スティアン。探知魔法を」

「もうやっています。少しお待ちを」

「ファドゥラマ。村の外の森を偵察してくれ」

「了解。なにかわかり次第伝え……」


そこで言葉が途切れた。

見てみると、彼──ファドゥラマは四つん這いになり吐血していた。


「……分身体がやられたみたいだ……。相当な使い手だ……」


彼──ファドゥラマの能力は自分の実像分身を作り出すことだ。

その分身体がやられた攻撃の10分の1の威力が本体である彼にも入る。


今回、たった10分の1のの威力で彼は吐血した。それはつまり、敵は相当な使い手だということを表す。


「探知終わりました。数は……1。相手は1人だけです」


1人だけ。それが必ずしも良い訳ではない。相手が相当な使い手であることが確定している今は1人でよかったなどとはお世辞でも言えない。


「リュンヌ、ファドゥラマの分身と一緒に囮となって敵が出てくるのを待ってくれ」


「わかった」


無惨な姿に変わり果てた村から森へと足を進める。


剣を抜き、警戒しながら足を進める。


耳を、目を、研ぎ澄ませながら足を進める。





──風も吹いていないのに木の葉の音がなった。


耳を澄まし、警戒する。





長い時間沈黙が流れた。

その沈黙を破ったのはファドゥラマだった。


「まずい、こっちに来た。今すぐ戻ってきてくれ」


村に残った3人も弱いわけではない。

無事であると信じながら、ものすごい勢いで駆け抜ける。






村に着いた時に見えた景色は認めたくないものであった。






爪で腹を突き刺され、地面に倒れているコパン。

体という体の部分が散らばっているファドゥラマ。

狼人の前で戦意を失い、恐怖に支配されているスティアン


彼らの姿を見ただけで2人──コパンとファドゥラマ は死んでいるのだとわかった。




私が戻ってきたのを確認すると、狼人はスティアンには危害を加えず森の中へ逃げた。


「何があった……?」


スティアンは震えた口を動かしながら答えてくれた。


「あの狼人がいつの間にかコンパの後ろにいて……

気づいた時にはもうコンパは倒れてて……

そしたら、ファドゥラマが私を庇って……

狼人の爪で引っ掻かれて……

そしたらファドゥラマが狼人諸共自爆して……

でも、狼人は右腕を失っただけで……

私何もできなかった……」


スティアンはそう、泣きながら、震える口を動かして教えてくれた。


あの時の私と同じ目をしていた。


「あとは私に任してくれ。そして、今回のことで死のうとだなということを思うなよ?今回の責任はクエストを受けることに決めた私とコンパにある。そう責任を背負うな」





村から帰ろうとしたその時、村から生き残りの少年が出てきた。

私はこの子を保護しようと思った。


こんなことが目の前で起こったのだ。

正気の精神状態じゃないだろう。

可能な限り支えになってあげたい。


そういう気持ちからだった。


家に帰ると、すぐに ソレイユに事情を話した。

彼女は私に「この子は私に任せてください。貴方は亡くなった仲間の方の対応を」そう言った。


ソレイユが少年と話してる声が少しだけ聞こえた。


「そう、貴方は二アージュと言うのね。村のことは残念だったけれどもう大丈夫。私たちが貴方のことは守ってみせます。なので安心して今日は眠ってください」


そう言うソレイユの声だけが聞こえた。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



3人──ソレイユと私と二アージュでの暮らしが始まってからさらに数ヶ月が経過した。


コンパとファドゥラマの葬式は極小数で行うこととなった。ギルドの主力のパーティーだったおかげか、ギルドが資金を負担してくれた。


スティアンも何とか落ち着いてきている。


この数ヶ月でひとつ分かったことがある。

二アージュはとても頭が良い。そして、運動神経も良い。そして何より、魔法のセンスがある。


ソレイユが二アージュに魔法を教えていたのだが、通常の人が数年かかる道を数日で通ったと聞いた。

それを聞いた時私はその魔法の才能に驚かされると共にソレイユが魔法を使えることに驚いた。

もしかしたら、彼女は本当は私よりも強いのではないだろうか。そんな疑問が頭をよぎった。






数日後、私とソレイユ、二アージュそして、スティアンの4人で山へ遊びに行くこととなった。

要するに、二アージュとスティアンのための気分転換だ。


「それでは、ご飯作りに取り掛かりましょうか」


ソレイユが代表して指揮を取り始めた。私はソレイユと共に山菜を取りに行くこととなった。


「2人とも立ち直ってきましたね」


「そうですね」


ソレイユは私以上に彼らのことを気にかけてくれている。今回のことも彼女が企画したことだった。







「そろそろ戻りますか?」


山菜を取り始めてから時間が少し経過した。手に持っている袋の中には1杯に山菜が入ってる。


「そうですね。そうしましょうか」


あと数時間もしたら、日も沈みそうだ。

雲行きも怪しい。早めに借りている小屋に戻るべきであろう。






戻るとそこには……。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「二アージュ君は野菜を切ってくれる?私はお肉を切るね」


あの日から二アージュ君と一緒に2人のお世話になることが多くなった。


「僕、お肉切ってもいい?」


やってみたいのだろうか。なら、やらせるべきであろう。それに、多才なこの子であればできるであろう。


「それじゃ、お肉をお願ィ……ッ」


そこから先は言葉が出なかった。

激痛が背中に走ったのだ。


「お肉切るね」


二アージュは笑みをこぼしながらそう言った。

その様子から彼が私のことを刺したのだということが分かった。でもどうして……。

その疑問に対する答えは私の中には見つかることはなかった。


「なんで……」


「どうしてっね。強いて言うなら復讐かな」


どうにかして、このことを2人に伝えなければ。魔法を発動させなければ。


「だーめ。そんなことされたら僕の考えたシナリオが台無しになっちゃうじゃん」


「──ッ」


再度、手に持っている包丁で刺してくる。

もう何も出来ない。私はファドゥラマのように2人に異常を知らせることもできなかった。


──ごめん。私なんかを庇わせちゃって。

──ごめん。何も出来ない、役に立たない人で。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



戻るとそこには信じたくもない光景が広がっていた。


地面に伏している二アージュとスティアンの姿があった。


「二アージュ、スティアンさん!!大丈夫ですか?何があったんですか?」


ソレイユは即座に駆け寄ると共に、らしくない焦り具合を見せていた。


すると、生死を確認するように首元に手を当てると


「スティアンさんが死んでいます」


二アージュのことも確認した時、彼女がこちらに視線を向けた。


「まだ、二アージュが生きてます。急いで町に降りましょう!」


「そんなことしなくていーよー!喜んでくれてありがと」


二アージュはそう言いながら正面にいたソレイユの腹を近くに落ちていた包丁で刺していた。


「二アージュ!!貴様!!」


「こんばんは。おじさん」


彼はそうソレイユを刺しながら、ニヤケながら、言い放った。


彼が包丁を抜くと、ソレイユはその場に勢いのままに倒れた。


「あーあ!殺しちゃったー」


「貴様、何のつもりだ?」


なんのために……。彼女を。なんのために……。


「それにしても、おじさんだっさいねー。また守れなかったもんねー。なにもかも!」







──また守れなかった。







──けれど、今それはいい。







──今はただ、何も考えずこの目の前の相手に集中を。







──俺は斬った。彼を二アージュを。斬ったはずなのに……。


「そんなの無駄無駄」


私が斬った二アージュは確かに斬れた。

けれども、感覚は空を斬ったようなものだった。

そして、別の場所にまた二アージュが現れた。


「どうしてこんなことするかだっけ?」


私はまた斬った。が、先程と結果は同じだった。


「どうしてだと思う?」


二アージュはニヤケながらそんなことを言う。


私は


──斬った。


───斬った。


────斬った。


─────斬った。


──────斬った。


───────斬った。


────────斬った。


─────────斬った。


──────────斬った。


───────────斬った。


のに、奴は、二アージュは平然と消え現れを繰り返す。


「仕方ないから教えたあげるよ」


────────────斬った。


「思い出さなそうだしね」


─────────────斬った。


「これは僕なりの復讐なんだよ」

「復讐だ?ふざけるな」


──────────────斬った。


「ふざけてるのはお前だ!被害者ズラするな!お前たちが僕に、僕たちにどれだけのことをしたか!」


彼は怒り狂った声で話を続ける。そして、姿にもやがかかっている。


「お前らは狼人を当たり前のように討伐するがな、みんな生きてるんだよ!僕らはただ暮らしてただけだ!侵略してきたのはお前らだ!」


彼の姿は憎たらしい狼人の姿になっていた。


「被害者ズラするんじゃねー。自分はやってもいいがやられるのは嫌なのか?あ??」


彼は、狼人の姿のまま怒り狂った声で話を続けた。


「こうなってるのも全てはお前が原因なんだよ。おじさん。お前がみんなを殺したんだ」


彼は指で数字を数えるように手を前に出した。


「親を、パーティーの仲間を、ソレイユを。全部お前が殺したんだ」






──私が、原因……?

守らなきゃならない人を私が殺した?

侵略していたのは私たちだ?


そんなことはない、なきゃいけない。あってはいけないのだ。ダメなのだ。






それを否定する理由が見つからない。






彼が言ってることに矛盾はない。






考えれば考えるほど彼の言い分は正しい。そう思えてくる。そう思えてならない。






──全て、私のせい。






「たとえ……たとえ私が原因であったとしても!貴様が殺したことに変わりは無い!!」


口に出してみると自分を無理やり納得させることが出来た。今はただただ、集中を。


───────────────斬った。


感触があった。

煙のように消えることもなかった。

けれど、声がした。後ろから。


「これで正真正銘お前は殺したな」


口が裂けるほど開けながら笑っている姿が目に入った。


「そいつは本物の二アージュさ!狼人の姿に見せてただけでな!」


「おじ……さん……」


「違うんだ。違うんだ。違うんだ」


笑みを浮かべた奴は再び口を動かす。


「何が違うんだ?お前がやったんだろ?」


そうだ。俺がやった。

俺が?やった……。俺がやったのか。俺がやったんだ。何をして……。何をしたんだ……。なんてことをしたんだ……。してしまったんだ……。


守るべきものを守れず、その原因は実は自分であり、自らの手で守るべきものも殺めてしまった。私は……何を。


「あぁ。あぁ……」


「壊れちまったか?ならもうさよならだな。話をしても面白くないもんな」


そして、彼は満面の笑みを浮かべながらこう放った。


「さよなら。リュンヌさん」



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



その『狼人』は仲間の復讐に人生の全てを捧げていた。


彼の魔法は「幻影を作り出す」というものであった。

だが、彼は復讐のため、生命力を犠牲とし、魔法の強化した。それにより、任意で自らの体を幻影とさせることができるようになり、実態がなくなった。


すなわち彼は空気と一体化したと言っていい。

彼は誰にも倒されない存在となった。命の引き換えの時間制限付きで。


「もう時間か。みんな、僕、仇とったよ」






小屋の前には4つの死体が転がっていた。

どうして死んだのかは一目瞭然だが、誰がやったのかは不明だった。

そして、小屋の周囲にだけ薄くキリがかかっていたと言う。


だが、世界が真相を知ることはないだろう。


この真相を知るものはもう誰一人としてこの世には居ないのだから。






もしよろしければ、評価,コメントお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ