序章【用語詳説】
【用語諸説】(五十音順)
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◆エソンペカラ【彼土】
外の世界。彼方の場所。胎の表。
人々の認知の及ばない、ここではない何処か遠い場所の意。或いは、死者が旅立つ先のこと。
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◆エハユプニ【神樹】
神域の何処かに屹立する大樹。
命を育み、溢し、廻らせるものとされる。
伝承の時代より悠久の刻、此土と人々を見守ってきた古き存在。胎樹。掉尾の御神樹とも。
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◆シンタニタイ【神域】
人世が泰平を謳歌し、此土の真実を忘れて健やかに存続する為の揺籃。世の結び目。
僅かに残った人の生存圏(※人の営みだけに限らず動植物が生態系の連鎖を構成し、繁栄と循環ができる余地が残る土地)を囲う、帯状の境界。
神域の外側がどうなっているかは、今となっては誰も知る由もない。遠目の視覚上ではほぼ常に霧霞が立ち込めた朧気な景がどこまでも続いており、時折に『あの先で、何かが私達を呼んでいる』『天高くそびえる影が無秩序に並んでいた』『先は黒く広い広い水溜まりが波打っていた。あそこに還らなければ』など“何か”を視てしまい、彼土、外側の世に対して要領を得ない言葉を遺し、そのまま気が触れて旅立ってしまう者もいる。
世の外側を知ろうとする行為や思想は、世の結び目を手解きかねない禁忌の一つである。
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◆セカイ/モシリヌイナ【此土】
此の土地のこと。人の認知の及ぶ此の世。
遠い昔はもっと世界は広くて、天も地も限りなく何処までも続いており、何処とでも誰とでも繋がっていたという。しかし栄耀栄華の極を履き違えた増長の果て、齎された厄災により旧世界はどうしようもない状態となってしまう。
厄災から僅かに生き延びた者達は、顕れた天女様(※その巫女とも伝わる)に誘われ、存続と安住の地へと導かれた。そうしてたどり着いた此土を、新たな『セカイ』としたのだと謳われる。
かの天女(※)との約定により、そこがどこで、そとでなにが、それらはなぜ、人々は大切なことの全てを綺麗さっぱり忘れてしまうことにした。
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◆トウフ/トゥフ【統巫】
其は畏れ多き、敬うべきもの。
古より曰く『各々が伝承の天女(※)の力と意志を受け継いだ、此土を存続させる為の要であり楔』と謳われてきた、“統べ導く”尊き巫女。
此土に一体幾柱の統巫(※と、その社である統巫屋)が存在し、どのようにして世代交代をするのか、そもそもの前提で人類唯人と同じ命の在り方をしているのか?(※彼女達にも血が通い、死や個の終わりという概念こそ有るようだが)定命を持つ純粋な生物なのかさえ不明なのが大衆的認識の限界である(※秘匿とまではされてはいないようだが、その存在や力が悪意ある形で利用されないようする為、または争いの火種にならないようにと考えてか。彼女達は、唯人やその國々への不必要な知識の伝達。及び過度な干渉を憚っているきらいがある)。
共通の特徴として、統巫は必ず美しい女性ないし少女の姿をとっており。完全には唯人と同じ姿をしてはおらず。尻尾や羽等、決まって身体のどこかにその統巫ごとの『己が統べる神秘神格に応じた』人ならざる特徴を持っているとされる。
超自然的な具象を引き起こし。人智を越えた御技を操り。ただそこに居るだけで恩恵を人々や此土にもたらしていると伝わる。
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◆トウフヤ【統巫屋】
神域に点在する要地。
各々の統巫が住まい管理する社(※その領域、或いは統巫個人やその身内を中心として起居相互扶助をする共同体も指す)のこと。
天女との古の約定により、人の國の法規や権威によっては侵されない。唯人は統巫屋側からの許可が無ければ立ち入ること(※統巫屋が在るはずの場所にたどり着くこと)ができないとされる。
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◆ちょうびのうろ【掉尾の虚】
天女(※)の異称。溢れた厄災から逃れ、人々を安住の地へと導いた、いと尊き存在。
その称の意味する所は、失われて久しい。
後継である代々の統巫達のみが、言葉の意味と真実を語り継いでいるとされる。
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◆ひとのよ【人世】
唯人の営みが行われている場所。その國々。
神域の帯に囲われた、小さな楽土。
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