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水に取られた ―六月の贄(にえ)―  作者: 大西さん
第一章「水守村」
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第8話 井戸の配置

次に気づいたのは、井戸の多さだった。


各家の庭に、必ず複数の井戸がある。


古い石組みの井戸と、新しいコンクリート製の井戸。


さらに、もっと奇妙な井戸も。


ガラス製の透明な井戸。


中の水が見える。


でも、その水は...動いている。


上下に循環している。


まるで、井戸の中に噴水があるような。


いや、もっと奇妙だ。水が、螺旋を描きながら上昇し、また下降している。


永久機関のような、物理法則を無視した動き。


そして、その動きに合わせて、井戸から音が聞こえる。


歌うような、泣くような、笑うような音。


水が、感情を表現しているような音。


「井戸の水が動いてる...」


香織さんも気づいたようだ。


でも、それ以上に奇妙なのは、井戸を覗き込む人々の姿だった。


老人が、井戸に向かって何かを呟いている。


女性が、井戸に花を投げ入れている。


子供が、井戸の縁に耳を当てている。


まるで、井戸と対話しているような。


よく見ると、井戸の配置にも規則性があった。


古い井戸は必ず東側、新しい井戸は西側に。


そして、ガラスの井戸は北側に。


南側には...井戸がない。代わりに、地面に奇妙な窪みがある。


井戸の跡?いや、これから井戸になる場所?


井戸と井戸を結ぶと、村全体で巨大な図形を描いているように見える。


六芒星?


いや、もっと複雑な...


もっと有機的な...


まるで、生き物の血管のような配置。


そして、すべての井戸から、地下で水路がつながっているのが分かる。


地面に耳を当てれば、水の流れる音が聞こえてくる。


村全体の地下を、水が循環している。


巨大な、生きている水のネットワーク。


「考えすぎだ」


自分に言い聞かせた。


単なる偶然の配置だろう。


でも、偶然にしては整いすぎている。


これは、計画された配置だ。


何世代にもわたって、少しずつ作り上げられた巨大なシステム。


何かの目的のために。


水を制御するため?


いや、逆かもしれない。


水に制御されるために。

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